※インタビュー前編:ウェルビーイングでワークスタイルの質を高める
小さく変えることが大きな変化につながる
ウェルビーイング* になるためのヒントは思わぬところに転がっているし、身体が感情に与える影響ももっと重視されるべきだと思います。
例えばオフィスのトイレ。健康づくりのサポートでいろんな企業や自治体にお邪魔していますけど、トイレで用を足した後にしっかり手を洗う人が実に少ない。水で指先をちょいちょいと濡らす程度で、せっけんで洗う人はほとんどいません。まあ、これは男性に限った話ですけれども。
【参考記事】全米を揺るがすトイレ論争
トイレの手洗いに見る企業の生産性
欧米の企業で、特に個人のパフォーマンスが業績に影響するようなところは、用を足したら手をきれいに洗うよう指導されています。くしゃみやせきをする際も、日本人は手で覆うのに対して、欧米では腕で口を塞ぐよう小さいころからしつけられている。日本でもビジネス界をリードするような方はちゃんと洗っています。マナーの問題もあるけれども、感染症を拡大させないというリスク対策が企業の総体としての生産性向上につながっています。
トイレといえば、濡れた手をエアータオルでブオーッと乾かすあの時間。あれも実は貴重だと思います。無心になれる瞬間ですよね。仕事では常に過去や未来に心がとらわれているもので、だから自分をリセットする瞬間は大事なんです。
手洗いひとつとっても、ちょっとしたことで働く環境はもっとよいものになるはずです。そのときは必ずソフトとハードの両方の環境が必要になる。みんながせっけんで手を洗っていたら、僕も洗わなきゃと思うかもしれない。そういうことでオフィスのウェルビーイングは豊かになっていきます。**
【参考記事】部門ごとの働きやすさを追求、社員を「全員主役」にするオフィス
炭水化物過多、タンパク質不足が集中力低下を招く
社内でラジオ体操をするのは健康に良さそうですけど、生産性向上やストレス軽減には実はあまり効果がないということが調査で分かっています。それよりも社員みんなで掃除をするのがいいですね。最初はいやいや取り組んでいた人も、終わればきれいになってすっきりするし、掃除が大掛かりになるのは大変だから普段からきれいにしておこうという意識も芽生えます。
あるいは、ヘルシーでおいしい間食を用意しておくことも企業ができる1つの対策だと思います。ある会社で女性社員の方がランチに食べているものを見たら、コンビニで買った野菜ジュースとおにぎり2個なんです。「これ、食べたら眠くなりませんか」って聞くと「何で分かるんですか」と図星でした。
炭水化物過多でタンパク質不足という、そういう人は多いんです。血糖値が急に上がって急に下がるから午後に眠くなるんです。これをおにぎり1個、お味噌汁、ゆで卵というメニューに変えれば、栄養バランスが良くなるし金額も安くなります。どれもコンビニのものでいいんです。
食べる順番も大事で、まずゆで卵から食べる。次がおにぎりで、最後にお味噌汁で締めます。ご飯を後にするのは、血糖値の急上昇を避けるため。味の薄いものからだんだん濃くして、最後に汁物を摂ると食事が深い満足とともに終わるんです。
その女性社員に今話したことを実践していただいたところ、「眠くなりません。すごく満足のいくランチになりました」と報告をいただきました。それからその会社は、休憩スペースにインスタントのお味噌汁の素を常備するようになりました。朝ご飯を食べていない人はそこで食べるようにもなったんです。身体のコンディションが整えば仕事への取り組みも変わってきますよね。ウェルビーイングへ導くきっかけ作りになったと思うし、こんなふうにできることはたくさんあるわけです。
解決につながる行動をどれだけ積み重ねられるか
組織は個人がウェルビーイングの状態になってもらうようなきっかけを幅広く提供してあげて、本人がその効果を実感したり、行動を変化させたりすることを促していく。そういう姿勢が重要です。
オフィスでウェルビーイングを促進するなら、手洗いなど衛生指導を徹底することや、姿勢を良くするための正しい座り方を教えるといったことは即効性があります。知識がすぐ力になって効果がすぐ実感できるものは喜ばれますね。そういう具体的な行動、もっといえば習慣をデザインしてあげることが会社に求められている。
小さいことばかり言っているけれども、小さく変えていくことこそが重要なんです。仕組み化しようとか理屈で考えていくと、大体大きな問題に行き着きます。そうすると社内の文化や同調圧力にどう対処するかという具合に、大きな解決策が必要になってくる。そして大きな解決策は実施されることは永久にないと考えた方がいい。
それを嘆くのではなくて、まず自分の1日の生活のワクワクを増やすことが先決です。その意味で、手を洗うなんていうことはめちゃくちゃ簡単なんですよ。外付けキーボードで姿勢よくパソコンに向き合うとか、そんなことでいいんだと思うんです。
小さく変えることが、結果として大きな変化につながるということをどれだけ信じられるか。「手を洗うぐらいで何が変わるんだ」と言うのは簡単なんですよ。変化を信じて、まずはやってみてほしい。ささやかでも解決につながる行動をどれだけ積み重ねられるかはポイントです。
ワーカーが肝に銘じたいマザー・テレサの言葉"If you judge people, you have no time to love them"
日本の就労環境は厳しさを増しています。上司は部下の強みや弱みを見るし、逆もそうですよね。上司のことを、使える、使えないといった視点で見ている人は少なくありません。この傾向はバブル経済の崩壊以降に顕著になった気がします。人の悪いところを見つけて不平不満を言うというふうに日本の企業文化が変わってきている感じがする。
マザー・テレサは"If you judge people, you have no time to love them"と言いました。もしあなたが人をジャッジするなら、その人を愛する時間はなくなりますよ、と。その通りだと思います。
実は僕自身、この言葉を贈られたことがあるんです。留学から帰ってきて、自分は最先端を行っているんだ、みんな間違っていてバカだぜ、なんて勘違いしていたんですよね。非常にジャッジな人間だったんです。6年前、28歳ぐらいのときでしたか。でも、誕生日にこの言葉を贈ってくれた人がいて、ハッと気付いたんです。他人をジャッジしても、まず自分が楽しくないし、なんで自分のことを分かってもらえないんだろうと不満が募るばかりで、人生が全然ポジティブじゃない。それで人をジャッジするのはやめよう、相手のいいところを見て付き合おうと決めたら、人間関係がガラッと変わって、仕事の仕方も変わりました。
昔の日本企業は家族経営的なところがあって、社内の人間関係に信頼があったわけですね。ご縁があって今ここで一緒に働くんだから、上司も部下も同僚も相手の長所を見て気持ちよく働こうよという価値観が風土として根付いていた。つまり、ウェルビーイングの基盤ともいえるポジティブな人間関係が組織に醸成されていたわけです。ドラッカーはそれが日本企業の強さだと分析していました。
でも今は相手をジャッジする雰囲気に変わってしまっている。あいつは使えるとか使えないとか、そういう発言や思いを意識的に控えるだけで、もっとウェルビーイングに毎日が生きられるはずなんです。人間関係が改善すれば職場のうつも減っていくと思います。
部下がスターになれる舞台を作るのが上司の役目
これは別に組織に必要以上にコミットしようとか、企業は家族主義的経営に回帰すべきだという話ではありません。そもそも今の若手の社員は組織にコミットしたいと思っていないでしょう。組織よりテーマにコミットしたいと思っている。
例えば、エンジニアは仕事中に同業者のオンラインのコミュニティやチャットにずっとつながっていたりします。そこは学びの学校なんですね。「今、あるプログラムの書き方で困っている。どうしたらいいですか」と尋ねると、別の会社のエンジニアが解決策を伝授してくれるわけです。***
会社の人間というより、エンジニアというコミュニティの人間であるという具合に、組織より特定のテーマやコミュニティへの帰属意識が高まっている。企業の合併・倒産が相次いで、企業に依存することのリスクが高まっていることも背景にはあるかもしれません。ともあれ、そこに「会社はひとつの家族だ」という価値観を押し付けても敬遠されるだけです。
このような時代に会社としてできることは2つあると思います。1つは社員をどれだけ成長させてあげられるか。もう1つは業界の内外でどれだけ有名にしてあげられるか。要は、簡単にスターにしてあげるということです。そういうマネジャーには今の若い人は間違いなくついてくる。それがマネジメント陣の責任であり、会社としてもそういう機会を与えてあげることが求められていると思います。*
社会的にウェルビーイングはいっそう重視されていく
高度経済成長を経て、モノを売って利益を伸ばすというビジネスはもはや通用しません。仕事や人生に意味を見出しにくい時代ですから、特に経験が浅くて人脈もない若い人ほど途方に暮れてしまいます。そのときに、成長しながら業界内外の人たちとつながって存在感を示すことができれば、仕事にも人生にも手ごたえを感じて、結果としてウェルビーイングにもつながっていくはずです。
社会的にウェルビーイングの考え方はいっそう重視されていくと思われます。アベノミクスの成長戦略でも健康長寿社会の実現に向けた市場創出がうたわれていますし、将来的には都市の環境作りにもウェルビーイングの考え方が反映されていくでしょう。
そのときに企業としてどうウェルビーイングを実践していくか。オフィスのウェルビーイングは組織体として決定・実践されるものではありますが、あくまで主体は個人であることを念頭に置いておかなければなりません。ワーカー1人ひとりが寝る前に、ああ今日も充実した1日を送ることができたと満足できるかどうか。社員の健康をどこまで親身に考えられるかという企業の誠意が問われると思います。
WEB限定コンテンツ
(2015.9.9 渋谷区の石川氏オフィスにて取材)
石川氏が共同創業者の株式会社キャンサースキャンは、ソーシャルマーケティング、調査・研究、データ解析などを通じた行動科学に基づく手法で社会や医療の問題の解決を図る。
https://cancerscan.jp/
石川氏が共同創業者/副社長を務める株式会社 Campus for H は、企業、組織の健康づくり・生産性向上に関する調査・研究や、関連するサービスの開発・販売とコンサルテーションを行っている。
http://campus-h.com/
* ウェルビーイング
もともとは国際保健会議で採択されたWHO憲章の言葉で、「身体的・精神的・社会的に良好な状態」を指す。現在では「ワーカーにとって心身ともに負担の少ない環境を提供することで企業価値を高める手段」としても注目されている。
** オフィスに観葉植物を置くこともウェルビーイングに効果的と石川氏はいう。「目に優しいし、空気もきれいになるし、みんなで育てればポジティブな人間関係の形成にもつながります」
*** 社員の成長を促す企業の一例として、石川氏はGoogle社を挙げる。世界中から専門家を招いて社内で講演会を開き、開発陣の成長の機会を作っているほか、途上国で働く社員が現地で病院を造るプロジェクトを立ち上げても容認する。そうした活動をする人が社内にいい刺激を与えると考えているからだ。
石川善樹(いしかわ・よしき)予防医学研究者・医学博士。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部を経て、米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了。現在は株式会社キャンサースキャンおよび株式会社Campus for Hの共同創業者。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。
※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
WORKSIGHT
小さく変えることが大きな変化につながる
ウェルビーイング* になるためのヒントは思わぬところに転がっているし、身体が感情に与える影響ももっと重視されるべきだと思います。
例えばオフィスのトイレ。健康づくりのサポートでいろんな企業や自治体にお邪魔していますけど、トイレで用を足した後にしっかり手を洗う人が実に少ない。水で指先をちょいちょいと濡らす程度で、せっけんで洗う人はほとんどいません。まあ、これは男性に限った話ですけれども。
【参考記事】全米を揺るがすトイレ論争
トイレの手洗いに見る企業の生産性
欧米の企業で、特に個人のパフォーマンスが業績に影響するようなところは、用を足したら手をきれいに洗うよう指導されています。くしゃみやせきをする際も、日本人は手で覆うのに対して、欧米では腕で口を塞ぐよう小さいころからしつけられている。日本でもビジネス界をリードするような方はちゃんと洗っています。マナーの問題もあるけれども、感染症を拡大させないというリスク対策が企業の総体としての生産性向上につながっています。
トイレといえば、濡れた手をエアータオルでブオーッと乾かすあの時間。あれも実は貴重だと思います。無心になれる瞬間ですよね。仕事では常に過去や未来に心がとらわれているもので、だから自分をリセットする瞬間は大事なんです。
手洗いひとつとっても、ちょっとしたことで働く環境はもっとよいものになるはずです。そのときは必ずソフトとハードの両方の環境が必要になる。みんながせっけんで手を洗っていたら、僕も洗わなきゃと思うかもしれない。そういうことでオフィスのウェルビーイングは豊かになっていきます。**
【参考記事】部門ごとの働きやすさを追求、社員を「全員主役」にするオフィス
炭水化物過多、タンパク質不足が集中力低下を招く
社内でラジオ体操をするのは健康に良さそうですけど、生産性向上やストレス軽減には実はあまり効果がないということが調査で分かっています。それよりも社員みんなで掃除をするのがいいですね。最初はいやいや取り組んでいた人も、終わればきれいになってすっきりするし、掃除が大掛かりになるのは大変だから普段からきれいにしておこうという意識も芽生えます。
あるいは、ヘルシーでおいしい間食を用意しておくことも企業ができる1つの対策だと思います。ある会社で女性社員の方がランチに食べているものを見たら、コンビニで買った野菜ジュースとおにぎり2個なんです。「これ、食べたら眠くなりませんか」って聞くと「何で分かるんですか」と図星でした。
炭水化物過多でタンパク質不足という、そういう人は多いんです。血糖値が急に上がって急に下がるから午後に眠くなるんです。これをおにぎり1個、お味噌汁、ゆで卵というメニューに変えれば、栄養バランスが良くなるし金額も安くなります。どれもコンビニのものでいいんです。
食べる順番も大事で、まずゆで卵から食べる。次がおにぎりで、最後にお味噌汁で締めます。ご飯を後にするのは、血糖値の急上昇を避けるため。味の薄いものからだんだん濃くして、最後に汁物を摂ると食事が深い満足とともに終わるんです。
その女性社員に今話したことを実践していただいたところ、「眠くなりません。すごく満足のいくランチになりました」と報告をいただきました。それからその会社は、休憩スペースにインスタントのお味噌汁の素を常備するようになりました。朝ご飯を食べていない人はそこで食べるようにもなったんです。身体のコンディションが整えば仕事への取り組みも変わってきますよね。ウェルビーイングへ導くきっかけ作りになったと思うし、こんなふうにできることはたくさんあるわけです。
解決につながる行動をどれだけ積み重ねられるか
組織は個人がウェルビーイングの状態になってもらうようなきっかけを幅広く提供してあげて、本人がその効果を実感したり、行動を変化させたりすることを促していく。そういう姿勢が重要です。
オフィスでウェルビーイングを促進するなら、手洗いなど衛生指導を徹底することや、姿勢を良くするための正しい座り方を教えるといったことは即効性があります。知識がすぐ力になって効果がすぐ実感できるものは喜ばれますね。そういう具体的な行動、もっといえば習慣をデザインしてあげることが会社に求められている。
小さいことばかり言っているけれども、小さく変えていくことこそが重要なんです。仕組み化しようとか理屈で考えていくと、大体大きな問題に行き着きます。そうすると社内の文化や同調圧力にどう対処するかという具合に、大きな解決策が必要になってくる。そして大きな解決策は実施されることは永久にないと考えた方がいい。
それを嘆くのではなくて、まず自分の1日の生活のワクワクを増やすことが先決です。その意味で、手を洗うなんていうことはめちゃくちゃ簡単なんですよ。外付けキーボードで姿勢よくパソコンに向き合うとか、そんなことでいいんだと思うんです。
小さく変えることが、結果として大きな変化につながるということをどれだけ信じられるか。「手を洗うぐらいで何が変わるんだ」と言うのは簡単なんですよ。変化を信じて、まずはやってみてほしい。ささやかでも解決につながる行動をどれだけ積み重ねられるかはポイントです。
ワーカーが肝に銘じたいマザー・テレサの言葉"If you judge people, you have no time to love them"
日本の就労環境は厳しさを増しています。上司は部下の強みや弱みを見るし、逆もそうですよね。上司のことを、使える、使えないといった視点で見ている人は少なくありません。この傾向はバブル経済の崩壊以降に顕著になった気がします。人の悪いところを見つけて不平不満を言うというふうに日本の企業文化が変わってきている感じがする。
マザー・テレサは"If you judge people, you have no time to love them"と言いました。もしあなたが人をジャッジするなら、その人を愛する時間はなくなりますよ、と。その通りだと思います。
実は僕自身、この言葉を贈られたことがあるんです。留学から帰ってきて、自分は最先端を行っているんだ、みんな間違っていてバカだぜ、なんて勘違いしていたんですよね。非常にジャッジな人間だったんです。6年前、28歳ぐらいのときでしたか。でも、誕生日にこの言葉を贈ってくれた人がいて、ハッと気付いたんです。他人をジャッジしても、まず自分が楽しくないし、なんで自分のことを分かってもらえないんだろうと不満が募るばかりで、人生が全然ポジティブじゃない。それで人をジャッジするのはやめよう、相手のいいところを見て付き合おうと決めたら、人間関係がガラッと変わって、仕事の仕方も変わりました。
昔の日本企業は家族経営的なところがあって、社内の人間関係に信頼があったわけですね。ご縁があって今ここで一緒に働くんだから、上司も部下も同僚も相手の長所を見て気持ちよく働こうよという価値観が風土として根付いていた。つまり、ウェルビーイングの基盤ともいえるポジティブな人間関係が組織に醸成されていたわけです。ドラッカーはそれが日本企業の強さだと分析していました。
でも今は相手をジャッジする雰囲気に変わってしまっている。あいつは使えるとか使えないとか、そういう発言や思いを意識的に控えるだけで、もっとウェルビーイングに毎日が生きられるはずなんです。人間関係が改善すれば職場のうつも減っていくと思います。
部下がスターになれる舞台を作るのが上司の役目
これは別に組織に必要以上にコミットしようとか、企業は家族主義的経営に回帰すべきだという話ではありません。そもそも今の若手の社員は組織にコミットしたいと思っていないでしょう。組織よりテーマにコミットしたいと思っている。
例えば、エンジニアは仕事中に同業者のオンラインのコミュニティやチャットにずっとつながっていたりします。そこは学びの学校なんですね。「今、あるプログラムの書き方で困っている。どうしたらいいですか」と尋ねると、別の会社のエンジニアが解決策を伝授してくれるわけです。***
会社の人間というより、エンジニアというコミュニティの人間であるという具合に、組織より特定のテーマやコミュニティへの帰属意識が高まっている。企業の合併・倒産が相次いで、企業に依存することのリスクが高まっていることも背景にはあるかもしれません。ともあれ、そこに「会社はひとつの家族だ」という価値観を押し付けても敬遠されるだけです。
このような時代に会社としてできることは2つあると思います。1つは社員をどれだけ成長させてあげられるか。もう1つは業界の内外でどれだけ有名にしてあげられるか。要は、簡単にスターにしてあげるということです。そういうマネジャーには今の若い人は間違いなくついてくる。それがマネジメント陣の責任であり、会社としてもそういう機会を与えてあげることが求められていると思います。*
社会的にウェルビーイングはいっそう重視されていく
高度経済成長を経て、モノを売って利益を伸ばすというビジネスはもはや通用しません。仕事や人生に意味を見出しにくい時代ですから、特に経験が浅くて人脈もない若い人ほど途方に暮れてしまいます。そのときに、成長しながら業界内外の人たちとつながって存在感を示すことができれば、仕事にも人生にも手ごたえを感じて、結果としてウェルビーイングにもつながっていくはずです。
社会的にウェルビーイングの考え方はいっそう重視されていくと思われます。アベノミクスの成長戦略でも健康長寿社会の実現に向けた市場創出がうたわれていますし、将来的には都市の環境作りにもウェルビーイングの考え方が反映されていくでしょう。
そのときに企業としてどうウェルビーイングを実践していくか。オフィスのウェルビーイングは組織体として決定・実践されるものではありますが、あくまで主体は個人であることを念頭に置いておかなければなりません。ワーカー1人ひとりが寝る前に、ああ今日も充実した1日を送ることができたと満足できるかどうか。社員の健康をどこまで親身に考えられるかという企業の誠意が問われると思います。
WEB限定コンテンツ
(2015.9.9 渋谷区の石川氏オフィスにて取材)
石川氏が共同創業者の株式会社キャンサースキャンは、ソーシャルマーケティング、調査・研究、データ解析などを通じた行動科学に基づく手法で社会や医療の問題の解決を図る。
https://cancerscan.jp/
石川氏が共同創業者/副社長を務める株式会社 Campus for H は、企業、組織の健康づくり・生産性向上に関する調査・研究や、関連するサービスの開発・販売とコンサルテーションを行っている。
http://campus-h.com/
* ウェルビーイング
もともとは国際保健会議で採択されたWHO憲章の言葉で、「身体的・精神的・社会的に良好な状態」を指す。現在では「ワーカーにとって心身ともに負担の少ない環境を提供することで企業価値を高める手段」としても注目されている。
** オフィスに観葉植物を置くこともウェルビーイングに効果的と石川氏はいう。「目に優しいし、空気もきれいになるし、みんなで育てればポジティブな人間関係の形成にもつながります」
*** 社員の成長を促す企業の一例として、石川氏はGoogle社を挙げる。世界中から専門家を招いて社内で講演会を開き、開発陣の成長の機会を作っているほか、途上国で働く社員が現地で病院を造るプロジェクトを立ち上げても容認する。そうした活動をする人が社内にいい刺激を与えると考えているからだ。
石川善樹(いしかわ・よしき)予防医学研究者・医学博士。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部を経て、米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了。現在は株式会社キャンサースキャンおよび株式会社Campus for Hの共同創業者。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。
※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
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