<民主党予備選で勢いに乗るサンダースはマジックナンバー獲得の可能性がなくなっても敗北を認めようとしない。党大会まで持ち込んでヒラリーに逆転する最後のシナリオに賭けているのだが、最終局面までもつれこんで党大会が混乱すれば本選で「敵を利する」ことは明らかだ>
今月17日にケンタッキー州とオレゴン州で民主党の予備選が行われた。ケンタッキーではヒラリー・クリントン候補が46.8%、バーニー・サンダース候補が46.3%と僅か0.5ポイント差でヒラリーが辛くも勝利した。オレゴンでは、56%対44%でサンダースが圧勝している。
今回の結果の意味合いだが、ケンタッキーは「ヒラリーが連敗を止めた」という見方もある一方で、強かったはずの南部でもサンダースに猛追されたという厳しい見方もできる。
一方のオレゴンに関しては、6月7日の天王山となるカリフォルニア州予備選の前哨戦として、サンダース陣営にとって勝利の意味は大きい。
このように依然としてサンダースの勢いは止まっていない。しかし肝心の獲得代議員数では、ヒラリーは2295まで数字を伸ばし、過半数超えのマジックナンバー2383に達するのは時間の問題になっている。一方のサンダースは、実は「過半数超え」の可能性は事実上なくなっている。
問題は、サンダース陣営には指名獲得の最後の作戦が残っていることだ。それは3段階のステップを踏むシナリオである。
【参考記事】打倒トランプへヒラリーが抱える弱点
第1段階では、カリフォルニアまで選挙戦を「完走」して、最後まで勢いを見せる。
第2段階は、そのうえで堂々と党大会に乗り込み、ヒラリーがほぼ独占している「スーパー代議員」に対して、民意を反映せよと強く迫る。結果として、現在は521対41と圧倒的多数がヒラリー支持を表明している党幹部、党所属議員たちの一部をサンダース支持に翻意させ、第1回投票で「ヒラリー過半数に達せず」のサプライズに追い込む。
そして第3段階として、党大会が「第2回の決選投票」を行い、そこで代議員の多くが予備選の結果にも事前に明らかにした支持表明にも縛られない「白紙に戻しての自由投票」となり、最後にサンダースが勝利する。
もちろん、99%は非現実的と言える。だが、サンダース陣営は、こうした可能性を信じているからこそ、今でも選挙戦を継続している。同時に資金も集まってきているので、カリフォルニアまで完走する姿勢に揺るぎはない。
サンダース陣営は、どうして「敗北を認めないのか?」という問いに対して、「自分たちの方がトランプとの決戦では有利」だと主張しているが、実際に「1対1の本選」についての世論調査をすれば、トランプと対決した場合、ヒラリーよりサンダースの方が勝利の可能性は高くなるというデータが出ている。こうしたデータを根拠に、サンダースは「本当に勝てる候補は自分だ」と、自信満々でいる。
そればかりか、「ガチンコ党大会」に備えての駆け引きもスタートしている。例えば先週14日には、ネバダ州で「州の党大会」が開かれ、実際に代議員の選出が行われた。党の伝統的なルールに従って、予備選結果に基づいて代議員が割り振られたのだが、つめかけたサンダース支持者は結果が不満だとして、椅子を投げるなどの暴力行為に及んだ。
サンダース自身は、そのような暴力行為をいましめているが、予備選の選出ルールが「エスタブリッシュメントに有利になっている」ことへの怒りは、支持者の間には渦巻いており、党の幹部に対して「脅迫メール」が送られる事件も起きている。
【参考記事】米共和党、トランプ降ろしの最終兵器
実は民主党の歴史上では、党大会が怒号渦巻く混乱状態に陥ったケースもある。1968年の党大会がまさにそうだ。当時の民主党は、現職のジョンソン大統領が再選立候補を断念し、さらには予備選でトップを独走していたロバート・ケネディ上院議員が暗殺され、反戦派のマッカーシー議員が有力視されていたが、決め手を欠いていた。
そこで、8月末に開かれた党大会で、党の長老などが工作して現職副大統領のヒューバート・ハンフリーが大統領候補に選出された。しかしこのハンフリー候補は、予備選にはまったく出ていない「白紙」からの候補指名であり、しかも反戦派には受け入れ難い人選だった。
このために、シカゴは混乱状態となって、警察とデモ隊が激しく衝突する「荒れる党大会」になった。こうした党の混乱は、全国レベルでは民主党のイメージダウンに直結し、結果的に共和党のニクソン大統領が勝利する一因になったとされている。
要するに党大会が混乱すれば「敵を利する」のは歴史的な教訓なのだ。だが、それでもサンダース陣営にはブレーキはかからない。トランプが指名確実となった共和党だけでなく、民主党の側も異常事態に陥っている。
<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>
≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)
今月17日にケンタッキー州とオレゴン州で民主党の予備選が行われた。ケンタッキーではヒラリー・クリントン候補が46.8%、バーニー・サンダース候補が46.3%と僅か0.5ポイント差でヒラリーが辛くも勝利した。オレゴンでは、56%対44%でサンダースが圧勝している。
今回の結果の意味合いだが、ケンタッキーは「ヒラリーが連敗を止めた」という見方もある一方で、強かったはずの南部でもサンダースに猛追されたという厳しい見方もできる。
一方のオレゴンに関しては、6月7日の天王山となるカリフォルニア州予備選の前哨戦として、サンダース陣営にとって勝利の意味は大きい。
このように依然としてサンダースの勢いは止まっていない。しかし肝心の獲得代議員数では、ヒラリーは2295まで数字を伸ばし、過半数超えのマジックナンバー2383に達するのは時間の問題になっている。一方のサンダースは、実は「過半数超え」の可能性は事実上なくなっている。
問題は、サンダース陣営には指名獲得の最後の作戦が残っていることだ。それは3段階のステップを踏むシナリオである。
【参考記事】打倒トランプへヒラリーが抱える弱点
第1段階では、カリフォルニアまで選挙戦を「完走」して、最後まで勢いを見せる。
第2段階は、そのうえで堂々と党大会に乗り込み、ヒラリーがほぼ独占している「スーパー代議員」に対して、民意を反映せよと強く迫る。結果として、現在は521対41と圧倒的多数がヒラリー支持を表明している党幹部、党所属議員たちの一部をサンダース支持に翻意させ、第1回投票で「ヒラリー過半数に達せず」のサプライズに追い込む。
そして第3段階として、党大会が「第2回の決選投票」を行い、そこで代議員の多くが予備選の結果にも事前に明らかにした支持表明にも縛られない「白紙に戻しての自由投票」となり、最後にサンダースが勝利する。
もちろん、99%は非現実的と言える。だが、サンダース陣営は、こうした可能性を信じているからこそ、今でも選挙戦を継続している。同時に資金も集まってきているので、カリフォルニアまで完走する姿勢に揺るぎはない。
サンダース陣営は、どうして「敗北を認めないのか?」という問いに対して、「自分たちの方がトランプとの決戦では有利」だと主張しているが、実際に「1対1の本選」についての世論調査をすれば、トランプと対決した場合、ヒラリーよりサンダースの方が勝利の可能性は高くなるというデータが出ている。こうしたデータを根拠に、サンダースは「本当に勝てる候補は自分だ」と、自信満々でいる。
そればかりか、「ガチンコ党大会」に備えての駆け引きもスタートしている。例えば先週14日には、ネバダ州で「州の党大会」が開かれ、実際に代議員の選出が行われた。党の伝統的なルールに従って、予備選結果に基づいて代議員が割り振られたのだが、つめかけたサンダース支持者は結果が不満だとして、椅子を投げるなどの暴力行為に及んだ。
サンダース自身は、そのような暴力行為をいましめているが、予備選の選出ルールが「エスタブリッシュメントに有利になっている」ことへの怒りは、支持者の間には渦巻いており、党の幹部に対して「脅迫メール」が送られる事件も起きている。
【参考記事】米共和党、トランプ降ろしの最終兵器
実は民主党の歴史上では、党大会が怒号渦巻く混乱状態に陥ったケースもある。1968年の党大会がまさにそうだ。当時の民主党は、現職のジョンソン大統領が再選立候補を断念し、さらには予備選でトップを独走していたロバート・ケネディ上院議員が暗殺され、反戦派のマッカーシー議員が有力視されていたが、決め手を欠いていた。
そこで、8月末に開かれた党大会で、党の長老などが工作して現職副大統領のヒューバート・ハンフリーが大統領候補に選出された。しかしこのハンフリー候補は、予備選にはまったく出ていない「白紙」からの候補指名であり、しかも反戦派には受け入れ難い人選だった。
このために、シカゴは混乱状態となって、警察とデモ隊が激しく衝突する「荒れる党大会」になった。こうした党の混乱は、全国レベルでは民主党のイメージダウンに直結し、結果的に共和党のニクソン大統領が勝利する一因になったとされている。
要するに党大会が混乱すれば「敵を利する」のは歴史的な教訓なのだ。だが、それでもサンダース陣営にはブレーキはかからない。トランプが指名確実となった共和党だけでなく、民主党の側も異常事態に陥っている。
<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>
≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)