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民主党予備選、サンダース逆転の秘策はあるのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2016年5月10日 17時50分

 共和党ではドナルド・トランプ候補が「事実上の統一候補」となっていますが、党内の大物、特に大統領経験者や下院議長が不支持を表明していて、まだ「トランプ降ろし」や「保守系無所属候補」の可能性も取り沙汰されています。

 一方の民主党は、数字の上ではヒラリー・クリントン候補が「ほぼ統一候補の座を手中に収めている」わけですが、それでもバーニー・サンダース候補は選挙戦から撤退する気配がありません。では、具体的にサンダースには何らかの勝算があるのでしょうか?

 まず現在の獲得代議員数ですが、民主党の場合は「予備選結果を配分したものに拘束されるプレッジド代議員」というものが主で4051あります。この他に「スーパー代議員」714を加えた4765というのが代議員総数で、その過半数超えに必要な2383が「マジックナンバー」となっています。

 現在の数字(現地5月9日時点)はどうなっているのかというと、

―ヒラリー・クリントン・・・獲得数2228
―バーニー・サンダース・・・獲得数1454

という大差になっています。このコラムでもそうですが、多くのメディアが「ヒラリーはほぼ勝利を確定」と言っているのは、この数字が前提になっています。単純に計算してまだ結果が出ていない代議員数1083のうち、155を取れば勝利は確定するからです。

【参考記事】クルーズ撤退、ヒラリー敗北の衝撃

 反対にサンダースが勝つには、残りの90%を取らなくてはなりませんが、民主党の予備選は「勝者総取り」ではなく、比例配分方式ですから単純に計算したとして票数で90%を取らねば勝てません。ですから、ヒラリーの勝利はほぼ確定していると言えます。

 では、どうしてサンダース陣営が選挙戦を止めないかというと、ここへ来てどんどん勢いが出ているということ、そして個人献金が入り続けているので資金がまだあることを前提に、「アンチ格差」のメッセージを発信し続けることに意味を見出しているからです。

 ですが、ここへ来て、ヒラリーを叩きすぎると「トランプが勝ってしまう」という可能性が出てきました。そのトランプはサンダース支持者の取り込みを露骨に始めており、富裕層への増税や、最低賃金のアップなど、政策面でも「すり寄ってきて」いるのです。

 そうなると、何らかの「勝算」を掲げないと、民主党内で選挙戦を続けることへの「大義」が薄れてしまうことになります。そこで取り上げられているのが「スーパー代議員」です。



 この「スーパー代議員」というのは、各州予備選の結果に縛られない代議員ということで、具体的には全国および各地の党幹部、そして現職の国会議員などで構成されています。2008年の「オバマ対ヒラリー」の予備選では、この「スーパー代議員の獲得競争」が勝敗に大きな影響を与えたことから、両陣営による支持取り付け合戦が起きました。

 問題は、今回2016年の傾向です。現時点での「スーパー代議員」の獲得数は、「ヒラリー523」に対して「サンダース39」と大差がついています。ということは、このスーパー代議員を除いた「予備選でのプレッジド代議員獲得数」で見てみると、「ヒラリー1705」に対して「サンダース1415」とそんなに差はないのです。

 ここへ来てサンダース陣営は、この「スーパー代議員」について「エスタブリッシュメントの秘密クラブだ」と批判を強めています。つまり500人以上の党幹部が、ヒラリー陣営と談合して「支持表明」をしているが、これは民意とは乖離しているという批判です。

 ただし、正確に言えば「523人のスーパー代議員」はヒラリーの支持を口頭で表明しているだけであり、翻意することも可能は可能です。そこで、サンダース陣営としては、残りの予備選を全力で戦って「ヒラリーを追い詰める」と同時に、自分こそ民意を受けた統一候補だということで、「スーパー代議員に翻意を迫る」というのです。

 もちろん、そんなことをする前に、ヒラリーが予備選で獲得した代議員数を加えて、マジックナンバーの「2383」に到達してしまえば、サンダースは「終わり」になるはずです。ですが、仮にそうなっても、その時点で「予備選で獲得したプレッジド代議員」の数でほぼ拮抗するところまで行けば、「ヒラリーは民意では勝てず、ワシントンとの談合で統一候補の座を獲得した」という批判を止めることはできなくなります。

【参考記事】トランプが大統領でもアジアを手放せないアメリカ

 これは大変に危険な作戦です。共和党のトランプの場合は、党の主流派とケンカして勝ちつつあるものの、党の主流派はまだ胸を張っています。ですが、サンダースのこの作戦では、「スーパー代議員」=「党の全国と地方の組織」の権威を壊してしまう危険があるわけです。そしてそれこそが「政治革命」だと、支持層は盛り上がっています。

 それでもサンダース陣営にとっては、そんなに可能性のある話ではありません。仮に予備選のどこかの時点で、ヒラリーが勢いを取り戻し、マジックナンバー2383を大きく上回ることになれば、サンダースとしては降参するしかなくなります。ですが、現時点での政治的な勢いは逆になっています。共和党に続いて今度は民主党が異常事態に陥る、そんな可能性も否定できなくないのです。

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