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パナマ文書、本当の暴露はこれからだ

ニューズウィーク日本版 2016年5月10日 18時23分

 世界で最も裕福な人々は、どのようにして課税逃れをしているのだろうか。

 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と南ドイツ新聞は昨日、「パナマ文書」の検索可能なデータベースを公開した。オフショアでのタックスシェルター(課税逃れ)に関与する著名人、銀行、信託などの取引記録を収めたデータベースだ。

 南ドイツ新聞が昨年入手したリーク情報を、ICIJや他の100以上の報道機関が手分けして裏を取り、先月初めてその存在を明らかにして以来、さらなる情報開示を求める声が強まっていた。

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 新たに公開されたデータの中には、バンク・オブ・アメリカやウェルズ・ファーゴ、JPモルガン・チェース、シティグループ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスなど、米ウォール街の大手銀行が並んでいる。また、HSBCやバークレイズ、ドイツ銀行、BNPパリバ、ソシエテ・ジェネラル、ABNアムロ、クレディ・スイス、UBSといった国際的な金融機関の名前も見える。

名乗り出た情報源

 今回公開されたデータベースは、パナマの法律事務所モサック・フォンセカから流出した資料のうち、企業20万社以上の30年に及ぶ取引記録や顧客名簿、財務資料など。

 大手グローバルバンクの多くは、タックスシェルターにおける投資顧問業務を行っているが、法律的にすれすれの課税逃れもその一つ。顧客から訴えられる銀行もある。あるアメリカ人実業家は2012年、UBSを訴えた。脱税で有罪になったのは、UBSの法的なアドバイスが間違っていたからだと主張したのだ。

【参考記事】世紀のリーク「パナマ文書」が暴く権力者の資産運用、そして犯罪

 ICIJのオンラインエディター、ヘーミッシュ・ボーランドラダーが先週末本誌に語ったところによれば、今回公開したデータはパナマ文書全体からみればほんの一部に過ぎず、個人情報や電子メールアドレス、財務情報などはあらかじめ削除されている。データベース公開の目的は、英領バージン諸島、クック諸島、シンガポールを含む10カ所のオフショア市場に設立されたファンドや会社、その顧客や株主、財団、信託にいたるまで、問題の広がりと全体像を見せることだという。「これは単なるデータ公開ではない」と、彼は言う。「公共の利益のための情報公開だ」

 情報源から入手した2.6テラバイトのパナマ文書すべてを公開するつもりはICIJにはないと、ボーランドラダーは言う。だが、その情報源は先週、南ドイツ新聞やICIJを通じて声明を発表。命の保証と引き換えであれば、すべての記録を発表してもいいと意思表示している。



「捜査当局が生のパナマ文書を調べれば、数千件の事件に発展するだろう」と、情報源は言う。またリークの動機として、腐敗の蔓延と金持ちに有利なグローバル金融システムを挙げる。「所得格差は最も重要な課題だ」

 タックスシェルターは合法的な租税回避策として頻繁に用いられる手段だ。確定拠出型年金401(k)も、積立金や運用益への課税を退職後まで繰り延べられるという意味ではタックスシェルターだ。だが、タックスシェルターで行われる金融取引は外から見えにくく、贈賄や金融犯罪、脱税などの違法行為の温床となりやすい一面もある。

収益の20%がタックスヘイブンから?

 多くの銀行はグローバルな資産運用・管理を行っており、その業務の一環として、タックスシェルターを利用する場合もある。こうした業務は銀行にとって、四半期ごとに数億ドルもの手数料を生む大きな収益源だ。たとえばバンク・オブ・アメリカの年次報告書によると、昨年の総利益の20パーセント近くが、グローバル資産運用・管理部門からもたらされた。

 グローバルなタックスシェルターを調査する非営利団体で、英国に本拠を置く「タックス・ジャスティス・ネットワーク」(TJN)は、オフショアの全私有財産の75パーセント近くは、世界トップ50のプライベートバンク、なかでも約20の富裕層向け金融機関に集中していると推定する。そしてその20行のそれぞれが、少なくとも1000億ドルの個人資産をオフショアで運用しているという。

 TJNによると、2005~2010年のその顔ぶれは、UBS、クレディ・スイス、シティグループ、モルガン・スタンレー、ドイツ銀行、バンク・オブ・アメリカ、メリルリンチ(2009年にバンク・オブ・アメリカに救済合併され、現在はその資産管理部門)、JPモルガン・チェース、BNPパリバ、HSBC、ゴールドマン・サックス、ABNアムロ、ソシエテ・ジェネラル、バークレイズなどだという。彼らが管理する個人資産の総額は12.2兆ドルに達したが、額はその後も増えていると見られる、とTJNは述べる。

リア・マグラス・グッドマン

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