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内面に響くテーマを設定し、社員のモチベーションを高める

ニューズウィーク日本版 2016年3月25日 17時5分

※インタビュー前編:ノイズこそ大切に守るべき創造性の種

チームを超えたコミュニケーションを実現

 当社のミッションは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ことです。全ての社員に旺盛な創造力、イノベーティブな感覚を持ってもらうため、2015年2月に移転したオフィスでは随所に工夫を凝らしています。

固定席とフリーアドレスの両方を備えたハイブリッド型オフィス

 デスクワークのスペースとしては、社員1人ひとりの席が割り当てられた固定席とフリーアドレスの両方を用意しています。固定席スペースのデスクは長い一枚板で、足元に遮るものがありません。なので、人数が少ない時はゆとりをもって座り、人が増えてきたら臨機応変に席を増やすことができます。今のところ社員数に合わせて固定席は50席ほどですが、最大で150まで席を増やすことができます。組織の成長に応じて、オフィスそのものが成長できるようにデザインしました。

【参考記事】シェアリングエコノミーで人をつなぐ、オランダ発のコワーキング

 また、オフィスのあちこちにあるソファ席やチェア席、仕切りで独立した集中エリア、個室感覚のフォンブース、靴を脱いであがるフリースタイルゾーンなど、どこで仕事しても構いません。固定席とフリーアドレスの両方を備えたハイブリッド型のオフィスで、社員それぞれの好みや事情に合ったワークスタイルを自由に選べるようにしています。

 ちなみに固定席で1つのチームはデスクを囲むのでなく、背中合わせになっています。事務系の職種だと対面の方がいいかもしれませんが、技術者同士の打ち合わせでは画面を一緒に見た方が話が早く進みます。どんな現象が起きているのかが一目瞭然ですからね。背中合わせで1つの島というのは独特かもしれませんが、これも創造性や生産性を重視した結果なんです。

コーヒースタンドはあえてオフィスの隅に

 クリエイティビティの創発を促すため、社員同士の偶発的なコミュニケーションを演出する仕掛けも随所に盛り込みました。

【参考記事】試作すらせずに、新商品の売れ行きを事前リサーチするには?

鈴木氏が描いたオフィスのデザイン画。固定席とフリーアドレスのなめらかなつながりを示した。

コーヒースタンドは一息つきながら社員同士の交流を図る場になっている。奥に見えるのはキッチン。

 例えば、コーヒースタンドはオフィスの隅に設けました。コーヒーを飲むためにはフロアを横断しなければならず、その過程でさまざまな接触が生まれるようにと考えました。コーヒーができるまでのちょっとした時間に待っている社員の間で交わされる雑談も、大事な"ノイズ"になっています。

 また、イベントスペースでは週3~4回ほどのイベントが開催されていて、少なくとも週1回は外部の有識者を招いての講演など100人以上の規模のイベントが開かれています。これほどイベントを重視しているのは、良質なコミュニティ作りにつなげたいという思いから。ちなみに、ここも業務スペースと同じく壁全体をホワイトボードにして議論の活性化に役立てています。

 イベントスペースは、日中は社員食堂「SmartKitchen」となります。おいしくて健康的な食事を提供していて、社員は無料で利用できます。テーブルは大きく8人掛けの席にして、違うチームの人との相席の機会を提供しています。チームを超えたコミュニケーションが実現するわけです。

社員に教養を身体化してもらうための特別な空間

 ミーティングができる小部屋も9室あるのですが、この会社では形式ばった会議よりも立ち話やカジュアルなトークが推奨されているので、あまり使いません。打ち合わせもフリーアドレスのスペースで行うことの方が多いですね。今のところ、これらの小部屋は採用面接用のインタビュールームや、サンフランシスコやニューヨークのメンバーとの会議で使っています。

 ほかにユニークなスペースとしては、「チューリングの部屋」が挙げられるでしょうか。アラン・チューリング* をテーマとした本棚のあるスペースです。

日中はランチの場所となるイベントスペース。

 きっかけは2014年12月、独立研究者の森田真生さんによるチューリングをテーマとした社員向けの講演会を開いたことです。盛り上がった社内の有志が4つの勉強会を立ち上げ、原論文を読んだり、エニグマ(暗号機)を調べたりしました。その成果も含めて、森田さんを中心に選書した本を置いたのがこのスペースです。社員にアルゴリズムや人工知能、ジャーナリズム、政治哲学などについての教養を持ち、さらにそれを身体化してほしいという僕の思いが反映されています。

人が密集していると脳も身体も疲弊する。ゆとりある空間でこそ能力を発揮できる


 写真で見ていただくと分かると思いますが、オフィス全体がすっきりと品のいいデザインでまとめられています。これはオフィスデザインの統括ディレクターを担当していただいた株式会社REの代表取締役社長でボタニカルデザイナー・江原理恵さんの尽力も大きいです。

 社員全員へのヒアリングを通してデザインをまとめ、全ての家具をセレクトしていただきました。江原さんはスマートニュースのメンバーと一緒に仕事をしていたことがありますし、前のオフィスのデザインも担当してもらっています。どういう人たちがどういう仕事の仕方をしていて、どういう課題を持っているかをよく分かっているんですね。

 信頼できるパートナーがいるのは心強いこと。おかげで僕らのモノづくりをより高いレベルへ引き上げてくれる良質な空間を作ることができました。

高い目標設定で挑戦意欲をかきたてることも意義がある

 オフィスの居心地がいいと社員の気がゆるむのではないかという声もありますけど、それは本質を外した議論ではないかと思います。気のゆるみは居心地より人口密度の高さが招くものではないでしょうか。

アラン・チューリングをテーマとした書籍で構成される「チューリングの部屋」。

フリースタイルゾーンでは小規模なミーティングも行われる。

 例えばライブハウスとかサッカースタジアムの観客席など、人が密集していると熱気や熱度が上がりますね。一時的には熱狂してテンションが上がるけれども、やがて脳も身体も疲弊していく。それは人間の生理的な反応です。だから、オフィス空間もゆとりあるデザインの方がストレスなく快適に仕事ができるし、創造性も生産性もアップすると思います。

 何より、仕事のモチベーションに影響するのはオフィスのあり方よりも、やりがいがあるかどうかではないでしょうか。それも報酬や昇格といった外的モチベーションではなく、仕事の内容、本人にとって意味があるかどうかといった内的モチベーションが重要です。高い目標設定で挑戦意欲をかきたてることも意義があるでしょう。

 いずれにしろ本人がやりがいを感じていれば、どういう環境だろうとしっかり仕事するはず。そう考えると、結局は社員1人ひとりのやりがいを会社が適切に与えられているか、内面に響くテーマを設定できているかどうかが問われると思います。

「SmartNews」というニュースアプリが世界に提供できる価値はまだまだ計り知れないものがあると思うので、その意味でここはやりがいに満ちた職場だと思います。だから居心地のいいオフィスでも、みんなだれることなく仕事に邁進できているんじゃないかな。

 今後も国内外でみんながびっくりするようなイノベーションを起こしていきたい。さらなる海外展開も視野に入れつつ、良質なモノづくりを続けていきたいと思っています。

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(2015.11.16 渋谷区のスマートニュース本社オフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Takafumi Matsumura

スマートニュース株式会社は、独自開発のウェブ解析技術を基盤に各種ニュースメディアと連携したニュースアプリ「SmartNews」を150カ国以上に展開、ダウンロード数は世界で1500万を超えている。サンフランシスコとニューヨークにも拠点を持つ。代表取締役は鈴木健、浜本階生の両氏。2012年6月設立。
http://about.smartnews.com/ja/

* アラン・マシスン・チューリング(Alan Mathison Turing)
1912~1954年。イギリスの数学者、論理学者、暗号解読者、コンピュータ科学者。


鈴木健(すずき・けん)スマートニュース株式会社 代表取締役会長 共同CEO。1998 年慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。2009年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。情報処理推進機構から天才プログラマーに認定。著書に『なめらかな社会とその敵』(勁草書房)。東京財団研究員、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター主任研究員等歴任。現在、東京大学 特任研究員。2006年株式会社サルガッソー設立。2012年スマートニュース株式会社(旧:株式会社ゴクロ)を共同創業。


※当記事はWORKSIGHTの提供記事です





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