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クルーズは「嫌われ者」を卒業できるか

ニューズウィーク日本版 2016年4月26日 16時30分

 嫌われ者でも選挙には勝てる。嘘だと思うならテッド・クルーズを見ればいい。

 いささか旧聞に属するが、ジョージ・W・ブッシュが大統領の座に挑んだ00年のこと。クルーズはその選挙戦を手伝った。当時の彼はまだ20代で、地元テキサスの人間。名門ハーバードの法科大学院を出て、連邦最高裁での研修という栄誉にも浴していた。申し分のないキャリアだ。しかもキューバ系だから、ヒスパニック票の獲得に役立つと期待されてもいた。

 ところがクルーズは鼻が高過ぎて、ブッシュ陣営の幹部たちを怒らせた。結果、ブッシュが勝利しても要職には引き立てられず、政府外局の仕事しかもらえなかった。

 4年前の選挙で上院議員になってからも、嫌われ者で通してきた。何しろ頑固で、上院共和党を率いるミッチ・マコネルを「嘘つき」と呼んでひんしゅくを買ったこともある。

「殴りたくなるような顔」

 60年の大統領選でケネディに敗れたニクソンが嫌われ者だったように、昨日までのクルーズも嫌われ者だった。しかしクルーズは急速に進化しつつある。当初有力候補と目されていたマルコ・ルビオやジェブ・ブッシュを蹴落とし、今や共和党指名獲得レースで2位につけている。しかも3年半前に上院議員に初当選したばかりという初々しさは、08年の大統領選を制したときのバラク・オバマと同じだ。

 まだ獲得代議員数ではドナルド・トランプに後れを取っているが、クルーズにも共和党の候補指名を勝ち取るチャンスはある。夏の共和党全国大会までにトランプが過半数の代議員を獲得できず、かつ迷える代議員たちがクルーズ支持でまとまった場合は、クルーズにお鉢が回ってくるだろう。

 しかし、そこから先は嫌われ者イメージを払拭する必要がある。「殴りたくなるような顔」と評されるようでは、たぶん大統領になれない。

 トランプという怪物を退治しただけでは、国民全体のヒーローになれない。もちろん、選挙集会で支持者に暴力をけしかけ、イスラム教徒の入国を禁ずるといった偏見むき出しの政策を堂々と掲げるトランプに比べたら、クルーズはまるでガンジーのように穏やかに見える。

【参考記事】トランプ「お前の妻の秘密をばらす」とクルーズを脅迫

 いや、この比較はガンジーに失礼だろう。クルーズも、イスラム教徒居住地域のパトロールを強化しろと叫んでいるのだから。それにしても、とにかく「トランプではない」という事実だけで、クルーズはまっとうな人間らしく見えている。



 しかもクルーズは、それなりに賢い選挙戦を展開している。トランプだけでなく、民主党のヒラリー・クリントンも彼を警戒すべきだろう。異端のバーニー・サンダースをいまだに倒せずにいるのは、彼女に何らかの弱点がある証拠だ(それでも本選で民主党候補が有利なのは否定できない)。

家族総出のイメージ作戦

 クルーズを甘く見てはいけない。4年前にはテキサス州選出上院議員候補を決める共和党の予備選で、党主流派の推す現職副知事デービッド・デューハーストに競り勝った。当時、「最大の番狂わせ」と呼ばれた勝利である。今回の予備選でも居並ぶ保守派のライバルを蹴落としてレースに踏みとどまり、いよいよトランプとの一対一の勝負に持ち込んでみせた。

【参考記事】「トランプ降ろし」の仰天秘策も吹き飛ぶ、ルビオとクルーズのつばぜりあい

 自分の好感度に問題があることも、クルーズは承知している。自分は「一緒にビールを飲みたくなる人間」ではないだろうが、「酔ったあなたを自宅へ送り届けてあげられる人間」ではあると言ったこともある。なかなか気の利いた言い方だ。

 美形の妻ハイディや5歳と7歳の娘を連れて選挙運動を行っているのも、マイナスにはならないはずだ。先日もCNNの番組に家族で出演し、歌手のテイラー・スウィフトや、ぬいぐるみ作りパーティーの話で盛り上がっていた。素晴らしい。しかし、こうした家族総出のイメージ作戦も、一つ間違えば台無しになる。

 そのCNNの番組で、クルーズは司会のアンダーソン・クーパーに下品な話をしてしまった。最高裁での研修中に、業務上の必要があって女性判事サンドラ・デー・オコーナーと一緒に「ハードなポルノ」を見たという話だ。別に悪い話ではない。しかし自分の娘の前で話すには不適切な話題だった。

 それでもクルーズは選挙に強く、それなりのスキルもあり、民主党にとっては侮り難い共和党候補になれそうだ。もしも彼が共和党予備選で過半数(1237人)の代議員を獲得できれば、本選挙でも過半数(270人)の選挙人を獲得できるかもしれない。



クリントンとの一騎打ち

 そしてもしも彼がトランプに勝てば、有権者の彼に対するイメージは大きく変わるだろう。共和党にとっての脅威であるトランプを排除して指名を勝ち取れば、たとえトランプが党外から出馬しても、共和党はクルーズ支持でまとまる。

 その先にはクリントンとの一騎打ちが待っている。勝ち目は薄い。だが40代半ばのクルーズには、70歳近いクリントンにはない若さという武器がある。エリートぞろいの上院で「嫌われ者」というのも悪いことではない。国家のいかなる干渉にもかたくなに反対する彼の態度は、草の根の保守派に受ける。

「誰でも知っているとおり、主流派は私を応援していない」。クルーズはCNNの番組で、そう言い放った。そのとおり。今まではそうだった。しかしこれからは違う。

 主流派も含めて共和党が一致団結してクルーズを支持すること。これがホワイトハウスにたどり着く唯一の道だ。そして国民的嫌われ者のイメージを改善できれば、言うことなし。

[2016.4.26号掲載]
マシュー・クーパー(ワシントン支局長)

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