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不明のエジプト航空機、A320は普通は落ちない-専門家

ニューズウィーク日本版 2016年5月20日 14時50分

<昨日地中海上空で消息を絶ったエジプト航空機は、機体が安全性の高さで知られるエアバスA320型機だったことなどから、テロによる爆破の疑いが強いと航空専門家はみる。航空機が相次いでテロに狙われているエジプトの観光業へのダメージも大きい>(写真は不明機と同じエアバスA320型のエジプト航空機)

 昨日午前に地中海の上空で消息を絶ったパリ発カイロ行きのエジプト航空804便に使われていたエアバスA320型機は、短距離、中距離のフライトでは最も安全性が高い機種として知られる。

 1988年の就航以来、世界中で9800万回飛んでいるが、死亡事故は12回しか起きていない。事故原因のほとんどはパイロットの操縦ミスかテロ行為だ。

 A320型のシリーズ機種(A318、A319、A321)を合わせると、300社以上の航空会社が採用しているとエアバスは話している。

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 今週エジプト航空機が不明になった理由については、多くの推測が飛び交っている。その中には航空機のトラブルという説もある。

 不明になった機体は、2003年から804便に使用され、フライト回数は約4万8000回。使用年数も回数も耐用基準を越えていないことから、航空専門家は機械的なトラブルが原因だった可能性は低いと見ている。

操縦していたのはコンピューター?

「A320は、格安航空会社からブリティッシュ・エアウェイズ、エールフランスといった大手まであらゆる航空会社で使用されている」と、30年以上航空コンサルタント会社を経営しているニール・ハンスフォードは言う。

「短距離、中距離の航空市場の中核機だ。運航履歴を見ても安全性が高く、過去に発生した大きな事故は、いずれもパイロットの操縦ミスが原因で、機械的なトラブルではない。他に理由がなければ墜落する機体ではない」

 ハンスフォードによると、機体が消息を絶ったのは高度1万1000メートルを飛行中で、通常ならパイロットが直接操縦はしていない状態だ。

「高度1万1000メートルでは何も起こらない」と、ハンスフォードは言う。「多くの自動操縦システムが機能しているため、A320は実質的にコンピューターが操縦している」

「それだけに機体に関する問題があったとは考えられない。爆発物の方が遥かに可能性が高い」

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 異常があればそれを知らせるシステムも二重三重に備えており、それが作動しなかったのもおかしいという指摘もある。



 イギリス政府の航空事故調査部のメンバーを16年間務め、88年にイギリスのロッカビーでパンアメリカン機が爆破・墜落された事件の調査に加わったフィル・ジャイルズも、同じ見方をしている。ジャイルズは、A320型の運航履歴は「非常に高い安全性」を示し、爆発以外に高度上空で機体が分散する事態が発生する可能性は「極めて小さい」という。

 一方で、仮にこれがテロだとすると、この半年の間にエジプトでは航空機が3回もテロの標的になっている。昨年11月にはシナイ半島のリゾート地を離陸したチャーター機が直後に爆発物によって撃墜され、乗っていた224人が死亡した。

 エジプトの観光産業の依存度は高く、GDPの約11%を観光関連の売り上げが占めている。最近では政情不安も重なって外国人旅行客の数が急減していて、この事件がさらに観光業に影を落とすのではないかと関係者は不安を感じている。

アンソニー・カスバートソン

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