ヨーロッパから「正しい」ことを指摘されるのが、アメリカ人は嫌いだ。累進課税、高速鉄道、サッカー、低アルコールビール――。
しかし今回のノルウェーの判断はやはり「正しい」。オスロの地方裁判所は、連続テロ事件の大量殺人犯アンネシュ・ブレイビクを隔離して収監するのは人権侵害にあたるという判断を示した。
殺人犯を「モンスター」と呼ぶのは陳腐だが、ブレイビクを表現するのにこれ以上適当な言葉は思い当たらない。2011年のテロ事件で、多くのティーンエイジャーを含む77人を殺害した男だ。21年の刑期を言い渡され、隔離して収監されていた。しかしその実態は「日の光も差さない独房」というイメージからは程遠い。
【参考記事】ノルウェー連続テロ犯裁判の奇妙な展開
ブレイビクが収監されているシーエン刑務所は、写真で見ると、まるで学生寮のくじ引きで悪い部屋を引き当てた新入生の部屋のようにしか見えない。アメリカの悪名高いアンゴラ刑務所やサン・クエンティン刑務所のような「穴倉」の独房とは程遠い。英紙ガーディアンの報道によれば、「ブレイビクは生活用、学習用、トレーニング用の3つの部屋を使い、インターネットに繋がっていないテレビとテレビゲーム機を用意され、自分で料理や洗濯ができる設備も整っていた」。
しかしオスロ地裁は判決で、ブレイビクの処遇は、ヨーロッパ人権条約に違反する「非人間的で屈辱的な処遇、処罰」だと判断した。「これはテロリストや殺人者の取り扱いなどすべてに適用される」と、判決は述べている。
ブレイビクは現在、法廷費用の支払期限を目前に控えている。今後の収監状況がどう変化するかは、直ちには明確になっていない。
リベラリズムの行き過ぎで狂ったヨーロッパ
アメリカの「法と秩序」の専門家から言わせれば、今回の判決は、リベラリズムがヨーロッパの集合的「健全性」を蝕んでいる新たな証左だろう。アメリカでは、「犯罪者に甘い」というのは保守派がリベラル派を批判する政治キャンペーンの常套句だ。
【参考記事】腐り始めた「人権大国」フランスの魂
今回の判決に対する怒りは、ある程度理解できる。77人もの命を奪っておきながら、本人は自分の生活に関して細かな条件改善を求めているからだ。
しかし、民主主義下の司法は、単純な「報復の衝動」では動かない。ノルウェーの受刑者は、償うべき罪を考慮すれば、余りにも「快適」に過ごしているかもしれない。しかし、その内容はどうであれ、ブレイビクは法律に基づいて自分の収監に関する状況改善を求めた。ノルウェーはその訴えに対して、感情を差し挟まない法的な範疇から、法治国家として為すべき対応をした。
危険なのは、ときに法を順守する社会では、今回のように解決しない事態に直面することがあることだ。法的には正しいが、感情的には到底受け入れられない。つらいことだが、民主主義に反することはできない。
ブレイビクの「勝訴」に怒りを覚えるのは簡単だ。しかしブレイビクの処遇の「快適さ」はアメリカの基準から見れば贅沢だが、彼がほとんどすべての時間(一日あたり1~2時間を除いて)を孤独の中で過ごしている事実は変わらない。
長期間に渡る隔離収監は拷問だという考え方が例え一般的ではないとしても、本やDVDが人間との触れ合いを穴埋めすることはできない。すでに精神的に病んでいる受刑者にとっては特にそうだ。
キッチン・テレビ付き3部屋のスイートルーム
「実際には相手の身体に手を出さずに、肉体的に攻撃しているようなものだ」と、ロサンゼルスの元ギャングは2014年の本誌の取材に対して隔離への恐怖を語っていた。その後の2年で、ニューヨーク州やカリフォルニア州をはじめ各州が、隔離収監を減らす方針を打ち出した。
またオバマ大統領は今年、連邦刑務所で未成年の隔離収監は止めることを明らかにした。長期間の隔離が「深刻かつ永続する心理的悪影響」を及ぼす可能性があるためだ。
監視団体「ソリタリー・ウォッチ」によると、全米で約8万人が何らかの行政処置として隔離されている。彼らはブレイビクのように、キッチン・テレビ付き3部屋のスイートルームを与えられてはいない。
【参考記事】ロシア刑務所改革、囚人には悪夢?
ブレイビクの勝訴は、ノルウェーの刑務所が「笑ってしまうくらい甘い」という反面教師ではない。独房収監という、まるで中世の時代のような処罰に対する糾弾だ。
独房に関してはヨーロッパが「正しい」。サッカーと同じように、アメリカも見習わなければならない。
アレクサンダー・ナザリアン
しかし今回のノルウェーの判断はやはり「正しい」。オスロの地方裁判所は、連続テロ事件の大量殺人犯アンネシュ・ブレイビクを隔離して収監するのは人権侵害にあたるという判断を示した。
殺人犯を「モンスター」と呼ぶのは陳腐だが、ブレイビクを表現するのにこれ以上適当な言葉は思い当たらない。2011年のテロ事件で、多くのティーンエイジャーを含む77人を殺害した男だ。21年の刑期を言い渡され、隔離して収監されていた。しかしその実態は「日の光も差さない独房」というイメージからは程遠い。
【参考記事】ノルウェー連続テロ犯裁判の奇妙な展開
ブレイビクが収監されているシーエン刑務所は、写真で見ると、まるで学生寮のくじ引きで悪い部屋を引き当てた新入生の部屋のようにしか見えない。アメリカの悪名高いアンゴラ刑務所やサン・クエンティン刑務所のような「穴倉」の独房とは程遠い。英紙ガーディアンの報道によれば、「ブレイビクは生活用、学習用、トレーニング用の3つの部屋を使い、インターネットに繋がっていないテレビとテレビゲーム機を用意され、自分で料理や洗濯ができる設備も整っていた」。
しかしオスロ地裁は判決で、ブレイビクの処遇は、ヨーロッパ人権条約に違反する「非人間的で屈辱的な処遇、処罰」だと判断した。「これはテロリストや殺人者の取り扱いなどすべてに適用される」と、判決は述べている。
ブレイビクは現在、法廷費用の支払期限を目前に控えている。今後の収監状況がどう変化するかは、直ちには明確になっていない。
リベラリズムの行き過ぎで狂ったヨーロッパ
アメリカの「法と秩序」の専門家から言わせれば、今回の判決は、リベラリズムがヨーロッパの集合的「健全性」を蝕んでいる新たな証左だろう。アメリカでは、「犯罪者に甘い」というのは保守派がリベラル派を批判する政治キャンペーンの常套句だ。
【参考記事】腐り始めた「人権大国」フランスの魂
今回の判決に対する怒りは、ある程度理解できる。77人もの命を奪っておきながら、本人は自分の生活に関して細かな条件改善を求めているからだ。
しかし、民主主義下の司法は、単純な「報復の衝動」では動かない。ノルウェーの受刑者は、償うべき罪を考慮すれば、余りにも「快適」に過ごしているかもしれない。しかし、その内容はどうであれ、ブレイビクは法律に基づいて自分の収監に関する状況改善を求めた。ノルウェーはその訴えに対して、感情を差し挟まない法的な範疇から、法治国家として為すべき対応をした。
危険なのは、ときに法を順守する社会では、今回のように解決しない事態に直面することがあることだ。法的には正しいが、感情的には到底受け入れられない。つらいことだが、民主主義に反することはできない。
ブレイビクの「勝訴」に怒りを覚えるのは簡単だ。しかしブレイビクの処遇の「快適さ」はアメリカの基準から見れば贅沢だが、彼がほとんどすべての時間(一日あたり1~2時間を除いて)を孤独の中で過ごしている事実は変わらない。
長期間に渡る隔離収監は拷問だという考え方が例え一般的ではないとしても、本やDVDが人間との触れ合いを穴埋めすることはできない。すでに精神的に病んでいる受刑者にとっては特にそうだ。
キッチン・テレビ付き3部屋のスイートルーム
「実際には相手の身体に手を出さずに、肉体的に攻撃しているようなものだ」と、ロサンゼルスの元ギャングは2014年の本誌の取材に対して隔離への恐怖を語っていた。その後の2年で、ニューヨーク州やカリフォルニア州をはじめ各州が、隔離収監を減らす方針を打ち出した。
またオバマ大統領は今年、連邦刑務所で未成年の隔離収監は止めることを明らかにした。長期間の隔離が「深刻かつ永続する心理的悪影響」を及ぼす可能性があるためだ。
監視団体「ソリタリー・ウォッチ」によると、全米で約8万人が何らかの行政処置として隔離されている。彼らはブレイビクのように、キッチン・テレビ付き3部屋のスイートルームを与えられてはいない。
【参考記事】ロシア刑務所改革、囚人には悪夢?
ブレイビクの勝訴は、ノルウェーの刑務所が「笑ってしまうくらい甘い」という反面教師ではない。独房収監という、まるで中世の時代のような処罰に対する糾弾だ。
独房に関してはヨーロッパが「正しい」。サッカーと同じように、アメリカも見習わなければならない。
アレクサンダー・ナザリアン