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G7外相会合に、中国激しい不快感

ニューズウィーク日本版 2016年4月11日 18時59分

 10日と11日に広島で開催されたG7外相会合に関して中国は、「広島を選んだのは戦争責任を帳消しにするためで、日本がG7に力を入れるのは国連安保理常任理事国でないのを補うため」としている。南シナ海問題に関しても強く抗議。

中国はそもそもG7が気に入らない

 G7(Group of Seven)は先進7か国「米・英・仏・独・日・イタリヤ・カナダ」により構成されており、中国が入っていない。2013年まではロシアが入っていてG8だったが、ウクライナ問題(クリミヤ半島問題)で外され、今はG7となっている。

 中国はそもそも「先進7か国」だけが集まる会合に対して、非常に否定的だ。

 中国が入っていないG7は前世紀的存在で意味がないと断言し、重視していない。

日本がG7を重視する理由を国連安保理常任理事国と関連付け

 中国は日本がG7会合を重視する理由を、日本が世界先進国の隊列にありながらも、国連安保理(安全保障理事会)常任理事国の誕生の経緯から、日本が常任理事国に入ってないことを埋め合わせるためだと解釈する傾向にある。

 国連安保理常任理事国は、「反ファシスト戦争」の戦勝国によって構成され、日本はむしろ安保理常任理事国によって「監視される対象」の国であり、中国は戦勝国として「日本を監視する側」の国であるという位置づけが、中国政府や中国識者の中で共有されている(もちろん戦勝国は当時の「中華民国」であって、現在の中国=中華人民共和国はその「中華民国」の蒋介石・国民政府を倒して、4年後に誕生した国で、国家としての戦勝国ではないが、この「4年間のずれ」という事実は「デリート」している)。

 しかしG7ならば「反ファシスト戦勝国」と関係なく、「先進国」という概念でくくられているので、日本はこのG7を、どの国よりも重視しているのだと、中国は見る傾向にある。

広島を開催地にするのは加害者から被害者への「ごまかし」

 核のない世界に向けて核兵器不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons : NPT)に実効性を持たせるためには、被爆した世界唯一の国である日本の広島や長崎の惨状を実際に見てもらうのは非常に重要だと、常識ある人は思うだろう。

 しかし中国では思いもかけない論調が巻き起こっている。

 それは「広島に関心を集めることによって、被害者の国であることを強調し、加害者の国であった事実を薄めようとする試みだ」とする糾弾である。この視点は中国のネットでは非常に多く見られ、ときにはテレビの時事対談などでも見かけられるものだ。あの戦争は日本が起こしたものであり、「誰がまちがいを犯したのか?」という歴史的事実を捻じ曲げ、後世に正しく教訓を残すことを妨げるという発言が多い。

南シナ海問題を論ずることこそ、地域の平和を乱す

 中国は一貫して、南シナ海問題をG7で取り上げることを激しく非難しており、「G7でこの話題を取り上げることこそが、逆に地域の平和を乱す」ものとしている。

 4月8日にも、中国の王毅外相がドイツのシュタインマイヤー外相と会談したあとの共同記者会見で「われわれは一部の国が政治的な理由から、南シナ海にわざといざこざを引き起こし、一方の肩を持って緊張を作り出すことを認めない」と強い語調で表明したが、この「一部の国」とは「日本とアメリカ」を指している。

 事実、国名を名指しした「評論」は中国のネットに溢れており、「アメリカがアジア太平洋におけるリバランス政策を取っているため、南シナ海問題に関して言いがかりをつけ、アジア回帰のための口実にしている」という論評が目立つ。

 日本はアメリカに追随しているので、南シナ海問題で歩調を合わせ中国に脅しをかけようとしているとしている。アメリカがオーストラリアやフィリピンなどと合同軍事演習を展開して中国を国際的に孤立させようとしており、日本の安倍政権はアメリカの軍事的野心を達成するために憲法9条を変えようとしており、安保関連法案はその第一歩だと糾弾。

広島宣言

 もしG7外相会合閉幕に当たって採択される「広島宣言」に、南シナ海問題が含まれていれば中国は黙っていないという勢いで、中国は広島宣言の成り行きを見守っていた。

 しかし会合期間中、南シナ海問題に関して討議はされたが、広島宣言自体はあくまでも核軍縮と不拡散に特化した独立文書になっていた。

 11日午後に閉幕したG7外相会合が「核のない世界」に向けた決意を表明した広島宣言では、「原爆投下を極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難」と表現して核軍縮の必要性を訴え、「各国の指導者に被爆地の広島や長崎への訪問を促す」としている。

 南シナ海問題に関して盛り込まれていないのは、中国への配慮だろう。

 広島宣言とは別に出された共同声明にも書かれておらず、それらと独立して出された海洋の安全性に関する声明においてのみ、「ひっそりと」明示されただけだ。

 中国の中央テレビ局CCTVでは、南シナ海問題を何としても取り上げようとしているのは、あくまでもアメリカと日本で、ヨーロッパなど他の参加国は中国と友好的なので、本当は南シナ海問題など取り上げたくなかったのだと報道している。

 特にヨーロッパ諸国にとって南シナ海問題は大きな問題ではなく、むしろテロの脅威の方が圧倒的に大きく、いやいや日米にお付き合いしているに過ぎないと、得意げだ。このことを証拠づけるために、わざわざG7外相会合前にドイツのシュタインマイヤー外相を北京に招聘し、共同記者会見を開いて、シュタインマイヤー外相と肩を並べる形で「G7外相会合で南シナ海問題を取り上げることに絶対反対」と強調したものとみなすべきだろう。

 中国の外交戦略にまんまと引っかかる形で訪中し、王毅外相がこのようなことを発表する隣に仲良く立っていたドイツの外相は、果たして中国のこの戦略を知っていたのだろうか? こういった形でのけん制作戦に関して、中国が長けていることは、どの国の指導者も知っておくべきだろう。

 ただ、広島宣言では核保有国に対する「保有の透明性の向上」も要求しており、これは保有実態が不透明だと指摘されている中国を念頭にしていることを忘れてはならない。

 これに関しては、中国は触れていない。

 むしろ、アメリカの現役の国務長官が広島を訪問したことを「謝罪」と受け止めて、アメリカ国民の一部が反発している情報は、積極的に発信している。

 今後予定されている岸田外相の訪中と、G7伊勢志摩サミット(首脳会議)に参加するオバマ大統領が広島を訪問するのか否かに関して、中国がどう動くのか注目していきたい。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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