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EU残留支持率の高い若年層が投票に来ない!?

ニューズウィーク日本版 2016年5月26日 19時0分

<EU離脱の是非をめぐって来月行われるイギリスの国民投票。若年層にはEU支持派が多いが、同時に投票にこない確率も高いことがわかって残留派はパニック状態> 写真中央は残留派を率いるキャメロン首相

 EU離脱の是非を問う6月23日の国民投票まで秒読み段階に入ったイギリス。デービッド・キャメロン首相をはじめEU残留派は若年層の票の取り込みに血眼になっている。

【参考記事】「EU残留」死守へ、なりふり構わぬ運動開始

 残留派の市民団体「ブリテン・ストロンガー・イン・ヨーロッパ(BSE)は、スマートフォンでソーシャルメディアをのぞく若者たちに受けようと、ハッシュタグ・ボーティン(#Votin)と銘打ったキャンペーンを開始。EUに留まれば、域内を自由に旅行でき(#goin)、所得(#earnin)も上がり、生活全般(#livin)がよくなると、若者言葉を使って説得に務めている。


VOTIN from Alex Clifford on Vimeo.

 この涙ぐましいキャンペーンは、ツィッター上で早速、当の若者におちょくられている。NBCのドラマ『30ROCK』で、スケボーを担いだ中年オヤジが若者たちの仲間に入ろうとする場面をほうふつさせるというのだ。

 残留派が若者にすり寄るのも無理はない。英調査会社ユー・ガブが今週発表した調査結果では、18~29歳の若年層は残留支持の多さでは上から3番目だが、投票する確率では下から2番目だ。残留派はこの層を何とか動員しようと、各地の大学で学生たちに投票を呼び掛けたり、離脱派の家族を説得するようドラマ仕立ての動画で訴えたりしている。

昨年の総選挙では「シルバー票」に助けられたが

 保守党員以外の残留派があげつらう皮肉な事実がある。キャメロン率いる保守党は昨年の総選挙に向けて、有権者登録を世帯ではなく、個人で行うよう制度を変更した。その結果、若年層の多くが登録から漏れてしまった。英紙ガーディアンの今年1月の報道によると、有権者の1.8%は未登録とみられ、特に学生は未登録者が多い。今月5日に行われた統一地方選挙のために新たに登録を済ませた若者もいるが、依然として若年層の未登録問題が残留派のネックになっている。

【参考記事】EU離脱、ブレグジットの次はフレグジットにスウェグジット?

 昨年の総選挙では、制度変更のおかげで「シルバー票」が保守党の圧勝を支えたが、今やそれが裏目に出ているという厳しい現実に、キャメロン政権のスタッフはパニックになっている──残留派と話したという情報筋は本誌にそう打ち明けた。BSEのスタッフも「誰もがこの問題で大騒ぎしている」と認めつつ、「制度変更は済んだこと。今さら騒いでもしょうがない」とあきらめ顔だ。



 それでなくても、若者はなかなか投票所に足を運んでくれない。オックスフォードなどの大学が共同で実施した調査によると、登録済みの有権者の中でも、若年層の投票率は70年代以降ずっと最低ラインに留まっている。調査会社ICMの13年の調査でも、若者の政治離れが浮き彫りになった。

 国民投票に参加するには、6月7日までに有権者登録を済まさなければならない。残留派が若年層の票をつかめるかどうかは予断を許さないが、希望のもてる材料はある。ハッシュタグ・ボーティンの宣伝キャンペーンが若者にこけにされていることだ。オンライン雑誌ザ・ドラムによると、BSEの委託でこのキャンペーンを手掛けたコンサルティング会社ベンチャースリーはダサい中年オヤジ路線をわざと狙ったという。

「ありきたりの訴えではダメだと思った。若い子たちが面白がって、ソーシャルメディア上でイジってくれたら、関心が高まる」若者言葉のコピーを書いた同社のライター、TJ・リースはそう語っている。

 笑いのネタにされる残留派だが、案外、若者の気持ちが分かっているのかもしれない。

ジョシュ・ロウ

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