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トランプ独走態勢が崩れ、複雑化する共和党予備選

ニューズウィーク日本版 2016年4月7日 11時45分

 今週、中部のウィスコンシン州で行われた予備選では、事前の予想通りとはいえ、民主、共和両党ともに予備選レースのトップを走る候補が敗北するという結果になった。これが様々な波紋を投げかけている。

 まず民主党ではバーニー・サンダース候補が56.5%を獲得し、43.1%の得票率だったヒラリー・クリントン候補に対して2桁の差をつけて勝利した。代議員数ではヒラリー優位に揺るぎはないが、直近で行われた8州の予備選のうち7州で勝利するなど、サンダースには勢いが出てきている。

 こうした結果を受けてアメリカメディアは、サンダースが勢いをさらに付けて、この先のニューヨーク州予備選(4月19日)でも勝利するようなら、ヒラリー支持を表明しているスーパー代議員(各州の党幹部、議員など)の中にも動揺が生まれて「大逆転」もあり得るなどと「煽る」報道が出始めている。

 だが世論調査では、ニューヨークだけでなく、同じく大票田のペンシルベニアやカリフォルニアでも、ヒラリーは2桁の差でサンダースを圧倒しているし、スーパー代議員の翻意というのは非現実的だ。その意味で、今回のウィスコンシンにおけるサンダースの勝利は、選挙戦をもう少し長引かせて「民主党に対するメディアの注目」を引っ張る効果ぐらいしかないという見方が妥当だろう。

【参考記事】トランプに勝てるのはクリントンよりサンダース?

 その一方で、気になる点もある。ここへきて勢い付いたサンダースは「民主社会主義者」の本領を発揮するかのように、大企業批判を続けている。例えばアップルに対しては「中国での生産を止めて米国内での生産に切り替えよ」と主張、さらには90年代以降ずっと民主党の「グローバル経済戦略」と連携してきたGE(ジェネラル・エレクトリック)に対しては「米国内雇用を流出させた犯人」だとして批判を強めている。

 こうした言動は、左派ポピュリズムだと言ってしまえば、それまでだが、例えば各選挙区での議会下院の民主党議員の選挙戦などには影響を与える可能性がある。そうした主張で当選した議員が増えると中道実務派的な政権が出来た場合には、「抵抗勢力化」することも考えられるからだ。

 一方で、共和党の方はますます「異常事態」となってきた。テッド・クルーズ候補の勝利は下馬評通りだが、問題は得票率だ。クルーズ48.3%、トランプ35.1%、ケーシック14.1%という数字は、明らかにトランプ「失速」の兆候を示している。

 また、今回の敗北で、ドナルド・トランプ候補としては「7月の党大会以前に代議員数の過半数となる『マジックナンバー1237』に到達」する可能性が少なくなってきた。

 純粋に数字の問題として見ても、トランプは、以降の予備選で残る代議員数の55%を獲得しないと「マジックナンバー」には届かないが、一部に「勝者総取りでない」州があること、ニューヨーク、ペンシルベニア、カリフォルニア、ニュージャージーなどを全勝することはほぼ不可能であることを考えると、余程の「勢いの再建」ができないと難しい。

 共和党では「トランプが1位だが過半数は取れない」のが濃厚になってきた中で、党大会の現場で「代議員の自由投票」による候補指名というドラマが起きる可能性が濃厚となってきた。なおこうした「自由投票による候補指名」については、今回は「コンテステッド・コンベンション[contested convention]」という言い方が主流になって来ている。

【参考記事】トランプ旋風を生んだ低俗リアリティ番組「アプレンティス」

 こうした動きに対して、トランプ陣営は激しく反発しているが、その陣営内で不協和音が生じているという報道もある。予備選も最終段階を迎え、「そろそろ威風堂々と大統領らしい言動に変えた方がいい」という意向がトランプの家族の側からは出ている一方で、選対の方では「暴言を含むアウトサイダー的なキャラクターは変えられない」と主張していて、内部に確執が生まれているのだという。

 そうした報道自体が、共和党の全国委員会の意向を受けた意図的なものという可能性もあるが、いずれにしても現時点では明らかにトランプの勢いは鈍ってきた。では、今回勝利したクルーズはと言えば、勝ったことで「自分こそ統一候補にふさわしい」と自信満々だ。だが共和党の全国レベルとしては、保守派「だけ」に強いクルーズは「本選で勝てる候補」とはまったく思われていない。

 と言うことは、共和党の全国委員会は、「トランプ降ろし」と同時に「クルーズ降ろし」もしなくてはならないわけで、今後の党内抗争がより複雑化するのは避けられないだろう。ウィスコンシン州の結果で、これまでのトランプの独走態勢は崩れ、予備選は最終局面に向けた新たな段階に入った。


<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>

≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫

冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)

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