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未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会

ニューズウィーク日本版 2016年5月24日 15時45分

<日本では未婚率が上昇しているが、未婚男性の「不幸」感は諸外国と比較すると抜群に高い。日本の未婚女性と比較してもその差は大きい。伝統的なジェンダー観が根強い日本では、未婚男性が幸福を感じにくい社会になっている>

 社会意識調査の定番の設問に「あなたは幸福ですか?」がある。性別や年齢別の比較、最近では正規雇用者と非正規雇用者の間で比較されたりするが、既婚者と未婚者でくらべてみるとどうなるだろうか。

 日本では未婚化が進んでいるが、「結婚がわずらわしい」という意識の変化と同時に、結婚したくてもできないという、非自発的な要素も大きいと考えられる。そうだとすると、「不幸」と感じる者の割合は、既婚者より未婚者の方が高いと思われる。年齢を重ねた中高年層にあっては、特にその傾向が強くなるだろう。

 世界の主要国で、30~50代の中高年男女の不幸感がどう違うかを、既婚者と未婚者で比較してみた。<図1>が、そのグラフだ。資料は『第6回世界価値観調査』で、グラフ中の「瑞」はスウェーデンを指している。イギリスとフランスは、この調査に参加していない。



 どの国でも既婚者より未婚者、同じ未婚者でも女性より男性の方が不幸感は高い。しかし日本の未婚男性の不幸率は43.5%で群を抜いている。未婚女性(8.1%)との差も際立って大きい。結婚して家族を形成できないことの不幸は、日本では男性の方に集中しているようだ。

【参考記事】今の日本に機会均等はあるか?

 日本では、伝統的に「男性は結婚して家庭を持って一人前」という風潮があるので、未婚の男性に対する風当たりが強いのかもしれない。家事スキルのない独身男性は生活が荒むとか、過重労働の疲れを癒してくれる「情緒安定」の場が得られないなど、他にもいろいろな要因は考えられる。

 日本の男性がいかに家族に依存しているか、いかに「弱い」存在であるかを示すデータだ。どの国でもある程度、同様の傾向は見られるが、ジェンダー規範の強い日本ではそれがとりわけ顕著なのだろう。



 ちなみに日本では離婚のインパクトも男女でかなり差異が生じている。戦後の離婚率と自殺率の推移を見ると、2つのデータの相関関係は男女でかなり様相が違っている。

 <図2>は、1950年から2014年までの時系列データをもとに作成した、離婚率と自殺率の相関図だ。最新の2014年のドットは、赤色で示している。



 男性は、離婚率が高い年ほど自殺率も高い傾向にあるが、女性は逆になっている。相関係数(-1から+1までの値をとる測度で、前者に近いほどマイナス、後者に近いほどプラスの相関が強いことを意味する)を計算すると、男性では+0.7599,女性では-0.4802で、両方とも統計的に有意(相関関係があること)だ。

 男性の場合、支える目的や情緒安定の場の喪失という意味で、離婚(家族解体)は自殺のきっかけになり得るが、女性は必ずしもそうではないことが示唆されている。女性の場合は、家庭の諸々の束縛から解放されるという点で、離婚は自殺の抑止因になっていることも考えられる。

【参考記事】日本男子「草食化」の背景にある経済格差

 いみじくもフランスの社会学者デュルケームは、『自殺論』の中で次のように述べている。「結婚生活は、女子が自分の運命を耐えがたく感じたときでも、その運命を変更することを禁じている。したがって、その規則(筆者注:離婚の抑制)は、女子にとっては、これといった有利さも与えられない一つの拷問なのだ」(宮島喬訳『自殺論』中公文庫〔1985年〕)と。

 19世紀のヨーロッパ社会の観察に基づく所見だが、現代の日本でも、結婚生活が女性にとって窮屈なものであることは否めないだろう。

 未婚男性の「不幸」感が未婚女性と比較して著しく高いというデータは、日本の家族の意味合いが男女で異なっていることがうかがわれる。それは、著者の過去の記事でこれまでにも指摘していることだが、日本社会の性役割規範(ジェンダー観)がいまだに根強いことの証左に他ならない。

<資料:「第6回・世界価値観調査」(2010~14年)、
    厚生労働省「人口動態統計」>

≪筆者の記事の一覧はこちら≫

舞田敏彦(教育社会学者)

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