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潘基文の舌禍でこじれる西サハラ問題

ニューズウィーク日本版 2016年4月21日 16時30分

 アフリカ北西部の西サハラ地域では、国連の潘基文(バン・キムン)事務総長の発言をきっかけに、モロッコ政府と国連のごたごたが続き、国連の平和維持活動(PKO)の継続が危ぶまれる状況になっている。PKOを継続できなければ、この地域で紛争が再燃し「全面戦争」に発展するおそれがあると、潘が警告していることが明らかになった。

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モロッコがこの地を「占領」

 西サハラ地域はスペインが1975年に領有権を放棄。独立を求める先住民の武装組織「ポリサリオ戦戦」がアルジェリアの支援を受けて「サハラ・アラブ民主共和国」の樹立を宣言したが、モロッコもこの地域の領有権を主張し、現在はモロッコがほぼ全域を実効支配している。

 潘は3月上旬、アルジェリアにある西サハラ難民キャンプを視察した際、モロッコがこの地域を「占領」していると発言。実効支配の正当性を主張するモロッコは潘に発言の撤回を求めたが、国連が応じなかったため国連西サハラ住民投票監視団(MINURSO)の要員の撤収を要求し、PKOへの拠出金の一部300万ドルの支払いを停止した。

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 西サハラでのPKOには現在、約250人の軍事要員が参加。予算は5300万ドルに上る。国連の仲介により停戦が成立した91年、この地域の帰属について住民の意思を問う投票を実施するため、国連安全保障理事会の決議でMINURSOが設置された。その後住民投票の実施はずるずると先送りされ、MINURSOの任期は毎年1年ずつ延長されてきた。今年も4月30日には任期切れとなるため、それまでに安保理が延長の可否を決めるが、住民投票の実施へ進展が見られないことなどから現地では緊張が高まっている。



「MINURSOが強制的に退去させられるか、国連安保理の定めた任務の遂行が不可能になったと判断した場合、停戦が破られ、敵意が再燃し、ひいては全面戦争にエスカレートするリスクが著しく高まる」──内部関係者が19日にロイターに見せた報告書で潘はそう警告し、安保理に任期延長を認めるよう要請している。この地域から国連が撤収すれば、力の空白に乗じて「テロリストや過激な分子」が台頭するおそれがあるとも、潘は指摘している。

アルジェリアには先住民の難民が9万人

 潘は「占領」発言を撤回はしていないが、「とっさに」出た言葉で「誤解」を招いたことを遺憾に思っていると、国連報道官が釈明した。国連によれば、潘が視察したアルジェリア西部の砂漠の都市ティンドゥフ近郊の難民キャンプには西サハラから逃れてきた住民約9万人が暮らしている(アルジェリア政府は16万5000人と発表)。

 モロッコ政府は態度を硬化させたままで、潘の発言はポリサリオ戦線側に肩入れした「意図的」な発言だと抗議している。

 西サハラはモロッコ、アルジェリア、モーリタニアに囲まれた26万6000平方キロ、アメリカのコロラド州ぐらいの広大な土地で、先住民の人口は約57万人。沖合には未開発の油田があると見られている。

コナー・ギャフィー

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