Infoseek 楽天

ようやく開業にこぎ着けた北海道新幹線の今後の課題 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2016年3月31日 19時50分

 3月26日、北海道新幹線の「新青森=新函館北斗間」が開業し、青函トンネルを通って東京と北海道が直結しました。青函を通る首都圏と北海道の直通列車としては、これまでの在来線時代も夜行特急の「北斗星」や「カシオペア」がありましたし、青函トンネル開通直後の1988年から数年間は、「特急はつかり」が函館までの直通運転をしていたこともあります。

 ですが、この日から東京駅では「4分間隔」で出発する「東北・上越・北陸・北海道・山形・秋田」新幹線の案内板に「はやぶさ 新函館北斗」という表示がされて、定期列車だけで1日10往復が「東京=新函館北斗」を直通することになります。(繁忙期は3本の臨時便が追加されて一日13往復になります)

 本州と北海道の交通手段としては、まったく新しい時代となったわけですが、この北海道新幹線については、今後へ向けて解決しなくてはならない課題がたくさんあります。開業はスムーズなスタートが切れたと思いますが、これからは課題を一つ一つ「潰していく」作業が必要です。

【参考記事】ようやく発表された「北海道新幹線車両」、しかしまだまだ問題は山積

 1つ目は、新幹線の終着駅である新函館北斗から、函館市内へのアクセス体制です。札幌延伸を前提としてルート決定をした結果、新駅は函館市内ではなく隣接する北斗市(旧大野町)の旧渡島大野駅を改名して開業しました。函館駅までは約18キロの距離で、このうち「五稜郭=新函館北斗」の間は非電化区間だったのを今回の新幹線開業に合わせて電化工事が行われました。

 この区間には新幹線へのアクセス列車として「はこだてライナー」という電車が走っています。この「ライナー」ですが、途中五稜郭駅にしか停車しない快速だと15〜19分、各駅停車だと19〜22分かかります。開業後、函館まで2往復した私はこの区間も4回乗りましたが、基本的にはスムーズでした。ですが、全線電化したとはいえ、途中の七飯(ななえ)と新函館北斗の区間は単線で「すれ違えない」のと、藤城線という別の線との行き違いもあるので、信号待ちが発生するなど、多少「のんびり」したところがあります。

 この「アクセス列車」の体制ですが、「信号待ち」よりも大きな問題は「そもそものダイヤ」が「10分~20分の待ち時間」を織り込んでいるということです。厳冬期には札幌方面からの列車が遅延する可能性があり、また貨物列車も走ることから、先ほどの「七飯駅での信号待ち」が発生する、そうした場合に、「万が一新幹線に乗り遅れると次の新幹線は1時間から1時間半待ち」になるという中では「万事余裕ダイヤを」ということになるのです。

 ですが、開業初日でもかなりの混雑・混乱が出ていましたし、これで連休にお客さんが殺到するようなことになれば、相当な混乱は覚悟しなくてはなりません。短期的には「アクセス区間では、特急『北斗・スーパー北斗』への乗車を特例で認める」「アクセス列車の切符の販売を効率化する」といった対策が必要となるように思います。

 さらに初夏から夏・秋の「北海道の観光シーズン」へ向けて乗客数が手堅い推移をするようであれば、ダイヤの見直しや「ライナー」の全面6両化などを行い、それでも「嬉しい悲鳴」が続くようなら、七飯までの複線化を真剣に検討すべきと思います。

 2番目は、厳冬期への準備です。今回の開業は、通常は「3月第2週」であるJRグループのダイヤ改正を2週間遅らせて、3月下旬にしたわけですが、とにかく「本格的な降雪」を避けて開業したいという目論見があったわけです。結果的には上手く行ったわけで、厳冬期対策の準備には今後7カ月の猶予が与えられた形となりました。この間に、しっかりと準備をしなくてはなりません。

 具体的には、本年の1~2月にJR北海道が行った「新幹線の冬期総合検証」では、ポイントが凍結して不転換を起こすという事象が14例報告されています。これは、やはり大変な問題であり、これまでも多重的な対策を講じてきたのですが、暖かい季節の間にさらに対策を一歩進めておかなければなりません。

 3番目は「高速化」です。現在は、貨物列車との「すれ違い時の気圧変動問題」から、新幹線の青函トンネル内の最高速度が140キロに抑えられていますが、これでは、トンネル通過に25分もかかってしまうわけです。ですから、2030年度に予定されている札幌延伸時までには、この速度規制の問題をクリアすることは必須です。

 現在の青函トンネルは貨物の大動脈となっており、これを止めることはできません。そんな中で、安全を確保しつつ新幹線のスピードアップを図るというのは、大変な難題です。まずは、2年後までに「貨物の走らない時間帯」を設けて、一日の数便だけ「速達型」を走らせるという構想がありますが、これも前後の安全確認の体制などノウハウとしては完全に確立されたものではありません。

【参考記事】「ディーゼル特急を守れ」、JR北海道のギリギリの闘い

 筆者は、新幹線車両で青函を4回通りましたが、長大な貨物列車とのすれ違い時には相当な轟音が発生しましたし、断面積の大きな新幹線同士のすれ違い時には、在来線の「スーパー白鳥」時代には感じられなかったような横方向のショックを感じました。(もちろん、東海道をはじめ、これまでの新幹線のトンネルではいくらでも起きていることで、安全性には何の問題もありません)

 まったく主観的な印象ですが、140キロではまったく不安感はないものの、これを260キロまでスピードアップさせる場合には、「安全なすれ違い」技術を積み上げていかなくてはならないということは、実感させられました。

 そんなわけで、今回の開業の成功は、到達点ではなく「課題解決へのスタート」だとも言えます。そうした課題を一つ一つ乗り越えて行くことで、寒冷地における高速鉄道や、貨物と高速鉄道の混在という問題に関する、日本の鉄道技術の蓄積がされていくことを期待したいと思います。

この記事の関連ニュース