<オバマ米大統領の広島訪問に対応する形で、安倍首相の真珠湾献花が議論されている。その実現は早ければ早い程良いが、現在進行中の大統領選と重なるとせっかくの意義が薄れてしまうおそれもある>(写真はハワイの戦艦アリゾナ記念館)
今月27日に予定されているオバマ大統領の広島訪問に呼応するように、安倍首相がハワイの真珠湾を訪問にして「相互献花外交」を完結するという提案に関しては、このコラムでも繰り返し説明した通りです。
問題はタイミングです。私としては、依然として「直後の5月30日(メモルアルデー)」がベストと考えていますが、日程が迫る中で難しくなりつつあるのかもしれません。もし、仮に行うのであれば、様々な制約があると思います。
一つ一つの問題は、かなりクリティカルですので、あらためて早期発表、早期実現がベストだということを強く申し上げたいと思います。
まず、一部で報道されている11月のペルーAPECの際に首相が立ち寄るという構想、また12月の「真珠湾攻撃75周年」というタイミングについてですが、米大統領選の直後というのが心配です。
というのは、万が一11月8日に「トランプ当選」の場合、どうしても「トランプ政権登場というショックに対するリアクション」というニュアンスが出てしまうからです。つまり、「トランプ政権を意識しての行動」という印象を与え、総理が「トランプの風下に立つ」形になるわけです。これは好ましくありません。
ですから、やはり発表も実現も11月7日以前が望ましいということになります。また投票日直前になれば、その行動自体はアメリカ人としては超党派で歓迎するとは思いますが、政治的には避けるべきですし、アメリカでの報道における扱い(これが一番大切)が小さくなる危険があります。その意味で、9月以降の「本選たけなわ」という時期は避けるべきでしょう。
アメリカでの報道ということでは、仮に5月30日のメモリアルデーの訪問が不可能であっても、5月27日以前に発表できれば効果は大きいと思われます。というのは、広島からの中継映像において、CNNをはじめとする米メディアが安倍総理を「真珠湾訪問を決断した総理大臣」として紹介することになるからです。
何と言っても、オバマ大統領の広島訪問というのは、アメリカ社会に取っては「ビッグ・イベント」ですから多くの報道陣が来ます。そこで同行する安倍首相が「すでに真珠湾行きを発表している」ということになれば、アメリカ社会の中の「オバマ献花への反対論」を打ち消す効果、そして日米関係の重要性に関して改めてアピールする効果があるように思います。
それだけではなく、トランプ候補が言っている「在日米軍の駐留コスト100%負担がなければ米軍は撤退」とか「その場合には日韓に核武装を認める」といった「思いつき」がいかにバカバカしいかを、「オバマ大統領と安倍首相の厳粛な表情の映像」を持ってアメリカの世論にアピールすることも可能になります。
さらに、これはやや政治的計算になりますが、「真珠湾行きを決断」したということになれば、G7の議長国としての進行にも追い風となるでしょう。そうなれば日本は為替操作国といった偏見報道を抑制することも可能になると思います。
アベノミクスの円安は、アメリカの雇用を奪うものではないし、増税延期をするかどうかについても、財政再建にベストの判断となるように検討している、そうした日本の立場を正確に理解してもらうには、国際社会における首相の権威が高まることが有効だと思うからです。
いずれにしても、広島における追悼の儀式は大変に重要である一方で、この歴史的なイベントのウラには「トランプ現象という排外ポピュリズム」にどう対抗するかという問題、そして「通貨戦争」という文脈も意識せざるを得ないことがあると思います。
やはり、5月27日以前に発表、そして実際に訪問する日付も8月末以前というのが良いと考えられます。問題は増税先送り、そして解散の判断を含めたタイミングについて政権としては判断が難しいということかもしれません。ですが、それでも万難を排して、早期発表、早期実現を期待したいと思うのです。
【参考記事】オバマ大統領の広島訪問が、直前まで発表できない理由
最後に一点、これは確定した話ではないのですが、真珠湾献花を急がなくてはならない物理的事情もあります。真珠湾献花がどうして重要なのかというと、ここが戦端の開かれた土地であるだけでなく、この場所で日本軍の攻撃を受けて沈没している戦艦アリゾナには、1000人を越える将兵の遺骨が艦内に眠っているからです。
ですから、このアリゾナ記念館というのは、文字通りの墓所であり、だからこそ献花にはエモーショナルな意味合いがあるわけです。その将兵の遺骨に関して「引き揚げてDNA鑑定を行い遺族に引き渡す」という構想が出たり入ったりしているのです。
例えば近年、同じく真珠湾内で攻撃を受けて沈没した戦艦オクラホマから、7人の兵士の遺骨が回収され、DNA鑑定されています。アリゾナに関しても、戦没者の遺骨を特定できるのであれば、遺族の元に戻すべきという声が出ています。もしも、こうした動きが実現するようですと、アリゾナという戦艦は近い将来には沈黙の墓所ではなくなってしまいます。
もちろん、遺骨が家族の元へ帰還して永眠の地を得ることは良いことですが、日本国総理大臣の献花というのは、その前に行われるべきなのが歴史の順序だと思います。そう考えると、ハッキリとは申し上げられませんが、残された時間は限られている、その点の配慮も必要と思われます。
今月27日に予定されているオバマ大統領の広島訪問に呼応するように、安倍首相がハワイの真珠湾を訪問にして「相互献花外交」を完結するという提案に関しては、このコラムでも繰り返し説明した通りです。
問題はタイミングです。私としては、依然として「直後の5月30日(メモルアルデー)」がベストと考えていますが、日程が迫る中で難しくなりつつあるのかもしれません。もし、仮に行うのであれば、様々な制約があると思います。
一つ一つの問題は、かなりクリティカルですので、あらためて早期発表、早期実現がベストだということを強く申し上げたいと思います。
まず、一部で報道されている11月のペルーAPECの際に首相が立ち寄るという構想、また12月の「真珠湾攻撃75周年」というタイミングについてですが、米大統領選の直後というのが心配です。
というのは、万が一11月8日に「トランプ当選」の場合、どうしても「トランプ政権登場というショックに対するリアクション」というニュアンスが出てしまうからです。つまり、「トランプ政権を意識しての行動」という印象を与え、総理が「トランプの風下に立つ」形になるわけです。これは好ましくありません。
ですから、やはり発表も実現も11月7日以前が望ましいということになります。また投票日直前になれば、その行動自体はアメリカ人としては超党派で歓迎するとは思いますが、政治的には避けるべきですし、アメリカでの報道における扱い(これが一番大切)が小さくなる危険があります。その意味で、9月以降の「本選たけなわ」という時期は避けるべきでしょう。
アメリカでの報道ということでは、仮に5月30日のメモリアルデーの訪問が不可能であっても、5月27日以前に発表できれば効果は大きいと思われます。というのは、広島からの中継映像において、CNNをはじめとする米メディアが安倍総理を「真珠湾訪問を決断した総理大臣」として紹介することになるからです。
何と言っても、オバマ大統領の広島訪問というのは、アメリカ社会に取っては「ビッグ・イベント」ですから多くの報道陣が来ます。そこで同行する安倍首相が「すでに真珠湾行きを発表している」ということになれば、アメリカ社会の中の「オバマ献花への反対論」を打ち消す効果、そして日米関係の重要性に関して改めてアピールする効果があるように思います。
それだけではなく、トランプ候補が言っている「在日米軍の駐留コスト100%負担がなければ米軍は撤退」とか「その場合には日韓に核武装を認める」といった「思いつき」がいかにバカバカしいかを、「オバマ大統領と安倍首相の厳粛な表情の映像」を持ってアメリカの世論にアピールすることも可能になります。
さらに、これはやや政治的計算になりますが、「真珠湾行きを決断」したということになれば、G7の議長国としての進行にも追い風となるでしょう。そうなれば日本は為替操作国といった偏見報道を抑制することも可能になると思います。
アベノミクスの円安は、アメリカの雇用を奪うものではないし、増税延期をするかどうかについても、財政再建にベストの判断となるように検討している、そうした日本の立場を正確に理解してもらうには、国際社会における首相の権威が高まることが有効だと思うからです。
いずれにしても、広島における追悼の儀式は大変に重要である一方で、この歴史的なイベントのウラには「トランプ現象という排外ポピュリズム」にどう対抗するかという問題、そして「通貨戦争」という文脈も意識せざるを得ないことがあると思います。
やはり、5月27日以前に発表、そして実際に訪問する日付も8月末以前というのが良いと考えられます。問題は増税先送り、そして解散の判断を含めたタイミングについて政権としては判断が難しいということかもしれません。ですが、それでも万難を排して、早期発表、早期実現を期待したいと思うのです。
【参考記事】オバマ大統領の広島訪問が、直前まで発表できない理由
最後に一点、これは確定した話ではないのですが、真珠湾献花を急がなくてはならない物理的事情もあります。真珠湾献花がどうして重要なのかというと、ここが戦端の開かれた土地であるだけでなく、この場所で日本軍の攻撃を受けて沈没している戦艦アリゾナには、1000人を越える将兵の遺骨が艦内に眠っているからです。
ですから、このアリゾナ記念館というのは、文字通りの墓所であり、だからこそ献花にはエモーショナルな意味合いがあるわけです。その将兵の遺骨に関して「引き揚げてDNA鑑定を行い遺族に引き渡す」という構想が出たり入ったりしているのです。
例えば近年、同じく真珠湾内で攻撃を受けて沈没した戦艦オクラホマから、7人の兵士の遺骨が回収され、DNA鑑定されています。アリゾナに関しても、戦没者の遺骨を特定できるのであれば、遺族の元に戻すべきという声が出ています。もしも、こうした動きが実現するようですと、アリゾナという戦艦は近い将来には沈黙の墓所ではなくなってしまいます。
もちろん、遺骨が家族の元へ帰還して永眠の地を得ることは良いことですが、日本国総理大臣の献花というのは、その前に行われるべきなのが歴史の順序だと思います。そう考えると、ハッキリとは申し上げられませんが、残された時間は限られている、その点の配慮も必要と思われます。