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日本の生徒は「儀礼的」に教師に従っているだけ

ニューズウィーク日本版 2016年6月7日 17時30分

<日本の学校で授業中の秩序が保たれていることに、外国の教育関係者は驚く。その反面、教師との良好な関係を築いている生徒は他国と比較して突出して少なく、日本の学校の統制は、生徒の「儀礼的」な戦略で維持されていることがわかる>

 外国の教育研究者が日本の学校を訪れて驚くのは、教室の秩序がきちんと保たれていることだ。授業中は、全員が教科書とノートを出し、静粛にして教師の方を向いている。日本人にとってはごく当たり前のことだが、外国人から見ると必ずしもそうではない。

 データから見ても、日本の学校の「荒れ」は少ない。OECD(経済協力開発機構)の国際学力調査「PISA 2009」では、15歳の生徒に普段の授業の様子を尋ねている。「生徒は、教師の言うことを聞いていない」「生徒は騒ぎ、授業の妨害をする」状態がどれほどあるかを質問する形式だ。<図1>は、「いつも(大抵)そうだ」(つまり授業が荒れている)という回答の比率を示した座標上に、74カ国を配置したグラフだ。

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 これは生徒の主観評価だが、学校の授業がどれだけ荒れているかは、国によってかなりバラつきが出ている。グラフ右上に位置するギリシャやフィンランドでは、生徒の4割以上が両方とも「いつも(大抵)そうだ」と答えているが、左下の日本ではそのような申告は少ない(10%未満)。旧共産圏の国々と並んで、日本は学校の秩序が世界で最も保たれている社会と言えるだろう。



 何とも結構なことだ。それならば、日本では生徒と教師の関係がさぞ良好だと思われるが、実際はどうなのか。<図1>の縦軸を、「私は、大抵の先生とうまくやっている」の肯定率に変えると<図2>のようになる。



 2つの指標は傾向としては負の相関関係(右下がりの傾向)にあり、左上から右下の範囲に位置する国が多い。右上と左下にあるのは、特殊なケースだ。

 日本の特異性は際立っていて、左下の極地にある。教師の言うことを聞く生徒は多いが、教師と良好な関係にある生徒は少ない。何とも変わった社会だ。

 アメリカの社会学者ロバート・K・マートンの表現を使うと、日本の生徒は「儀礼的」な戦略を取っていることになる。勉強に興味は持てないし、本当は(ウザい)教師の言うことなど聞きたくないが、成績に響いたり退学になったりすると困るので仕方なく従順にしているという具合だ。

 マートンは、文化的目標にコミットしていなくても、そのための制度的手段を(やむなく)承認する適応様式を「儀礼型」と名付けた。日本の生徒のケースでは、勉強して偉くなろうとは思わないが、学校を卒業しないと落伍者の烙印を押されてしまう、という強迫観念に突き動かされていることになる。<図2>のグラフは、そのような生徒が教室に多くいることを示唆している。

「儀礼型」人間について、マートンは著書で次のように述べている。「外部から観察すると、本人は、謙虚で思慮分別があり、見栄をはらない。自発的な自己抑制によって、彼は、自分の目的や大望を制限し、冒険や危険に伴う快楽をすべて拒絶する」(森東吾訳『社会理論と社会構造』みすず書房、1961年)。確かに、日本の生徒のイメージと重なる。

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 このような儀礼的戦略を幼い頃から行使し続けると、どういう人格形成がされるのか。おそらくは、自分の頭で考えることをせず、周囲に機械的に合わせるだけの付和雷同型の人間ができ上がる。過剰適応型人間と言えるかもしれない。日本の企業社会は、このような人々によって支えられている側面がある。法を遵守しない、やりたい放題のブラック企業がはびこる土壌の一端もここにある。

 そう考えれば、<図2>のグラフで最も問題なのは、左下の位置する国々かもしれない。日本と同様、受験競争が激しい韓国もこのゾーンに位置している。最終的な目標を見いだせないまま、形式的に学校という制度にこだわる。そのような儀礼的戦略を取る生徒が多い社会ということになる。

 外国の研究者を驚かせる日本の生徒の適応様式は、内面の同調を伴わない儀礼的なものであり、単純に誇れるものではないと認識する必要がある。

 現在では、インターネットを使って簡単に知識を得ることができる。そのような情報化社会で、学校だけが教育の場であり続けることはできない。しかし日本では、学校への絶対信仰がいまだに強く、必要性が感じられなくても、生徒は長期間学校に通うことを強いられる。教育機会の多様化が議論されているが、子ども期は「学校がすべて」という現状からの変化を望みたい。

<資料:OECD「PISA 2009」>

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舞田敏彦(教育社会学者)

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