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【再録】J・K・ローリングはシャイで気さくでセクシーだった

ニューズウィーク日本版 2016年3月28日 17時39分


ニューズウィーク日本版 創刊30周年 ウェブ特別企画
1986年に創刊した「ニューズウィーク日本版」はこれまで、政治、経済から映画、アート、スポーツまで、さまざまな人物に話を聞いてきました。このたび創刊30周年の特別企画として、過去に掲載したインタビュー記事の中から厳選した8本を再録します(貴重な取材を勝ち取った記者の回顧録もいくつか掲載)。 ※記事中の肩書はすべて当時のもの。


※この記者によるインタビュー記事はこちら:【再録】J・K・ローリング「ハリー・ポッター」を本音で語る


 今から6年前、シリーズ第4作『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』刊行の直前、私はJ・K・ローリングにインタビューする機会を得た。この世界一有名な作家が私の書評の愛読者で、「アメリカでインタビューを受けるなら、相手はマルコム・ジョーンズでなきゃいや」と言ってくれたのなら、どんなにいいだろう。だが、現実はそんなに甘くない。

 実はニューズウィーク編集部の幹部と「ハリポタ」のアメリカにおける出版元スカラスティック社の幹部が何カ月も話し合い、発売に合わせて第1章をニューズウィークに掲載することが決まった。ニューズウィークが誌面にフィクションを載せるのは、前代未聞のことだった。賢い読者はもうお気づきだろう。私の独占インタビューは、抜粋掲載の「おまけ」だったのである。

 たまたま本が発売される1カ月前に、ローリングはニューハンプシャー州ハノーバーのダートマス大学で名誉学位を受けるため、アメリカに来ることになった。私たちはハノーバーで落ち合って、インタビューを行うことにした。

 よく晴れた5月の土曜日、私は人目を忍んで売れっ子作家と会うためハノーバー・インのロビーにいた。テープレコーダーが動くかどうか確かめて、クリス・モランの部屋に電話する。モランは今回の滞在中に出版社がローリングの世話役としてつけた女性だ。普通は作家にインタビューするとき、わざわざ「付き人」を介したりしないが、ローリングは普通の作家ではなかった。

 後日、よく聞かれたものだ。「ローリングはどんな女性だった?」。みんな「ひどい女だった」とか「高慢ちきだった」という答えを期待しているのだが、実際は違った。ローリングは気さくでユーモアがあり、とても賢い女性だ。子供の本の作者にこういうことを言っていいかどうかわからないが、セクシーな女性でもあった。

 インタビューの間、ほんのわずかであれ、不快感らしきものを見せたのは、イギリスのメディアについて語ったときだけだ。ローリングの話を聞くかぎり、イギリスのマスコミはかなり質が悪い。

 幼い娘の写真を盗み撮りしようと家の前に張り込んだり、別れた夫を捜し出して取材したり。ローリングはただインタビューが苦手で、私生活を語ることはもっと苦手なだけなのに、メディアは寄ってたかって彼女をいじめた。

JFKの弟ロバートに夢中

 皮肉なことに、質問攻めにせずに黙って話を聞けば、ローリングは自分から話してくれる。部屋で1時間ほど話し、写真撮影のために会議室に場所を移し、その後ランチに下りて、食後のコーヒーを飲むうちに、彼女はようやく告白してくれた。ロバート・ケネディの熱烈なファンだったことを!

 ゴシップのネタになるような話ではない。JFKの弟ロバートが亡くなって、この時点ですでに32年たっていた。それでも、ハリーやホグワーツの生みの親がケネディに夢中だったと知って、私は驚きのあまり二の句がつげなかった。ローリングはケネディの墓参りまでしたという。

 インタビュー中に出てきたゴシップ風の裏話は、せいぜいこの程度。強いて言えば、あとはローリングが運転免許をもっていないことくらいなものだった。

 翌日、私はダートマスの卒業式に列席し、彼女が学位を授与されるのを見守った。参列者のなかには若い読者はそれほどいなかったようだ。ローリングには大きな拍手が送られたが、とりたてて騒がれることはなかった。

 だが、彼女の次の人物の名前が呼ばれると、どよめきが起きた。伝説的な大リーガー、ハンク・アーロンである。私はしまったと思った。アーロンも名誉学位を受けると知っていたら、ローリングに頼んでサインをもらったのに!

[筆者]
マルコム・ジョーンズ Malcolm Jones
書評のほか、アートも担当。01年には村上春樹に『アンダーグラウンド』についてインタビューしている。共著に児童書『ジャンプ!』がある

※この記者によるインタビュー記事はこちら:【再録】J・K・ローリング「ハリー・ポッター」を本音で語る

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[2006.2. 1号掲載]
マルコム・ジョーンズ(書評担当チーフ)

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