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【再録】マイケル・ジョーダンは私を抱きしめて言った

ニューズウィーク日本版 2016年3月25日 18時40分


ニューズウィーク日本版 創刊30周年 ウェブ特別企画
1986年に創刊した「ニューズウィーク日本版」はこれまで、政治、経済から映画、アート、スポーツまで、さまざまな人物に話を聞いてきました。このたび創刊30周年の特別企画として、過去に掲載したインタビュー記事の中から厳選した8本を再録します(貴重な取材を勝ち取った記者の回顧録もいくつか掲載)。 ※記事中の肩書はすべて当時のもの。


※この記者によるインタビュー記事はこちら:【再録】マイケル・ジョーダンの思春期、ビジネス、音楽趣味......


 このインタビューを行った97年当時、マイケル・ジョーダンは世界でも指折りのスーパースターだった。私が彼と初めて会ったのはその1年前。最初の引退から復帰して数試合目のころだ。

 私はそれまで、あまり彼に好意をいだいていなかった。応援しているデトロイト・ピストンズがジョーダン率いるシカゴ・ブルズに痛い目にあわされていたし、テレビや新聞で目にする彼の気取ったコメントも鼻についた。

 バスケットボールシューズ「エアジョーダン」をめぐる騒ぎも記憶に残っていた。高価なシューズ欲しさに若者が殺人事件を起こすなど、社会現象になっていたにもかかわらず、ジョーダンはなんの呼びかけも、ナイキに値下げを働きかけることもしなかった。

 私にはそれが我慢ならなかった。共通の知人を介して会うことになったときも、とくに思い入れはなかった。

 しかし、自己紹介しながら片手を差し出すジョーダンの姿に、私はとにかく圧倒された。テレビや雑誌でよく目にしていた笑顔と魅力は最初の瞬間から輝きを放ち、握手は誠実で力強かった。そしてこちらの目を真っすぐ見たまま、私の名前を復唱した。まるで、次に会うときのために覚えておこうといわんばかりだった。

 私は単独インタビューを申し込んでみたくなり、共通の知人から、ジョーダンの秘書のジャッキーの連絡先を教えてもらった。おかげで手ごわいスポーツエージェントや、毎日数千件の取材申し込みに追われるブルズの広報を通さずにすんだ。

 ジャッキーに連絡を取ると、2日ほどで返事が来た。シカゴに来て数日滞在すれば、ジョーダンはなんとか時間をつくるという。

 私はシカゴへ飛んだ。2日後だったか3日後だったか、ブルズのジムでトレーニングを終えたジョーダンは私と向き合った。

 インタビューの間、彼の犬(闘犬だった)が周りをうろうろしていた。私が少し怯えていることに気づくとジョーダンは犬を外に出し、私に謝った。

 以来、私は毎月シカゴに通うようになった。試合会場までジョーダンの車に同乗し、ロッカールームまで並んで歩くことが試合前の「儀式」になった。

 理由はともかく、ジョーダンは心から私を気に入ってくれていたようだ。インタビューを断られたことはない。必ず10分ほど時間をつくってくれた。

次のジョーダンは現れない

 97年9月のインタビューは、ニューヨークのセントリージス・ホテルで行った。ジョーダンはいつものように力強く私を抱き締め、「再会できてうれしい」と言った。ナイキから来た代理人と、ジャッキーとは別の秘書も同席した。

 このときニューズウィークは、ジョーダンの少年時代など他のメディアに報じられていない部分を誌面化したいと考えていた。バスケットボール以外の話を聞くのは初めてだったので、私は少し緊張していた。だがジョーダンはいつもどおり落ち着き、気配りを忘れず、よどみなく答えていった。思春期のころの話や、よく聴く音楽の話も飛び出した。

 少年時代の写真を借りたいと頼むと、後日、エージェントから焼き増しではなくオリジナルが送られてきた。小学1年生のジョーダン、リトルリーグ時代のジョーダン......。

 これまで多くのアスリートにインタビューをしてきたが、ジョーダンは最も人当たりがよく、洗練されたスーパースターの一人といえる。彼は世の中にとって自分がどのような存在であるかをよく理解していた。ファンを満足させることが自分の義務だと認識し、笑顔で務めを果たした。

 もちろん欠点もあるが、ジョーダンのようなスターはもう現れないだろう。

[筆者]
アリソン・サミュエルズ Allison Samuels
96年よりロサンゼルス支局に勤務。黒人社会の世代間ギャップに迫った本誌記事(協同執筆)で97年に黒人ジャーナリスト協会賞を受賞

※この記者によるインタビュー記事はこちら:【再録】マイケル・ジョーダンの思春期、ビジネス、音楽趣味......

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[2006.2. 1号掲載]
アリソン・サミュエルズ(スポーツ、エンターテインメント担当)

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