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Airbnbに思わぬ差別の落とし穴

ニューズウィーク日本版 2016年6月9日 16時55分

<黒人だとわかったら予約を取り消された──旅行者のそんな苦情からネットではAirbnbへの批判が殺到。会社は直ちに対策を打ち出したが、差別は今に始まったことじゃない。日々ユーザーの偏見に直面するビジネスの難しさが浮かび上がった> 写真はAirbnbのチェスキーCEO

「俺は黒人が嫌いだ。だからあなたの予約はなかったことにする」

 自宅レンタルをネットで仲介するAirbnb(エアビーエンドビー)を通じて部屋を予約した黒人女性に、ホスト側から送りつけられた人種差別的なメッセージをきっかけに、ここ1週間ほどソーシャルメディア上でAirbnbバッシングの嵐が吹き荒れている。

 対応を迫られたAirbnbは、毎年サンフランシスコで開催しているシステム開発者の会議、オープンエアでこの問題を取り上げた。

「はっきりさせておきたい。Airbnbは差別を容認しない。僕らのプラットフォームには差別と偏見が入り込む余地はいっさいない」

 会議の冒頭、ブライアン・チェスキーCEOはそう宣言。Airbnbは多様性をモットーとするサイトで、民族、ジェンダー、性的指向で借り手が差別されるようなことがあってはならないと語った。

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 チェスキーは、今後数カ月かけてサイトの設計を「しらみつぶしに」検証すると約束。差別を受けた利用者からのフィードバックを載せることも検討しているという。

 Airbnbはトラブル発覚後すぐに、差別的なメッセージを出したノースカロライナ州の貸し手のホスト登録を抹消した。その時点でチェスキーはこの一件について「不快で、受け入れ難い」とツイート。ツイッター上では#Airbnbwhileblackのハッシュタグで関連ツイートが飛び交った。

白人と一緒に申し込み

 Airbnbのようはホームシェアリングの利用者が人種や性的指向を理由にホストから断られるケースは前々から問題になっていた。騒ぎをきっかけに、オンラインメディアは次々に同様のトラブルを報じた。ニュースサイトのフュージョンによると、アラブ系の名前をもつある大学教授は何度も予約を断られた挙げ句、白人の友人と一緒に申し込んでようやく受け入れられたという。

 訴訟に発展したケースもある。バージニア州の黒人男性は今年5月、人種を理由に数人のホストに予約を断られたが、Airbnbは何の対策もとらなかったとして、公正住宅法違反で同社を訴えた。この男性は試しに白人の写真を使い、偽のプロフィールで申し込んだところ、すんなり予約できたそうだ。

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 オープンエア会議では、チェスキーCEOに続いて、エンジニアリング担当副社長のマイク・カーティスが、厄介なのはホストが無意識に抱いている偏見だと語った。「僕らは無意識の偏見など人間の哀しい一面に日々直面している。使えるツールをすべて駆使して、この問題を解決したい」

 続いて、ツイッターに新設されたポスト「多様性・帰属担当ディレクター」に就任したデービッド・キングを司会に、ソーシャルニュースサイトのレディットの元CEOエレン・パオとツイッターの元エンジニアリング・マネージャー、レスリー・マイリーがIT業界にはびこる差別について対談を行った。

男性優位のシリコンバレー

 パオは有力ベンチャーキャピタル(VC)クライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズを女性差別で訴えたことがある。女性であるためにシニア・パートナーへの昇進を見送られたというのだ。敗訴に終わったが、彼女の闘いはシリコンバレーのジェンダー差別を告発した画期的な訴訟として高く評価されている。

 裁判の間、パオはレディットの匿名のユーザーから女性蔑視と人種差別のコメントや画像の集中砲火にあった。15年7月にレディットを去った後、パオはIT業界に多様性と差別撤廃を広げるプロジェクトを立ち上げた。

 オープンエア会議でパオはマイノリティーに職場でもっと声を上げようと呼び掛けた。「声を上げても何も変わらないなら、ちゃんと聞いてもらえる職場に転職すればいい」

 一方、アフリカ系のマイリーはツイッターの社風は白人男性中心だと公然と批判し、同社を去って社内チャットツールのスラックに転職した経験をもつ。

「職場で差別があったときに、経営陣は間髪置かず、毅然とした態度で対応すべきだ」と、マイリーは訴えた。


スン・リー

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