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突如飛び出した共和党「反トランプ連合」の成算は?

ニューズウィーク日本版 2016年4月28日 17時20分

 今週になって突然、共和党の予備選で現在2位のテッド・クルーズ候補と3位のジョン・ケーシック候補のそれぞれの陣営から選挙協力を結ぶという発表があった。具体的には「インディアナ州(予備選は5月3日)はクルーズに」そして「オレゴン州(5月17日)とニューメキシコ州(6月7日)はケーシックに」勝たせる「票の交換」をするというものだ。

 この「作戦」に成算がないわけではない。3州の中で、特に焦点となるのはインディアナ州だ。ここは代議員数57の大きな州で、しかも「勝者総取り」となっている。ここをクルーズが取れば、確かにドナルド・トランプ候補の「過半数超え」を阻止する可能性はグッと高まる。

 だが、メディアの反応は散々だった。例えば元ブッシュ政権の報道官で、現在は共和党系の政治アナリストであるニコル・ワレス氏などは「Too little. Too late.(話が小さすぎるし、第一遅すぎる)」と、むしろ失望感を隠さなかった。

【参考記事】予備選で見えてきた「部族化」するアメリカ社会

 先週20日のニューヨーク州予備選までは、「仮に1人1人の過半数超えの可能性が薄くなっても、それぞれの得意な票田で勝っていけば、トランプの過半数を阻止できる」というのが2人の言い分だったので、この選挙協力の唐突感は否定できない。

 早速反応したのはトランプ本人だ。25日の集会では、「バカバカしいにも程がある。自分たちがどれだけ弱いか証明しているようなものだ」と斬り捨てたが、この発言には「アンチ・トランプ」の世論でさえ頷いているようだ。

 一部では、クルーズ、ケーシックの両陣営ともに、選挙資金が枯渇して相当に困窮しているので、お互いに「資金をケチる」ために選挙運動を部分的にやめる口実が欲しかった、という説まで流れる始末だ。

 翌日26日に実施されたペンシルベニア、メリーランド、デラウェア、コネティカット、ロードアイランド各州の予備選では、結果的にトランプが5戦全勝して、獲得代議員数を988まで増やした。これでマジックナンバーの1237にさらに近づいた。



 そこで改めてクローズアップされてきたのが、インディアナ州だ。現時点での世論調査結果では、トランプが39.3%に対してクルーズが33.0%と差は僅かで、19.3%という支持率のケーシックの票を「移動」できれば、クルーズにも勝算がないわけではない。

 問題は、選挙協力の方法だ。完全な「2位・3位連合」を組むためには、文字通りの「一本化」をするのが常識的だろう。例えばインディアナの共和党員に対して、ケーシックは「私を支持する人はクルーズに入れてほしい」と訴える、あるいは陣営の組織を通じてそう徹底することが必要となる。

 クルーズは比較的これに近いメッセージを出している。オレゴンとニューメキシコの支持者に、ケーシックに入れるように呼び掛けている。だが一方のケーシックは、曖昧な姿勢を見せている。26日にNBC「トゥデイ」の電話インタビューに応じたケーシックは、以下のように発言している。

「これはリソース(資源)の問題だ。ここまで来たら効率が必要なので、私はインディアナには行かないし、クルーズはオレゴンとニューメキシコには来ない。それだけだ。私はインディアナではテレビ広告もやめる」

「トランプをとめるのが目的ではない。ヒラリー・クリントンをとめるのが目的で、トランプを党大会で勝たせたらヒラリーの勝利が確定してしまう。共和党としては、それは絶対に避けなければならない」

【参考記事】ヒラリー、トランプ圧勝でも予備選の混迷は続く


「しかし私は、インディアナの自分の支持者に、自分に入れるなとは言えない。私は大統領に立候補しているので、自分に入れるなということはあり得ない。第一、そんなことをしたら投票率が下がるじゃないか」

「混乱しているというのはメディアのあなた方だけじゃないのか。有権者は理解しているよ。分かる人には分かるんだ」

 こうなると「腹芸」というレベルの話で、インタビューをしていたキャスター達は、最後まで「理解できない」と困惑した顔をしていた。

 だがケーシックの発言を整理して、その意味合いを探るとしたら、次のようなことは言える。

 まず「自分に入れるな」というと投票率が下がるというのは、意外に本当なのかもしれない。穏健保守の中道票は、極端な保守主義のクルーズとは水と油だから、あくまで「作戦」に乗ってもらうには、自主的にしないと支持者がヘソを曲げて投票所に来ない可能性がある。そうなったらトランプ陣営を喜ばせるだけ、というのは冷静な認識としてあるのだろう。



 さらに、合衆国大統領を目指して選挙戦を戦ってきた候補者として、「自分に入れるなとは言えない」というのは絶対に譲れないのだろう。また「ヒラリーを降ろすのが目的」と言い切った発言には、一対一の対決ならヒラリーに勝てるという強烈な自負が見え隠れしている。

 最新の世論調査の平均値で、「ケーシック対ヒラリー」という組み合わせになった場合「48%対40%」でケーシックが圧勝するという数字が出ている(RealClearPolitics調べ)のは事実だ。

 一方でクルーズは、予備選を撤退した元候補のカーリー・フィオリーナ(HP元会長)を、事実上の「ランニングメイト」、つまり自分が大統領候補となった場合の副大統領候補に指名して、こちらもヤル気満々だ。

 数字だけを見れば、現時点でのトランプの優位は圧倒的だ。だがこうした数字の裏で、「2位・3位連合」が奏功して「党大会での自由投票」へ持ち込まれる可能性はまだかなり残っていると見なければならない。


<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>

≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫

冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)

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