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ケリー国務長官の広島献花は、米世論の反応を見る「アドバルーン」 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2016年4月6日 11時0分

 来週10日と11日に伊勢志摩サミットの準備会合として、G7外相会合が広島で開かれます。その際に、岸田外相の呼びかけで「広島宣言」が出される方向で調整が進んでいます。また、この機会にG7外相が広島の原爆慰霊碑に公式に献花をすることが発表されました。

 これは、2つの点で画期的だと思います。まず、NPT(核拡散防止条約)の中で認められている核保有国5カ国の中で3カ国、つまり米英仏の外相が、広島献花を行うというのは、これまでになかったことでした。とりわけ、米国のケリー国務長官が献花を行うということは、広島への核攻撃を行った当事国の現職外相として初めての献花となります。

 もう1つの点は、このG7外相献花が成功裏に終わるのであれば、それは次のステップ、つまり伊勢志摩サミット来日時におけるオバマ大統領の広島献花に結びつくという点です。今回のケリー国務長官による献花というのは、そのために世論の反応を見る一種の「アドバルーン」という位置づけもあるからです。

 現時点では、TVニュースも新聞も冷静に伝えています。例えばヤフーが配信しているAFPの解説が典型です。

 ここでは、オバマ大統領の献花の可能性について検討がされているが結論は出ていないこと、ケリー長官の献花は公式の行事として決定していること、これまで日本は長年にわたって主要国首脳に対して広島・長崎を訪問するよう求めてきたことなどが簡潔に表現されています。

【参考記事】被爆70年の日米の核軍縮政策を考える

 また広島での被爆による犠牲者は14万人とし、アメリカ国内では「大戦の最終段階における核攻撃が正当化されるかどうかについては国論を二分している」という指摘もされています。まさに、オバマ献花へとつながるテストケースとして、世論の反応を注視しているというわけです。

 では、どうして昨年の「第二次大戦終結70年」同時に「被爆70年」の際には、同様の献花は実現しなかったのでしょうか? また、どうして1年後の現在には少なくとも現職国務長官の献花が可能になっているのでしょうか?

 そこには微妙なタイミングの問題があると思います。

 まず、昨年の場合は、中国とロシアが早々に「戦後70年」を国威発揚、しかも軍事パレードという形で利用しようとしていました。ですから、仮に8月6日の慰霊式に米国側が大使だけでなく、国務長官や大統領の献花を検討したとしたら、これは極めて政治的なニュアンスになっていた可能性があります。

 それでも70年献花をやった方が良かったと私は思いますが、比較をするのであれば、昨年よりも今年のほうが「中ロに対抗する」というような政治的なニュアンスを避けることができるのは事実です。

 一方で、NPT体制に挑戦する核拡散の動きについては、イランについては当面の合意ができたということがありますし、一方で北朝鮮の問題は深刻化していますが、こちらは問題を封じ込めるための中国との連携は、昨年より今年のほうがはるかに強固になっている状況があります。

 こうした一連の動きの結果として、戦後70年という記念すべき年であった昨年よりも、今年は「純粋な追悼・純粋な核戦争抑止」という意味合いでの献花ができるようになっている、そう考えることができます。

【参考記事】オリバー・ストーンの広島・長崎訪問は、オバマ「献花」への布石になるか?

 妙な話ですが、共和党のトランプ候補が「日韓が駐留米軍の費用負担を増額しないのなら米軍を引き揚げる、その場合は両国に核武装を許す」という荒唐無稽な提案をしたことも、タイミング的にはプラスになったと思います。

 あの「暴言」については、アメリカでは「その提案がいかに荒唐無稽か」ということについて、日韓両国政府の公式見解と共に報道されています。また、その報道の中では、戦後の日本が被爆国でありながら、いや被爆国だからこそ、核武装という選択肢を排除して地域の安定に貢献してきたことがあらためて報じられているからです。

 ケリー国務長官を含むG7外相による慰霊碑献花が厳粛に行われ、アメリカの世論からも冷静に受け止められることで、5月のオバマ大統領来日時の広島訪問・献花へと自然な流れができるよう、静かに見守りたいと思います。

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