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「5年を1単位」としてキャリアプランを考えよ

ニューズウィーク日本版 2016年5月7日 6時35分

 今は景気が良いのか、それとも悪いのか。もしも景気が回復基調にあるのだとして、それを実感できないのはなぜなのか。

 いずれにしても、景気が悪ければ、給与が上がらない、希望の職に就けない、クビになる、といった望ましくない事態が訪れるかもしれない。実際、日本の労働環境は不可逆の変化を遂げ、安定的な終身雇用制はもはや大企業ですら崩壊したと言える。

 そんな時代にはキャリアをどう築いていけばよいのか。社会人デビューの時からそうした環境に置かれている若者だけでなく、新卒での就活が「楽勝」だった世代、あるいは就職氷河期に苦しみながら勤務先を見つけた世代にとっても、共通の悩みだ。新しい環境にうまく適合できていないのは、むしろキャリアをある程度積んだ世代のほうかもしれない。

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「新しい、より現実的なアプローチとは、5年を1つの単位として、6~8単位のキャリアを考えることだ」と、米金融大手モルガン・スタンレーの資産管理部門バイスチェアマンであり、キャリアアドバイザーとしても活躍するカーラ・ハリスは言う。2013年にはオバマ米大統領の指名により、米国女性ビジネス協議会(NWBC)の議長にも就任したハリスは、景気や人間関係に左右されないキャリアの戦略作りを指南する新刊『モルガン・スタンレー 最強のキャリア戦略』(堀内久美子訳、CCCメディアハウス)を上梓した。

 ここでは同書の「第2部 ステップアップするために」から一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。以下、まずは「5年を1単位」とはどういう意味なのか、それを基にどんなキャリアアジェンダ(行動計画)を作るべきなのかについて、第2部の「第4章 キャリアをどう生かすか――『成果貯金』という考え方」から。


『モルガン・スタンレー 最強のキャリア戦略』
 カーラ・ハリス 著
 堀内久美子 訳
 CCCメディアハウス


◇ ◇ ◇


「成功とは、自分自身を好きになること、自分のすることを好きになること、そして自分のやり方を好きになることだ」――マヤ・アンジェロウ



 自分のキャリアのために具体的にいつ、何をすべきなのか。あなたの目標と行動計画を、責任を持って管理できるのはあなたしかいない。多くの人は、自分のキャリアプランと、自分が引き受ける役割、異動、昇進を決めるのは、会社、とくに人事部の責任だと誤解している。大きな間違いだ。

 前章で述べたように、キャリアの初期は自分で得たいと思うスキルや経験に集中する時期だ。2年経てば、知識と能力がしっかりと詰まった引出しを作れるようになり、それを新たな仕事の機会に向けた自分の売り込みに利用していける。
 
 その時期はもう過ぎてしまったという人も心配は無用だ――希望するスキルを身につけるのに遅すぎることはない。社会人になって5年、 10 年、それ以上経っていても、自分で必要だと思うスキルと経験を得る計画を立て、希望するスキルを2年間でできるだけ多く獲得するようにしよう。

キャリアアジェンダ――目標設定と行動計画

 第1章でも軽くふれたように、今日のビジネス社会では、今までにないキャリアプランニングのアプローチが必要だ。私が就職した頃とは違い、今の若いビジネスパーソンは同じ会社で勤続 25 年から 30 年を目指す必要はない(同時に、ほとんどの人は以前の平均よりも退職年齢が遅くなっている)。むしろこれから就職するなら、5年を1単位として、6単位から8単位をそれぞれ別の会社で働くキャリアプランを考えたほうがいい。

【参考記事】学歴や序列さえも無意味な「新しい平等な社会」へ

 もし勤務先が改革を重視し、技術革新を標榜して魅力的なキャリアを提案する企業なら、その会社で2単位から3単位を続けて働く場合も考えられる。だがほとんどの場合は、パフォーマンスや権限、報酬、影響力をできるだけ高めるために、生涯のキャリアを通じて最低でも3回から5回は勤務先を変えるつもりでいるべきだ。就職後しばらく経つ場合で、あと 10 年から 15 年は働くつもりなら、少なくとも2、3回は転職することを考えるべきだ。

 理由を説明しよう。



 キャリアの基盤(仕事のコンテンツ、報酬、影響力、役職など)をできる限り充実させるには、興味のある業種のトップ企業で働いたほうがいい。ただ今日の経済環境では、企業は技術革新と数年ごとの企業改革に全社一丸となって全力で取り組まない限り、業界リーダーの地位を保つことはまずできない。多くの企業は財務的・文化的制約のために、トップ企業に留まることができなくなるのだ。

 キャリアアジェンダとは、キャリアの大きな目標と達成までの行動計画だ。キャリアアジェンダを考えるなら、身につけたいスキルと、それをできるだけ短期間で獲得できる方法を考えてみよう。前章で述べたように、キャリアの1単位目では業種に関係なく、戦略的スキルを身につけるよう努力すべきだ――基本的なマーケティングと営業、プレゼンテーションのスキル、基本的な財務の知識、戦略プランニングと人事管理の多少の経験である。こうした戦略的スキルがあれば、新しい分野で特定の専門知識や技能の習得が必要とされるのに応じて、自分の付加価値を高めていくことができるだろう。ブロックを積み上げるようにキャリアを構築していくこのアプローチはぜひお勧めしたい。就職時に憧れの仕事に就きづらい経済状況ではとくに有効だろう。

 たとえば、あなたがファッションデザイナーになりたくても、大学を卒業後すぐに有名ブランドでやりがいのある仕事を得るのは難しい。だが、今取得でき、将来魅力的な人材になるのに役立つスキルを、ブロックのように積み上げていってはどうだろうか。

 ブランドが新製品や新しいラインの発表準備をするときは、いつ、どのように製品を発表し、宣伝していくかを戦略的に検討しなければならない。どのメディアを使うか? 一流のファッションショー、テレビ、ソーシャルメディア、印刷物だろうか? 新製品の販売戦略はどうするのか?

 こうしたことは、消費者向けの製品を市場に投入するときの検討事項と重なり合うものがある。あなたの最初の就職先としては、消費財メーカーのブランド管理の部門が考えられるかもしれない。ブランド管理にかかわる基本を学ぶことができ、将来自分を有力なデザイナーブランドに売り込むときに役に立つことが考えられるからだ。給料の一部を、服飾のパターン作成や立体裁断、商品化の基礎講座の受講や、その他ファッションデザインのチームに本気で加わるために必要な資格の取得にまわすことができるかもしれない。

 成功につながるキャリアアジェンダを作るには、自分の行うことをすべて最終的な目標につなげるようにすることだ。第1章で作成したワークシート(コンテンツ、仕事、スキル・経験・学歴シート)を活用してアジェンダを決めてもいい。今日のあなたの仕事は、アジェンダの中の1項目を実行するものとすべきなのだ。つまり、スキルを学習・習得する、特定の経験をする、あるレベルの給与か肩書きに到達する、あるいはその準備をすることにかかわるべきなのだ。



 あなたの今の仕事で、今述べた項目のどれも実行できなければ、自分の興味のある分野のキャリアで出世し、成功するチャンスを最大限に活かすことはできない。その場合は転職すべきだ。それもすぐに! 一度就職したら、1年1年、自分の達成目標に向かって努力しているはずだが、それができていないなら、行き詰まりのサインだ。キャリアアジェンダを見直すか、作り直すべきなのだ。

 社会人になったばかりで、ある特定の業種で上級職まで昇進したい熱意がある人のキャリアについて、おおまかなスケジュールの目安を挙げておこう。繰り返すが、上級職に達する頃には、すでに同じ業種の2、3社で働いていることになる。勤務経験が7年から 10年で上級職に通じるコースにいたいのなら、新入社員レベルから3つか4つ上のポストで、管理職に就いているべきだ。

 企業で順当に出世していく場合のキャリアアジェンダは次のようになる。

・就職後0~3年――基本的な戦略的スキルを取得
・就職後4~7年――部下が最低でも2人以上いる責任ある地位へ昇進
・就職後8~10 年――グループか部、事業部を統括し、マネジメント経験あるいは監督経験をする
・就職後 11 年以上――上級職の肩書きを持ち、会社の経営陣や経営委員会への発言権を持つ
・就職後 15 年以上――経営幹部へ昇格できるポジションにいる

 各レベルでは、給与は着実に、かつ大幅に増えているはずだ。前章で見たように、業界情報をリサーチし、管理職向けの人材紹介業者と関係を保って給与水準を把握しておこう。アジェンダで決めたスケジュールを守ろうとするなら、目標達成のためにはおそらく会社を変わることを考えなければならなくなるだろう。転職するならば、実際の退社時期の少なくとも1年前に転職活動を始めるべきだ(このテーマは第8、9章で扱う)。

 ことによると、あなたは大学を卒業した時点で自分のやりたいことがはっきりとわからず、いくつか職を変えてからキャリアを決めたかもしれない。この場合、スケジュールはかなり変わってくるが、それでも私が伝えたいメッセージは同じだ。就職後の早い時期に基本的なスキルを獲得していなければ、すぐに、できるだけ多く身につけるようにしよう。さらに新しいキャリアパスに就いてから4、5年以内には意思決定権限やマネジメントの権限を持てるよう努力しよう。面接では過去に仕事の経験があること(今回の求人とまったく共通点がなくても)を強調し、その経験があるからこそ新しい職務にすぐに有意義な貢献ができることを示そう。

 起業家を目指すなら、当然キャリア計画はまったく違ったものになる。それでも達成目標の概要を描き、事業展開のスケジュールを作成しておくべきだ。成長計画の目標を見失わずにすむ公算が高くなるはずだ。

※シリーズ第2回:能力が低いから昇進できない、という人はめったにいない


『モルガン・スタンレー 最強のキャリア戦略』
 カーラ・ハリス 著
 堀内久美子 訳
 CCCメディアハウス


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