もしISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)があなたの名前と住所、電話番号を知っていて、殺せと支持者に指示していたとしたら、毎日どんな気分だろう。
暗号化されたメッセンジャーアプリ「テレグラム」で数週間前、ランダムに選ばれたように思えるニューヨーカー約3500人のリストが流された。「ユナイテッド・サイバー・カリフ国」と自称する、ISISとつながりのあるハッカー集団の仕業だ。リストに載ったのはブルックリン住民ばかりだった。
【参考記事】ツイッターを締め出されたISISの御用達アプリ
いたずらではない証拠に、FBIとニューヨーク市警がリストに載った市民全員の元を訪れて、脅迫について知らせた。3500人のニューヨーカーが今まさに、死の脅迫を受け、毎日を過ごしている。
本誌はこの殺害リストへのアクセスを入手した。リストに付されたメッセージ(下)には、「ニューヨークとブルックリン、ほか数都市の最も重要な市民のリスト。奴らに死を。奴らを黙らせろ」とある。
メッセンジャーアプリ「テレグラム」でISISが公開した殺害リストに付けられたメッセージ(Michael S. Smith II/Kronos Advisory)
リストには古くて実在しない電話番号や住所も少なからず含まれていたが、多くが本物の情報だった。ハッカーたちがどのように個人情報を手に入れたかは不明だ。
ISISは過去にも、ジェームズ・クラッパー米国家情報長官、ジョン・ブレナンCIA長官、そして次期米大統領となる可能性があるヒラリー・クリントンといった人物の公になっていない情報を暴露したことがある。
今回のリストは、ISISが2014年に世界的な脅威となって以来、最大の一般市民の個人情報流出だ。彼らの戦略が市民を標的とする方向に変わったことを物語っている。
「死のリスト」に名前が載った人たちは今、どんな気分でいるのだろうか。
匿名を希望したある女性は、ニューヨーク市警の訪問を受けた。警察官は何かあったら電話するようにとFBIの電話番号を彼女に伝え、その後、メールでも連絡をくれたという。しかし、不安は一向に和らいでいない。
「私、交通違反すらしたことないぐらいに恐がりなんです。(脅迫の話を聞いて)私があまりに震え上がっていたので、自分たちも信じていないから、と警察官は言ってくれました」と彼女は言う。「でも、とても不安です」。
一方、リストに名前が載っても気にしないという人もいる。ブルックリン在住の50代のアーティスト、ケイティ・マーズは、個人情報を流すという戦略を「ダサい」と一蹴。「すっかり忘れていました。こんな情報を集めるのは簡単で、誰でもできますよ。私は全然怖いと思っていません」
脅迫リストを元にテロが行われれば恐怖が拡散する
殺害リストを回覧するという戦略を始めたのは、名の知れたISISのイギリス人ハッカー、ジュナイド・フセインだとされている。フセインは2015年8月に、米軍主導の多国籍軍による空爆で死亡した。
また、外国にいる支持者に呼び掛けて、それぞれの国で個別にテロを行えと仕向ける戦略を始めたのは、ISISで対外戦略を担う要職にあり、報道官でもあるアブ・ムハンマド・アルアドナニだ。アルアドナニは2014年9月、肉声による声明を出し、こう呼び掛けている。「不信心者のアメリカ人とヨーロッパ人を殺せ。ヨーロッパ人では、特にフランス人、オーストラリア人、カナダ人......方法は何でも構わない」
【参考記事】ISISがフェイスブックのザッカーバーグに報復宣言
安全保障の専門家で、クロノス・アドバイザリーの共同創設者であるマイケル・スミスによれば、ツイッターやウェブサイトのハッキングといった低レベルのサイバー攻撃よりも、オンラインで支持者に働き掛ける行為のほうがよほど危険だ。ISISはこうした殺害リストを、ツイッターやテレグラムを使ってどんどん拡散・宣伝している。
「これにより世界の潜在的な支持者に向けて重要な合図を送っている。自分の知識や能力を使ってテロを行うことが、支持表明をすることにつながる、というメッセージだ」と、スミスは言う。「(ISIS支持者が)脅迫リストを入手し、その情報を元に標的を決めるようになれば恐怖は一気に広まるだろう」
FBIは本誌の取材に対し、特定の脅迫に関してコメントはしないと書面で回答した。だが今回のリストに載った人たちを訪れて脅迫について知らせたことは認め、一般的な対応だと述べている。
ジャック・ムーア
暗号化されたメッセンジャーアプリ「テレグラム」で数週間前、ランダムに選ばれたように思えるニューヨーカー約3500人のリストが流された。「ユナイテッド・サイバー・カリフ国」と自称する、ISISとつながりのあるハッカー集団の仕業だ。リストに載ったのはブルックリン住民ばかりだった。
【参考記事】ツイッターを締め出されたISISの御用達アプリ
いたずらではない証拠に、FBIとニューヨーク市警がリストに載った市民全員の元を訪れて、脅迫について知らせた。3500人のニューヨーカーが今まさに、死の脅迫を受け、毎日を過ごしている。
本誌はこの殺害リストへのアクセスを入手した。リストに付されたメッセージ(下)には、「ニューヨークとブルックリン、ほか数都市の最も重要な市民のリスト。奴らに死を。奴らを黙らせろ」とある。
メッセンジャーアプリ「テレグラム」でISISが公開した殺害リストに付けられたメッセージ(Michael S. Smith II/Kronos Advisory)
リストには古くて実在しない電話番号や住所も少なからず含まれていたが、多くが本物の情報だった。ハッカーたちがどのように個人情報を手に入れたかは不明だ。
ISISは過去にも、ジェームズ・クラッパー米国家情報長官、ジョン・ブレナンCIA長官、そして次期米大統領となる可能性があるヒラリー・クリントンといった人物の公になっていない情報を暴露したことがある。
今回のリストは、ISISが2014年に世界的な脅威となって以来、最大の一般市民の個人情報流出だ。彼らの戦略が市民を標的とする方向に変わったことを物語っている。
「死のリスト」に名前が載った人たちは今、どんな気分でいるのだろうか。
匿名を希望したある女性は、ニューヨーク市警の訪問を受けた。警察官は何かあったら電話するようにとFBIの電話番号を彼女に伝え、その後、メールでも連絡をくれたという。しかし、不安は一向に和らいでいない。
「私、交通違反すらしたことないぐらいに恐がりなんです。(脅迫の話を聞いて)私があまりに震え上がっていたので、自分たちも信じていないから、と警察官は言ってくれました」と彼女は言う。「でも、とても不安です」。
一方、リストに名前が載っても気にしないという人もいる。ブルックリン在住の50代のアーティスト、ケイティ・マーズは、個人情報を流すという戦略を「ダサい」と一蹴。「すっかり忘れていました。こんな情報を集めるのは簡単で、誰でもできますよ。私は全然怖いと思っていません」
脅迫リストを元にテロが行われれば恐怖が拡散する
殺害リストを回覧するという戦略を始めたのは、名の知れたISISのイギリス人ハッカー、ジュナイド・フセインだとされている。フセインは2015年8月に、米軍主導の多国籍軍による空爆で死亡した。
また、外国にいる支持者に呼び掛けて、それぞれの国で個別にテロを行えと仕向ける戦略を始めたのは、ISISで対外戦略を担う要職にあり、報道官でもあるアブ・ムハンマド・アルアドナニだ。アルアドナニは2014年9月、肉声による声明を出し、こう呼び掛けている。「不信心者のアメリカ人とヨーロッパ人を殺せ。ヨーロッパ人では、特にフランス人、オーストラリア人、カナダ人......方法は何でも構わない」
【参考記事】ISISがフェイスブックのザッカーバーグに報復宣言
安全保障の専門家で、クロノス・アドバイザリーの共同創設者であるマイケル・スミスによれば、ツイッターやウェブサイトのハッキングといった低レベルのサイバー攻撃よりも、オンラインで支持者に働き掛ける行為のほうがよほど危険だ。ISISはこうした殺害リストを、ツイッターやテレグラムを使ってどんどん拡散・宣伝している。
「これにより世界の潜在的な支持者に向けて重要な合図を送っている。自分の知識や能力を使ってテロを行うことが、支持表明をすることにつながる、というメッセージだ」と、スミスは言う。「(ISIS支持者が)脅迫リストを入手し、その情報を元に標的を決めるようになれば恐怖は一気に広まるだろう」
FBIは本誌の取材に対し、特定の脅迫に関してコメントはしないと書面で回答した。だが今回のリストに載った人たちを訪れて脅迫について知らせたことは認め、一般的な対応だと述べている。
ジャック・ムーア