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ジカ熱は小頭症の原因とCDCが断定

ニューズウィーク日本版 2016年4月14日 15時34分

 米疾病対策センター(CDC)は13日、ジカウイルスが小頭症その他の先天性障害を起こすことを示す十分なエビデンス(疫学的な根拠)が得られたと発表した。CDCの研究チームは確立された科学的な基準を用い、既存のデータと論文を解析。蚊が媒介するジカウイルスの母子感染と新生児の脳障害に明らかな関連性があることを突き止めた。

 40余りの関連論文などを精査したCDCのメタ解析論文は、4月13日発行の医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに掲載された。既存の論文と個々の症例の共通点に加え、先天性障害の多発を説明できる他の要因がないことがジカウイルスとの関連性を断定する決め手となった。

小頭症以外の脳障害や発達障害も

「この研究はジカ熱の集団発生対策の転換点になる」と、CDCのトーマス・フリーデン所長はメディア向けの声明で述べている。「ジカウイルスが小頭症を引き起こすことがはっきりした。小頭症は母子感染が引き起こす障害のごく一部にすぎず、その他の脳の損傷や体のさまざまな部位の発達障害を抱える新生児が大勢生まれている可能性があり、引き続き調査を行う」

 CDCは妊娠中の女性や妊娠を望んでいる女性に流行地域への渡航を控えるよう呼び掛けてきたが、今回の解析でこうした対策の有効性が裏付けられたとして、フリーデンは「先天性障害を防ぐため万全の態勢で臨む」と宣言した。

 ブラジルでジカ熱の流行が始まってから1年足らず。頭蓋が異常に小さく、脳の発達が不完全な小頭症の新生児はこの間に報告されただけでざっと4000人に上る。13~14年に仏領ポリネシアで小規模の集団感染が起きたときにも、妊娠中にジカ熱に感染した女性から小頭症の新生児が生まれたケースが8例報告された。

WHOは2月に緊急事態を宣言

 世界保健機関(WHO)は2月初め、ジカウイルス関連の小頭症は「世界が懸念すべき公衆衛生上の緊急事態」だと宣言、各国が協力してジカ熱感染と流行地域における先天性障害の発生を監視する体制を構築するよう呼び掛けた。

 これまで単独の調査では、サンプル数が少ない、比較のための対照群がないなどの限界があり、ジカウイルスと先天性障害の関連性を確認できなかった。

 CDCの解析によると、ジカウイルスの母子感染は、重篤な小頭症だけでなく、脳の石灰化などの異常、視覚障害を起こす可能性のある目の形成不全、頭部の皮膚のたるみ、先天性多発関節拘縮症、内反尖足などを引き起こす。流産と死産のリスクが高まることも確認された。



 4月13日に発行されたイギリスの医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルには、CDCの解析結果を補強する論文が掲載されている。ブラジル北東部のペルナンブコ州で昨年7月から12月に生まれた小頭症の新生児23人の脳をCTとMRIで調べたものだ。

 検査の結果、脳へのダメージは「極めて重い」ことがわかった。また血液検査の結果から、先天性障害を引き起こしうる他の要因(トキソプラズマ症、サイトメガロウイルス、風疹、梅毒、HIV)がないことも確認された。

 CT検査では脳組織の石灰化が確認され、妊娠中のある時期にジカウイルスが胎児の脳の細胞を殺し、その部分に傷ができて石灰が沈着したのではないかと、研究チームはみている。体の動きを制御する小脳と脳と脊髄をつなぐ脳幹にも発育不全が認められた。

先天性ジカウイルス症候群

 脳の容積の縮小と脳内の腔の拡大に加え、一部の新生児では脳の皮質の形成不全が認められた。ミエリン(髄鞘)形成不全が疑われるケースもあった。ミエリンは導線を覆うビニールのように神経細胞の軸索を覆う膜で、神経細胞間の信号伝達をスムーズにする役目を果たしている。ミエリンが十分に形成されていないと情報伝達がうまくいかない可能性がある。

 この研究は疫学的な研究ではないが、CTとMRIで観察された病変は他の症例研究とも一致するものだ。研究チームはCDCと同様、小頭症は「氷山の一角」ではないかと結論付けている。多くの医師が臨床経験に基づいて指摘しているように、ジカウイルスは胎児にさまざまな障害を引き起こす。今ブラジルで猛威を振るっているのは単に小頭症を引き起こすジカ熱ではなく、「先天性ジカウイルス症候群」と言うべきものだ。


ジェシカ・ファーガー

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