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イランがホロコースト風刺画コンテスト、シャルリ・エブドへの報復

ニューズウィーク日本版 2016年5月19日 17時6分

 イランは過去、ナチスによるユダヤ人大虐殺を否定してきた。生き残ったユダヤ人が作った国がイスラエルで、イスラエルはイランの仇敵だからだ。そのイランが首都テヘランで、ホロコーストの風刺画コンテストを開いている。フランスの風刺週刊紙シャルリ・エブドなど、他人の価値観は愚弄するが自分たちの価値観に触られるのは許せない欧米への報復だという。暴力や憎悪を扇動するような行為に、ドイツ、アメリカ、イスラエルなどは一斉に反発した。

「600万人もの男女と子供が殺されたホロコーストは、ドイツが過去に犯した罪であり、ドイツは歴史的責任を負っている。この歴史が嘲笑されるのを座視するわけにはいかない」

 ドイツ外務省のマルティン・シェーファー報道官はそう述べて、フランクワルター・シュタンインマイヤー独外相が2月のイラン訪問中に批判したにもかかわらず、コンテストが実施されたことは「非常に遺憾だ」と抗議した。

パレスチナ人のホロコーストは?

 イランの英字紙テヘラン・タイムズによると、コンテストにはフランス、オーストラリア、ブラジル、中国、インドネシア、コロンビアなど20数カ国のアーティストが参加。150点の応募作品がテヘランのアート・ビューローで14日から展示されている。優勝賞金は1万2000ドルだ。

「この展示は、預言者ムハンマドを侮辱したフランスの週刊紙シャリル・エブドに対する報復であり、パレスチナ人大虐殺に対する(抗議の)表明だ」

【参考記事】「表現の自由」の美名に隠れた憎悪も糾弾せよ
【参考記事】「名前はまだない」パレスチナの蜂起


 コンテストを企画したマスード・ショジャエイタバタベイはイラン国営の衛星放送アルアラムTVの報道番組でそう語っている。ワシントンのNPO、中東メディア研究所がこのニュース映像に英語の字幕をつけて、YouTubeに投稿している(下)。



「ホロコーストがあったか、なかったかを問うつもりはない」と、ショジャエイタバタベイはテヘラン・タイムズの取材に語った。「(欧米は)言論の自由を振りかざすくせに、なぜホロコーストについては自由に発言できないのか、そこが大いに疑問だ」

 報道によれば、ショジャエイタバタベイは14日の開幕時の記者会見で、コンテストの目的をホロコーストと預言者ムハンマドで扱いが異なる欧米のダブルスタンダード(二重基準)を暴くことだと説明した。「ホロコーストは大量殺戮を意味するが、ガザとパレスチナでが史上最大の殺戮を行っているシオニスト政権(イスラエル)のことは誰も非難しない」



 イラン政府は過去にホロコーストを否認したことがある。マフムード・アハマディネジャド前大統領は05年の就任後まもなくホロコーストはシオニストがでっち上げた「神話」だと発言し、物議をかもした。最高指導者アリ・ハメネイ師も14年のノウルーズ(イラン暦の元日)に行った演説で、ホロコーストが「あったかどうかは不確かで、あったとしても、その実態ははっきりしない」と述べている。

イラン政府が関与か

 今回のコンテストにいち早く抗議の声を上げたのは、風刺漫画家の格好のネタになっているイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相だ。15日にエルサレムで行われた定例閣僚会議で、イランは「ホロコーストを否認・愚弄し、さらなるホロコーストを準備するもの」と主張し、「世界中の国が立ち上がり、この暴挙を糾弾すべきだ」と声を荒げた。

 米国務省のマーク・トナー報道官も同日、「(コンテストは)ホロコースト否認と歴史修正主義、言語道断な反ユダヤ主義の発言が飛び交う場として利用される」おそれがあると、米政府の憂慮を表明した。

「ホロコーストを否定したり矮小化する企ては扇動的で嫌悪すべきものだ。公的機関と市民社会はこうした不快な発言を奨励すべきではなく、強く非難すべきだ」

 ニューヨーカー誌の先月号のインタビューで、イランのジャバド・ザリフ外相は、コンテストは非営利団体の主催によるもので、イラン政府は関与していないと言った。しかし、ショジャエイタバタベイも、彼と共にコンテストを企画した亡命イラン人ジャーナリストのアイダ・カジャルも、イラン政府は無関係かと聞かれてノーと答えている。

スタブ・ジブ

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