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トランプのイギリス訪問で何が起こる? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2016年6月7日 18時20分

<イギリスのEU離脱を問う今月の国民投票の直後に訪英する予定を明らかにしたトランプ。もし離脱の結論が出れば、自論が正しかったと暴言を口走ることも十分予想される。トランプにとってこの訪英は大統領候補としてふさわしいかどうかの試金石に>(写真は昨年、自分が所有するスコットランドのゴルフリゾートを視察したトランプ)

 ドナルド・トランプ候補は、すでに共和党の代議員数の過半数を獲得して統一候補の座を確定したばかりか、保守本流を代表するポール・ライアン下院議長の「支持」も取り付けました。

 共和党内にはまだミット・ロムニー氏など「トランプ候補を絶対に認めない」という勢力は残っており、今でも「無所属の保守系候補の擁立」案は消えてはいません。ですが、各州の公選法の縛りを考えると、無所属候補を全国各州の投票用紙に載せるのは、日一日と難しくなってきているのは事実で、すでに「トランプへの抵抗」は「風前の灯」状態と言っていいでしょう。

 それならば、党内にはトランプが恐れるものは何もないはずです。さらに言えば、本選へ向けて「中間層、無党派層」を意識するのであれば、今のスタイルをあらためて「もっと威風堂々と、大統領らしく」する、具体的には「悪質な暴言はやめる」時期に来ています。

【参考記事】トランプに「屈服」したライアン米下院議長の不安な将来

 ところがトランプには、まったく反省の色もなければ、暴言をやめる気配もありません。先週から今週にかけても、自分が起訴されている裁判の担当判事がヒスパニック系というだけで、判事に対する「ヘイト発言」を繰り返し、これには共和党の政治家の多くからも「いい加減にして欲しい」という声が上がっています。また、週末に訃報が流れたモハメド・アリに関しても侮蔑的なツイートを流して平気な顔をしていました。

 そのトランプが、ここへきて「今月24日にイギリスへ行く」と言い始めています。直接の目的は、自分が2014年に買収したスコットランドのターンベリーという豪華ゴルフ・リゾートの改装披露に出席するためですが、問題はそのタイミングです。イギリスでは、言うまでもなく23日にEU離脱を問う国民投票があるわけで、24日はその結果判明の直後になります。

 イギリスのメディアでは、共和党の事実上の統一候補となれば、首相が会わないわけにはいかないが、キャメロン首相は「国民投票の直後で忙しい」ことを理由に面会を拒否するのではないかという観測も流れています。というのは、トランプの度重なるイスラム教徒やヒスパニック系への差別発言に関して、キャメロン首相は批判を続けているので、「会わずに済むのなら会いたくない」のがホンネだというのです。



 ところで、今回のトランプの目的地であるスコットランドでは、このリゾートへの投資を含めた「功績」に対して、トランプに「グローバル・スコット・ビジネス大使」という称号を授与していたのですが、現在のスコットランド首相であるニコラ・スタージョンは、トランプの言動を批判してその称号を剥奪したという事実もあります。

 そんな中で、多くの人が密かにおそれているのは、イギリスの国民投票で「EU離脱」が可決された場合、トランプが「その場」で暴言を口走る可能性です。トランプからすれば、仮に「離脱」となれば、「イスラム系移民の流入に『ノー』を突きつけたイギリスの民意」を「自分の排外的なイデオロギーの追い風」にしようとする可能性があるからです。

「キャメロンは偽善者」であるとか、「イスラム系のサディク・カーンを市長に選んだロンドン市民は愚か」といった発言をするかもしれませんし、とにかく「一時は自分を入国禁止にしようとした」イギリスが、自ら排外思想に屈したのを見れば「俺様の勝利」を口にしたくもなるでしょう。

【参考記事】トランプ所有のホテルで宿泊客が激減

 仮に、今回の「ヒスパニック系判事へのヘイト発言」も、「トランプ信者」の期待に応えるために計算したパフォーマンスとしてやっているのであれば、「今月24日にEU離脱となった場合にイギリスで」という絶妙な場所とタイミングで、「何か」を言ってしまう可能性はあるわけです。

 ちなみに、トランプの立場からすれば、各国は自国の利害を中心に動くのが当然で、EUやNATOも、そして日米安保も偽善だということになります。その立場からすると、EUに「ノー」を突きつける側の民意は善で、それを阻止しようとしているキャメロンも、仮に離脱の場合はスコットランドを独立させてEU復帰を狙うスタージョンにしても、「格好の標的」になるでしょう。

 しかしよく考えてみれば、世界に「親友の少ない」アメリカにとって、イギリスと日本は貴重なパートナーです。その両国との安定した同盟関係を壊そうとするトランプは、何とも異常な存在です。仮に今月24日にイギリスに行ったとして、そこでトランプが「暴言」を口にするのか、あるいは自制するのかは、トランプが本当の意味で責任ある政党の代表候補として振る舞うことができるかの試金石になると思います。

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