<ウクライナ東部の分離独立派と交戦中に捕らわれ、ロシアで禁固22年を言い渡されたサフチェンコ中尉(35)が、ウクライナ抵抗のヒロインとして帰国した。次期大統領の声もあるが、腐敗したウクライナ政界には潔癖過ぎるとの声も> 写真は帰国したサフチェンコ
「わたしは2年間、独房に入れられていました。人に慣れていないので、言葉遣いが乱暴だったら許してください」。ナディア・サフチェンコは、ウクライナ・キエフのボリスポリ空港で、自分を取り囲む多数のジャーナリストや支持者に対してそう語った。
ウクライナ軍人のサフチェンコは、2014年、ウクライナ東部で分離独立派と交戦中に捕らえられ、ロシアに移送されて裁判にかけられた。無実を訴えハンストを行ったが、2人のジャーナリストを殺した罪で禁固22年を言い渡された。その毅然とした態度と不屈の精神から東部におけるロシアとの戦争の象徴となり、「ウクライナの闘うプリンセス」と呼ばれるようになった。
【参考記事】プーチン、ウクライナに「戦争はない」と強弁
今回のウクライナ帰国は、ウクライナで逮捕され裁判にかけられていた2人のロシア軍人、エフゲニー・エロフェイエフとアレクサンドル・アレクサンドロフとの捕虜交換の形で実現した。
サフチェンコは、釈放に尽力した人々に感謝し、自分はいまも兵士だ念を押した。戦争に行ったまま帰らぬ息子を持つ母たちに同情し、ロシアの刑務所で今も拘束されているウクライナ兵士を解放する力になると約束した。
ティモシェンコも出迎え
空港でサフチェンコを出迎えた人々のなかには、ウクライナの民主化運動オレンジ革命を率いた元首相でペトロ・ポロシェンコ大統領の政敵であるユリア・ティモシェンコの姿もあった。サフチェンコは、ティモシェンコが所属する全ウクライナ連合「祖国」に所属する国会議員でもある。この2人の初顔合わせには大きな象徴的な意味をもつ。
【参考記事】ドレスコードでティモシェンコ封じ?
一方ポロシェンコ大統領は、サフチェンコの帰還が自分の手柄であるかのように長々と演説し、「ナディア」はウクライナ語で「希望」を意味することなどに触れた。サフチェンコはポロシェンコと握手を交わし、賞を授与されても礼を言うこともなく、直立不動の姿勢でマイクに向かうと、「わたしはウクライナの人々のために力を尽します」と誓った。
サフチェンコの政治的な将来は、釈放される前から多くの憶測を呼んできた。サフチェンコのような信念の人は、シニカルで腐敗したウクライナの政界から邪魔にされるのではないかと考える人も多い。ウクライナの「政治サーカス」のなかで彼女に何ができるか疑問を呈する人もいる。それでもある週刊誌は、真剣な表情のサフチェンコを表紙に据え、「次期ウクライナ大統領?」の見出しをつけずにいられなかった。
【参考記事】ウクライナ「チョコレート大統領」の評判
政権の人気回復が狙い?
一部のコメンテーターやブロガーは、サフチェンコがポロシェンコ大統領就任2周年の記念日に釈放されたことに注目する。この釈放は、ポロシェンコの支持率下落を止めるために画策されたものではないかというのだ。
ウクライナの多くの人々にとっては、囚われの身だったサフチェンコのほうが、自由の身になったサフチェンコよりも英雄扱いしやすい存在だったかもしれない。サフチェンコも、多くの人々が彼女の栄光を利用したがる現実を目の当たりにするだろう。だがウクライナの闘うプリンセスがどこまで本当に歓迎されているのかは、まだわからない。
This article first appeared on the Atlantic Council site.
Irena Chalupa is a nonresident fellow at the Atlantic Council. For the 2015-2016 year, she is a Fulbright scholar researching Soviet-era Ukrainian political prisoners.
イレーナ・チャルーパ(米大西洋協議会ノンレジデント・フェロー)
「わたしは2年間、独房に入れられていました。人に慣れていないので、言葉遣いが乱暴だったら許してください」。ナディア・サフチェンコは、ウクライナ・キエフのボリスポリ空港で、自分を取り囲む多数のジャーナリストや支持者に対してそう語った。
ウクライナ軍人のサフチェンコは、2014年、ウクライナ東部で分離独立派と交戦中に捕らえられ、ロシアに移送されて裁判にかけられた。無実を訴えハンストを行ったが、2人のジャーナリストを殺した罪で禁固22年を言い渡された。その毅然とした態度と不屈の精神から東部におけるロシアとの戦争の象徴となり、「ウクライナの闘うプリンセス」と呼ばれるようになった。
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今回のウクライナ帰国は、ウクライナで逮捕され裁判にかけられていた2人のロシア軍人、エフゲニー・エロフェイエフとアレクサンドル・アレクサンドロフとの捕虜交換の形で実現した。
サフチェンコは、釈放に尽力した人々に感謝し、自分はいまも兵士だ念を押した。戦争に行ったまま帰らぬ息子を持つ母たちに同情し、ロシアの刑務所で今も拘束されているウクライナ兵士を解放する力になると約束した。
ティモシェンコも出迎え
空港でサフチェンコを出迎えた人々のなかには、ウクライナの民主化運動オレンジ革命を率いた元首相でペトロ・ポロシェンコ大統領の政敵であるユリア・ティモシェンコの姿もあった。サフチェンコは、ティモシェンコが所属する全ウクライナ連合「祖国」に所属する国会議員でもある。この2人の初顔合わせには大きな象徴的な意味をもつ。
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一方ポロシェンコ大統領は、サフチェンコの帰還が自分の手柄であるかのように長々と演説し、「ナディア」はウクライナ語で「希望」を意味することなどに触れた。サフチェンコはポロシェンコと握手を交わし、賞を授与されても礼を言うこともなく、直立不動の姿勢でマイクに向かうと、「わたしはウクライナの人々のために力を尽します」と誓った。
サフチェンコの政治的な将来は、釈放される前から多くの憶測を呼んできた。サフチェンコのような信念の人は、シニカルで腐敗したウクライナの政界から邪魔にされるのではないかと考える人も多い。ウクライナの「政治サーカス」のなかで彼女に何ができるか疑問を呈する人もいる。それでもある週刊誌は、真剣な表情のサフチェンコを表紙に据え、「次期ウクライナ大統領?」の見出しをつけずにいられなかった。
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一部のコメンテーターやブロガーは、サフチェンコがポロシェンコ大統領就任2周年の記念日に釈放されたことに注目する。この釈放は、ポロシェンコの支持率下落を止めるために画策されたものではないかというのだ。
ウクライナの多くの人々にとっては、囚われの身だったサフチェンコのほうが、自由の身になったサフチェンコよりも英雄扱いしやすい存在だったかもしれない。サフチェンコも、多くの人々が彼女の栄光を利用したがる現実を目の当たりにするだろう。だがウクライナの闘うプリンセスがどこまで本当に歓迎されているのかは、まだわからない。
This article first appeared on the Atlantic Council site.
Irena Chalupa is a nonresident fellow at the Atlantic Council. For the 2015-2016 year, she is a Fulbright scholar researching Soviet-era Ukrainian political prisoners.
イレーナ・チャルーパ(米大西洋協議会ノンレジデント・フェロー)