フィリピン南部スールー州の町ジョロで25日、切断されたカナダ人男性の頭部がビニール袋に入れられ、路上に捨てられているのが発見された。
昨年9月にフィリピンのイスラム過激派組織アブサヤフが、同国南部にあるサマール島のホテルから拉致した68歳のジョン・リズデルだ。
25日の午後3時(現地時間)までに約800万ドルの身代金を支払わなければ斬首すると、アブサヤフはカナダ政府を脅迫していた。そして迎えた最悪の結果だ。カナダのジャスティン・トゥルドー首相は同日、記者会見を開き、「血も涙もない殺人行為」と非難、アブサヤフを「追跡していく」と表明した。
【参考記事】「難民受け入れます(ただし独身男性を除く)」の波紋
リズデルの他にも3人がサマール島のホテルから拉致されており、アブサヤフは今も人質に取っている。カナダ人のロバート・ホールと、ノルウェー人男性、フィリピン人女性だ。彼らの命が助かるか、懸念が強まっている。
しかし、そもそもこのアブサヤフとは、一体どんな組織で、何が目的なのだろうか。
アブサヤフの起源は?
アブサヤフは、一体となって活動している1つの組織ではない。フィリピン各地で「アブサヤフ」の御旗の下に、いくつかのグループ(セル)が活動しているのだ。アブサヤフは「刀鍛冶の父」といった意味。フィリピン南部のミンダナオ島で反政府活動をしていた急進派イスラム組織、モロ民族解放戦線(MNLF)から1991年に分派し、アブドラジャク・ジャンジャラニが設立した。
フィリピン国民や当局への暴力行為で名を轟かせたが、恐喝や麻薬取引などの犯罪にも深く関わっている。フィリピン史上最悪のテロである2004年の「スーパーフェリー14」爆破事件もアブサヤフの仕業で、116人が死亡した。組織の構成員は1000人以上いたが、2012年には200~300人程度にまで減っている。
サウジアラビアやリビア、シリアで学んだジャンジャラニは、1998年に警察との銃撃戦で死亡し、その後は彼のきょうだいであるカダフィ・ジャンジャラニが組織の実権を握った。カダフィの指揮の下、イデオロギーではなく金銭を目的とする誘拐を多数実行。そのカダフィも2006年9月、銃撃戦で死亡した。
アブサヤフの現在の指導者はイスニロン・ハピロンという男で、2001年にアメリカ人3人を拉致したことで、アメリカの国際指名手配リストに載っており、その首には500万ドルの懸賞金が掛けられている。
【参考記事】フィリピン過激派組織がISISと共闘宣言
アブサヤフはどこにいるのか?
主としてミンダナオ島およびスルー諸島を拠点とし、ジョロ島、バシラン島から行動を起こしている。フィリピン南部で起こしてきた数々の反政府活動により、アメリカ、EU(欧州連合)、カナダはいずれもアブサヤフを過激派組織に指定している。
アブサヤフはどの国際テロ組織とつながりがあるか?
伝統的にはアルカイダと連携してきたが、2014年のISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)勃興以後は、ISISに忠誠を誓うアブサヤフ内のグループ(セル)がいくつも出てきた。対テロ戦争の報道・分析を行うロング・ウォー・ジャーナルによれば、3月にアブサヤフのジュンド・アル・タウヒードというグループがISISに忠誠を誓い、3つめのグループとなった。ISISのメディア「Furat」がその忠誠を誓った際の映像を公開し、そこには最高指導者のイスニロン・ハピロンも映っていた。
アブサヤフは現在、ISISの黒い旗も使用している。だが、エジプトのシナイ半島で活動するISIS傘下組織「シナイ州」のように、ISISの忠実な分派として活動するのではなく、「ISISブランド」を使って自身の知名度を上げようとしているのだろうと専門家は分析する。ISISは2014年6月にシリアとイラクにまたがる地域で「カリフ国」を設立して以来、国際的な注目を集めるようになった。
アブサヤフの目的は何か?
分離独立派の組織として、主たる目的は、暴力と恐怖により、モロ族の人々のためにフィリピン南部に厳格なイスラム法に基づく国家を築くことだ。モロ族はこの地域のイスラム教徒を総称する呼称で、フィリピンでは少数派である。
だが現実には、アブサヤフの活動の大半は金銭的な動機に基づいているようだ。身代金目的の誘拐を何度も行ってきた。金銭を得ようとするのは、政治目的を達成する活動の原資とするためなのか、組織内の各グループ(セル)の指導者たちが私腹を肥やすためなのか、はっきりしていない。
ジャック・ムーア
昨年9月にフィリピンのイスラム過激派組織アブサヤフが、同国南部にあるサマール島のホテルから拉致した68歳のジョン・リズデルだ。
25日の午後3時(現地時間)までに約800万ドルの身代金を支払わなければ斬首すると、アブサヤフはカナダ政府を脅迫していた。そして迎えた最悪の結果だ。カナダのジャスティン・トゥルドー首相は同日、記者会見を開き、「血も涙もない殺人行為」と非難、アブサヤフを「追跡していく」と表明した。
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リズデルの他にも3人がサマール島のホテルから拉致されており、アブサヤフは今も人質に取っている。カナダ人のロバート・ホールと、ノルウェー人男性、フィリピン人女性だ。彼らの命が助かるか、懸念が強まっている。
しかし、そもそもこのアブサヤフとは、一体どんな組織で、何が目的なのだろうか。
アブサヤフの起源は?
アブサヤフは、一体となって活動している1つの組織ではない。フィリピン各地で「アブサヤフ」の御旗の下に、いくつかのグループ(セル)が活動しているのだ。アブサヤフは「刀鍛冶の父」といった意味。フィリピン南部のミンダナオ島で反政府活動をしていた急進派イスラム組織、モロ民族解放戦線(MNLF)から1991年に分派し、アブドラジャク・ジャンジャラニが設立した。
フィリピン国民や当局への暴力行為で名を轟かせたが、恐喝や麻薬取引などの犯罪にも深く関わっている。フィリピン史上最悪のテロである2004年の「スーパーフェリー14」爆破事件もアブサヤフの仕業で、116人が死亡した。組織の構成員は1000人以上いたが、2012年には200~300人程度にまで減っている。
サウジアラビアやリビア、シリアで学んだジャンジャラニは、1998年に警察との銃撃戦で死亡し、その後は彼のきょうだいであるカダフィ・ジャンジャラニが組織の実権を握った。カダフィの指揮の下、イデオロギーではなく金銭を目的とする誘拐を多数実行。そのカダフィも2006年9月、銃撃戦で死亡した。
アブサヤフの現在の指導者はイスニロン・ハピロンという男で、2001年にアメリカ人3人を拉致したことで、アメリカの国際指名手配リストに載っており、その首には500万ドルの懸賞金が掛けられている。
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アブサヤフはどこにいるのか?
主としてミンダナオ島およびスルー諸島を拠点とし、ジョロ島、バシラン島から行動を起こしている。フィリピン南部で起こしてきた数々の反政府活動により、アメリカ、EU(欧州連合)、カナダはいずれもアブサヤフを過激派組織に指定している。
アブサヤフはどの国際テロ組織とつながりがあるか?
伝統的にはアルカイダと連携してきたが、2014年のISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)勃興以後は、ISISに忠誠を誓うアブサヤフ内のグループ(セル)がいくつも出てきた。対テロ戦争の報道・分析を行うロング・ウォー・ジャーナルによれば、3月にアブサヤフのジュンド・アル・タウヒードというグループがISISに忠誠を誓い、3つめのグループとなった。ISISのメディア「Furat」がその忠誠を誓った際の映像を公開し、そこには最高指導者のイスニロン・ハピロンも映っていた。
アブサヤフは現在、ISISの黒い旗も使用している。だが、エジプトのシナイ半島で活動するISIS傘下組織「シナイ州」のように、ISISの忠実な分派として活動するのではなく、「ISISブランド」を使って自身の知名度を上げようとしているのだろうと専門家は分析する。ISISは2014年6月にシリアとイラクにまたがる地域で「カリフ国」を設立して以来、国際的な注目を集めるようになった。
アブサヤフの目的は何か?
分離独立派の組織として、主たる目的は、暴力と恐怖により、モロ族の人々のためにフィリピン南部に厳格なイスラム法に基づく国家を築くことだ。モロ族はこの地域のイスラム教徒を総称する呼称で、フィリピンでは少数派である。
だが現実には、アブサヤフの活動の大半は金銭的な動機に基づいているようだ。身代金目的の誘拐を何度も行ってきた。金銭を得ようとするのは、政治目的を達成する活動の原資とするためなのか、組織内の各グループ(セル)の指導者たちが私腹を肥やすためなのか、はっきりしていない。
ジャック・ムーア