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キャリアを左右する「職場プロフィール」とは何か

ニューズウィーク日本版 2016年5月12日 20時34分

 日本の労働環境は不可逆の変化を遂げ、安定的な終身雇用制はもはや大企業ですら崩壊した。そんな時代にはキャリアをどう築いていけばよいのだろう。

 社会人デビューの時からそうした環境に置かれている若者だけでなく、新卒での就活が「楽勝」だった世代、あるいは就職氷河期に苦しみながら勤務先を見つけた世代にとっても、共通の悩みだ。新しい環境にうまく適合できていないのは、むしろキャリアをある程度積んだ世代のほうかもしれない。

「新しい、より現実的なアプローチとは、5年を1つの単位として、6~8単位のキャリアを考えることだ」と、米金融大手モルガン・スタンレーの資産管理部門バイスチェアマンであり、キャリアアドバイザーとしても活躍するカーラ・ハリスは言う。ハリスはこのたび、景気や人間関係に左右されないキャリアの戦略作りを指南する新刊『モルガン・スタンレー 最強のキャリア戦略』(堀内久美子訳、CCCメディアハウス)を上梓した。

 ここでは同書の「第2部 ステップアップするために」から一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。第3回は、第2部の「第7章 職場で自分のプロフィールを知る」から。キャリアを伸ばすためには、自分がどういう人間かを知る必要があると、ハリスは言う。職場プロフィールは次の5種類――「有能な兵士」「イエスマン」「反対屋」「堅実な働き手」そして「チーフ」。あなたはどれに当てはまり、そしてそれにどんな意味があるのだろうか。


『モルガン・スタンレー 最強のキャリア戦略』
 カーラ・ハリス 著
 堀内久美子 訳
 CCCメディアハウス


※シリーズ第1回:「5年を1単位」としてキャリアプランを考えよ
※シリーズ第2回:能力が低いから昇進できない、という人はめったにいない

◇ ◇ ◇


「人間よ、汝自身を知れ」――ソクラテス



 誰にでも職場での顔がある。成功への足固めでもっとも重要になるのが、自分を知るということだ。自分はどういう人間か、どんな人間になりたいのかを知っておくべきだ。

 多くの人が順調にキャリアを伸ばせない理由は、自分が本当はどういう人間かを知らず、職場で自分をどう表現すればいいのかわからず、職場でのプロフィールが組織や今の経済状況で重視されることと一致しているかどうかを認識できないからだと私は思っている。

【参考記事】上司は面倒かける部下が大嫌い。上司の負担を軽減できる部下になる5つの方法

 職場でのプロフィールとは、同僚や上の人たちから見た、あなたの組織とのかかわりあい方を指す。新しいポストや仕事、就職の機会が生じたときにあなたのことを思い出してもらえるかどうか、あなたがどう思われるのかに影響するので、非常に重要だ。



 職場プロフィールは、本来のあなた自身とひと続きであるはずだ。多くの人は、職場での顔と、家庭など職場以外での顔は別であるべきだと思っているが、それは違う。前著でも指摘したように、あなたらしさはビジネスという戦いで武器になる。本来の自分と矛盾するプロフィールで働きつづけようとしても、いい仕事はできない。自分のことをよく知れば、自分がどういう環境でプロフィールを充実させ、成長できるのかがわかる。あなたのプロフィールと、あなたが組織に貢献できることを評価してくれる、職場や仕事を求めていくべきなのだ。

 私は自分の経験をもとに、職場プロフィールを次の5種類に絞り込んでみた。

1 有能な兵士
2 イエスマン
3 反対屋
4 堅実な働き手
5 チーフ

 自分がどのプロフィールに当てはまるかによって、責任のレベルや働き方、自己主張の強さ、いつ、どのように昇進するか、報酬にも影響が及ぶ。たとえば、「有能な兵士」と見られている人は、組織がぜひとも抱えておきたいと思うタイプで、一般に「イエスマン」や「反対屋」や「堅実な働き手」より高い給与を得られる。とりわけ組織のトップが強いリーダーで、リーダータイプやリーダーになりたい人を重視する場合にその傾向が強い。

 逆に、トップが強いリーダーシップや自信を持たず、「自分のやり方に文句があるやつに用はない」というタイプなら、「反対屋」は評価されないことが多い。どんな職場環境にもさまざまなプロフィールが存在し、それぞれが役割を果たしている。

 組織で重視され、評価されるプロフィールは経済情勢によって変わるので、入社時の経済状況はきわめて大きな意味を持つ。たとえば不況下では、ほとんどの組織が実行力と同時に柔軟性もある人材を求める。乏しい予算でも業務を遂行し、建設的で、不平を言わず、間違いについてとやかく言わない人間が評価されるだろう。創造性を発揮して業務を遂行できれば評価されるということだ。「やればできる」という積極性が必要で、こうすればできるかもしれないではなく、できない理由ばかり挙げるタイプは認められない。

 一方、経済が堅調であれば、どんなプロフィールも受け入れられる。好況期の経営陣は、職場でさまざまなプロフィールを許容しやすくなるのだ。業績が順調で、リソースの制約がなければ、企業は新しいアイディアを求め、今までにないプロセスを試し、新製品の研究開発に予算を投じやすい。ビジネスが好調なら上司はできるだけ多くの意見を求めようとするから、「イエスマン」も「反対屋」も「堅実な働き手」も容認される可能性が高い。

 新しく組織に入るときは、自分がどういう人間で、自分のプロフィールが組織の文化や上司とどう折り合うかを理解しておくことが重要だ。また、自分のプロフィールをこれからどのように進化させたり、改良、変更していけばいいかも考えておくといい。



 自分のプロフィールを考えるには、自分に次のような質問をしてみよう。

・この先、多少とも自分を犠牲にすることを厭わないか。
・キャリアで個人的なリスクを冒すことを厭わないか。
・重大な責任を負う気はあるか。
・人に指図したり、管理することが得意か。
・権限のあるポストに昇格するために必要な人間関係を育む努力をする気があるか。いわゆる社内政治に大きくかかわる気は?
・挫折に前向きに対処できるか。
・人を管理できるか。その権限を、指名した相手に委譲できるか。
・他人から指示されて仕事をするほうがいいか。それともコンセプトを打ち立て、それを個別のタスクに落とし込んでプロジェクトを実行したいか。
・権威を疑うことが好きか。
・いつも相手の言うことに異を唱えたり、提案にケチをつけようとしていないか。

◇ ◇ ◇

 さて、自分がどのプロフィールに当てはまるか、わかっただろうか?

 5種類の職場プロフィールについて簡潔に説明すると、まず「有能な兵士」は「命令に従い、職務をいつも的確に、時間どおりに遂行するタイプ」だ。上司からも同輩からも高く評価されるが、「他を圧倒するようなスーパースターとは見られていない」。不況期にぴったりの人材だと、ハリスは分類する。

 一方、「イエスマン」は「どのような状況でも、権限のある人に必ず同意するタイプ」。「とてもリスクが低く、安全性が高い。およそどんな職場でも平社員から中間管理職レベルまで出世できるが、仕事での成長は何を指示されたかに左右されるだろう」と、ハリスは言う。それに対し、「反対屋」は「いつも他人の意見にケチをつけるタイプ」ではあるが、「技術系の企業のように、イノベーションを第一とする職場」では重宝される。

「堅実な働き手」は、いわば「有能な兵士の若手バージョン」だ。高く評価されるが、実行力だけでなく戦略的な問題解決能力も示さなければ、昇進の第一候補者にはなれない。そして「チーフ」は、「強烈なビジョンと強力なマネジメントスキル、際立つ実行力を持ち、他人のやる気を引き出し、いかなる経済状況でも組織を前進させる力のあるタイプ」。どんな経済状況でも活躍すると、ハリスは言う。

 ハリスによれば、どのプロフィールの人物が活躍するかは「経済状況と職場のリーダーの質」に左右されるという。「有能な兵士」でなければ昇進できないわけではないし、万能に思える「チーフ」を評価しないリーダーもいるのだ。また、どのタイプであっても、すぐれたリーダーになることができると、ハリスは解説する。

 あなたはどういう人間か。「最強のキャリア戦略」には、自分をよく知り、それを職場で表現することが欠かせない。

※シリーズ第1回:「5年を1単位」としてキャリアプランを考えよ
※シリーズ第2回:能力が低いから昇進できない、という人はめったにいない


『モルガン・スタンレー 最強のキャリア戦略』
 カーラ・ハリス 著
 堀内久美子 訳
 CCCメディアハウス



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