Infoseek 楽天

20代で資産10億、「アイデア不要論」を語る

ニューズウィーク日本版 2016年4月13日 18時9分

 このところ、まだ起業家マインドが足りないとされる日本でも、10代の起業家が増えている。彼ら若き起業家たちの活躍は、多くの面で参考になるだろう。だが、もしも彼らが、30代や40代、あるいはそれ以上の年齢の社会人に向けて「経営論」を振りかざしたらどうだろう。どれだけの人が素直に聞く耳を持つだろうか。

 何も"振りかざしている"わけではないだろうが、この人物の言葉は傾聴に値すると言えそうだ。正田圭、現在29歳。15歳の中学校在学時に株式投資を始め、まもなくインターネット事業で起業。10代で1億円の資産を手に入れるが、カジノにはまったり、詐欺師に騙されたりして一度は一文無しに。その後、未公開企業同士のM&Aサービスなどを展開し、20代で10億円の資産をつくったという人物である。

【参考記事】試作すらせずに、新商品の売れ行きを事前リサーチするには?
【参考記事】世界一「チャレンジしない」日本の20代

 ただ10代で起業したというだけではない。「経験豊富」というひと言では片付けられないほど強烈な体験を積み重ねてきており、「失敗から学べることはない」「起業は将来における自分の選択肢を狭める」「人脈はあまり重視しない」など、そこから導き出された痛いほどリアルな経営論はユニークで説得力がある。

 このたび、正田氏がその経験と経営論をまとめた新刊『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』(CCCメディアハウス)が刊行されたのを機に、同書から経営論を記したコラムの一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。

 以下、シリーズ第2回は、高校卒業後、SEO事業やホームページ制作事業で年商2億円ほどまで会社を成長させた正田氏が、詐欺師に騙され、韓国のカジノにはまり、ホテル暮らしで散財しながらも、次のステップを踏み出した頃の話から。育て上げた会社を売却し、「女子大生のフリーペーパー」などいくつかの事業に乗り出しながらも、改めて経営について勉強し始めた正田氏。ビジネスアイデアや戦略について、独自の考えを持つに至った――。


『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』
 正田 圭 著
 CCCメディアハウス


※シリーズ第1回:はったり営業もしていた若き起業家の「失敗論」

◇ ◇ ◇

アイデアとビジネス

 ビジネスにはアイデアが必須であり、業界の慣習を打ち破るようなアイデアが起業には一番大事だと言われたりしますが、本当にそうでしょうか。

 僕はポータルサイトをいくつもいくつも企画して運営していました。それらが成功した理由、失敗した理由を今振り返って考えてみると、アイデアが占める割合はそこまで大きなものではなく、その後の運営の仕方のほうが重要だった気がします。

 少し話は逸れますが、柔道の話をしてみましょう。



 柔道を熱心に練習した結果、一本背負いを覚えたとします。努力の成果が得られたわけですが、では実際にこの技を誰にでもかけられるかというとそれはまた別の話で、うまく一本背負いをかけられるかどうかは相手次第ということになります。

 この話は、ビジネスにも置き換えることが可能です。

 ビジネスアイデアや戦略が浮かび、これを具体化できれば絶対に儲かるはずだと確信したとします。この「アイデア」が、柔道の話で出てきた「一本背負い」です。

 技がかけられるかどうかは相手によって決まってくるのと同じで、いくらアイデアを具現化できたとしても、それが実際に売れるかどうかは、消費者の動向や競合他社の状況、もしくはテクノロジーや法改正などの外的要因にゆだねられることになるのです。「これはウチだけの唯一の商品だ」と思って開発した商品でも、大手に一瞬で真似され、低価格で販売されたら、ビジネスは窮地に立たされます。

 ビジネス運営というのは常に外的要因によって左右されるものであり、実に受動的なのです。

 確かに起業というのは、いくつかのアイデアや戦略があり、それを具現化して売り出したいという動機で始めることになるのでしょうが、それはあくまでもスタートした時点での話です。実際に起業して会社を経営するようになってからは、降りかかってくるトラブルや変わりゆく外部環境の中、次にどのような手を打とうかと後手に考えることのほうが多くなります。

 多くの人の意見とは異なるかもしれませんが、僕自身は、ビジネスにおけるアイデアや独創性、創造力はそれほど重要だとは捉えていません。

 それよりも大切なのは、知識量や認識力ではないでしょうか。業界や業界構造に関する知識、または市場のニーズなどに対する認識があれば、ビジネスの進め方がなんとなくわかってくるはずです。素晴らしいアイデアや戦略を持っていることよりも、適切な状況分析を重視し、今思い切って投資をすべきなのか、すべきではないのかという判断や、事業を方向転換すべきなのか、すべきではないのかの判断能力を高めるほうが優先度合は高く、特別なひらめきはさほど必要ありません。

 起業当時、僕はいいアイデアを思いついたらとても喜んでいました。ところが、証してみると、だいたい自分が思いつくようなアイデアはすでに他の誰かが具現化していたり、あるいは他の企業がいち早く試し、何らかの理由ですでに頓挫していたりするものばかりでした。また、いいアイデアだったとしても大手に真似されることを考えると手の打ちようがなく、実行するに至らないこともありました。いざ実行に移しても、業界の参入コストを見誤り大損した経験もあります。



 素晴らしいアイデアがあるからといって、それだけで商売がうまくいくというわけではないのです。

 こんなことを言うと、「じゃあ、最初に起業するときのアイデアはどうすればよいのか」という声が上がってきそうですが、僕は特別なアイデアよりも、単純かつ包括的な計画でいいと思います。

 極端な話、「今後スマホが普及するからアプリを作る会社をやろう」だけでもいいのです。ただし、儲かるアプリを思いついたとしても、自分にアプリを作る能力や開発会社にいた経験がなければアプリで儲けられる可能性は低いでしょう。逆にプログラミングができるのであれば、10個でも100個でもアプリを作ってみて、実際にダウンロード数が多いものを事業化していけばいいのです。ただ、包括的な計画でよいとはいえ、その計画の方向性が間違っていては致命的です。そこは大きなトレンドをつかみ損ねないように気をつける必要があります。例えばですが、人口推計はかなり信憑性が高い指標なので、人口推計を基に事業の概要を決めるのはいい計画だと思います。

 いいアイデアを捻り出そうとするあまり空回りしてしまう起業家も少なくありません。そのような起業のスタイルは、本来の起業のあるべき姿ではないと思います。

 起業の王道は、おおざっぱな計画でもいいから方向転換を柔軟に繰り返し、小さな成功体験を何度も何度も積み重ねていくことなのです。

※シリーズ第1回:はったり営業もしていた若き起業家の「失敗論」
※シリーズ第3回:一文無しも経験したから言える「起業=投資論」


『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』
 正田 圭 著
 CCCメディアハウス


この記事の関連ニュース