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「ロックもラップもいずれ死ぬ」

ニューズウィーク日本版 2016年5月27日 17時0分

<デビッド・ボウイやプリンスと同世代で「毎朝起きるのが楽しくてしようがない」という「キッス」のジーン・シモンズ(66)が自らの哀れな老いとロックの死について語る>

 元祖ビジュアル系ヘビーメタルバンド「キッス」。そのフロントマンを務めるジーン・シモンズ(66)は、1月に69歳で死去したデビッド・ボウイや、先月57歳で急逝したプリンスと同世代だ。

 だが、さすがの死に神も、シモンズには当分手を出しそうにない。何しろ毒舌だ。「ボウイは病気(癌)だったから、その死は悲劇的だった。......でもプリンスはドラッグで死んだ。哀れだよ」(プリンスの遺体からは処方薬が検出されたが、薬物乱用はなかったと弁護士は主張し、シモンズも後に謝罪した)。

 最近では「ラップの死」をめぐり、ヒップホップ・グループN.W.A.と大論争に。バラク・オバマ大統領に失望したと語ったこともある。キッス初のコンサート映画が日本公開されるシモンズに、本誌トゥファエル・アフメドが話を聞いた。

――プリンスに会ったことは?

 彼がまだ駆け出しだった頃、ダイアナ(・ロス)とライブを見に行ったことがある。すごく奇妙な経験だったよ。

 ライブが終わった後、バックステージを訪ねてみた。虚勢を張った「オレ様野郎」が出てくるかと思ったら、すごく小柄で控えめな男だった。ものすごくシャイで、下を向いたまま、「ありがとう、ありがとう」ってささやくような声で言うんだ。ダイアナをまともに見られなくて、ずっと下を向いていた。

――不可解な死はプリンスの名声を傷つけると思うか。

 思わないね。若くして死ぬと、むしろ名声は大きくなって、もっと偶像化される。マリリン・モンローやエルビス(・プレスリー)みたいにね。

【参考記事】紫の異端児プリンス、その突然過ぎる旅立ち

(長生きすると)そうはいかない。私もいずれハゲになり、歯も抜ける。80歳のジーン・シモンズは人工肛門を着けて、車椅子に乗った哀れなじいさんだ。早死にすればそうはならない。私は嫌だけどね。毎朝起きるのが楽しくてしょうがないんだ。それでいつか哀れなじいさんになるなら、それでもいい。



――最近あなたは、「ラップが死ぬのが待ち遠しい」と発言して物議を醸した。

 悪意はなかった。もちろん死んでほしくなんかない。でも、いつかはロックも、ラップも死ぬ。ドゥーワップは死んだ。チャック・ベリーみたいな音楽もなくなった。フォークロックも死んだ。すべては過去のものになる。音楽が永遠に続くというのは幻想だ。

【参考記事】デビッド・ボウイ、最後のアルバムに刻んだ死にざま

 ロックは死んだと言ったときも批判されたが、取り消すつもりはない。58~88年はエルビス、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ジミ・ヘンドリックス、クイーンがいた。でも、88年以降に新しいビートルズはいたか? ワン・ダイレクションみたいなボーイバンドはいるし、(ジャスティン・)ビーバーやビヨンセなんかのポップ音楽も元気だ。でも、ビートルズとはレベルが違う。

――ロックの殿堂をめぐる議論も起こした。

(今年ロックの殿堂入りを果たした)N.W.A.は偉大なヒップホップ・グループだ。卓越している。でもロックじゃない。(初期のメンバーで著名プロデューサーの)ドクター・ドレーに「N.W.A.はどんなグループですか」と聞いたら、「ロックバンドだ」とは答えないだろう? キッスが「オレたちはヒップホップ・バンドだ」と言わないのと同じだ。

――ロックもヒップホップも死んだら音楽はどうなるのか。

 すべてのものは進化しなければ、消滅する。ポップ音楽は驚異的だ。(セリーヌ・ディオンからケイティ・ペリーまでヒット作を量産してきたプロデューサーの)マックス・マーティンなんかは本当にすごい。レディー・ガガも大変な音楽的才能の持ち主だ。彼女は現代のジャニス・ジョプリンになれる。

 でも、ジェニファー・ロペスやビヨンセのライブは、半分以上が事前に録音されている。そんなのいんちきだ。

 食品だったら砂糖が50%といった成分表示がある。コンサートも「チケットの代金は150ドルです。音楽の50%以上は生演奏ではありません」と断るべきだろう。ファンに敬意を払うなら、最低限そのくらいの誠意を示すべきだ。

 だから私はEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)が好きだ。生演奏のフリをしないからね。DJがボタンを押すだけだ。レーザー光線が飛び交い、みんな踊って楽しむ。嘘がなくて最高じゃないか。ポップ音楽はすごいが、それはプロデューサーたちのおかげで、アーティストは口パクやダンスでごまかしている。



――キッスのライブ映画『KISS Rocks VEGAS(キッス・ロックス・ベガス)』(日本公開は5月29日1夜限り)は、どんな経緯でできたのか。

 私たちは何でも、やるならどでかくやりたいと思ってきた。あるコンサートの企画で、最近よくある巨大スクリーンを使ってみようと思った。それで場所を借りたりしていたら、「リハーサルもライブにして盛り上げよう」となったわけだ。(花火で)火事を起こさないようにするのが大変だった。

【参考記事】虚構を超えたヘビメタ・ドキュメンタリー

――以前、オバマ大統領に投票したことを後悔していると言っていたが。

 今は違う。ドローンを派遣して悪者を退治したり、(ウサマ・)ビンラディン殺害に特殊部隊を派遣したり。そういうことを始めてからオバマに対する評価は上がった。弱腰なリーダーは悪者たちの思うツボだ。

――「アメリカはビジネスマンが動かすべきだ」と言ったこともある。

 国を統治するのに政治家が適任ではないという考えは変わっていない。ビジネスマンのほうがいいと思う。資本主義と雇用創出の仕組みを知らない人間がトップになっても、混乱するだけだ。アメリカは(ビル・)クリントン大統領のとき財政均衡を達成したのに、今や19兆ドルもの対外債務を抱えている。それは「アメリカは太ってる。ダイエットが必要だ」と言う勇気が政治家にないからだ。

――では、今年の大統領選ではビジネスマンのドナルド・トランプを支持するのか。

 トランプはテレビで見てのとおりの男だ。いいか悪いかは別として、彼は自分のカネで選挙活動をしているから、好き勝手なことを言える。それをいいと思うなら投票すればいいし、嫌なら投票しなければいい。

[2016.5.31号掲載]

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