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「オバマ米大統領は謝罪すべきだった」亀井静香衆院議員に聞く

ニューズウィーク日本版 2016年6月11日 6時55分

 アメリカのオバマ大統領が5月27日、被爆地・広島を訪れた。現職の米大統領としては初の被爆地訪問。当時小学生で、広島県内で原爆の「きのこ雲」を見たという衆院議員・亀井静香元金融担当相(広島6区)は、姉を被爆で亡くすという「原爆体験」を持つ。オバマ来日前は、「謝罪なき広島訪問は不要」との考えも示していた。今回のオバマの広島訪問や演説をどう受け止めたか聞いた。(聞き手=時事通信編集委員・村田純一)

「おわびと反省、具体的な言葉が無い」

――オバマ大統領来日前の記者会見で、亀井さんは「謝罪も反省もしないのであれば、広島に来ないでもらいたい」と発言していた。その後、広島を訪れたオバマ氏のスピーチをどう受け止めましたか。

亀井 逆に聞くが、オバマ大統領は何をしに広島に来たと思いますか。

――(2009年に「核なき世界」を提唱した)「プラハ演説」を行ったこともあり、いつかは広島に来て核廃絶の訴えを示そうと思ったのでは。

亀井 「核廃絶」というなら、「核兵器はよくない」と思っているわけでしょう。

――政権末期のレガシー(遺産)づくりではないかとも思いますが。

亀井 一方では、オバマ大統領自身が核開発関連予算をどんどん増やして、核兵器をどんどん強化している。

――実際、オバマ政権で核削減は進んでいないと指摘されています。

亀井 では何をしにオバマ大統領は広島に来たと思いますか。

――米大統領として謝罪まではできず、言葉では表せなかったが、その気持ちをにじみ出そうとはした――そう感じないわけではありません。

亀井 私は、全体としてはオバマ大統領を評価しているけどね。彼は大統領になって、やろうと思ったことはやれなかった。彼は従来の米国のような、いわゆる「強い米国」として軍事力で世界を従えるということに、基本的に賛成ではなかった。(だが米国が)今までやってきたことに惰性で流されていった。

 しかし、なぜ、オバマ大統領はあんな形で広島にやって来たのか。彼は間違えたと思う。どういうことかと言えば、政治家として、自分の深層心理にあるものを表現するのに、被爆者がいるところで、おわびもしない、反省もしない。そのような態度で、「自分の気持ちをよく推し量ってくれ」というのは思い上がりですよ。無礼だ。

 私は、オバマ大統領の深層心理は何かあると思っている。しかし、政治家として、それを表現できなければ、広島に来なければいい。政治家であれば、具体的な言葉と行動で表さなければ駄目だ。

【参考記事】原爆投下を正当化するのは、どんなアメリカ人なのか?

「遺族としては意味がない」

――やはり、きちんと謝罪の言葉は述べなければならないと。

亀井 そうでなければ、被害を受けた方々に、私が残虐非道なことをやった国の大統領だと見せ物として姿をさらしに来るか、それとも見物に来るのか、どっちかだ。(大統領来日前の)記者会見でも(私は)そのように言った。はっきり言って、オバマ大統領は非常に曖昧なことをやったんですよ。これに対する日本人の対応の方が悲しいよ。



――大統領歓迎ムード一色の観があった。

亀井 それが悲しい。

――被爆者は言いたいことをかなり封印したのではないか。とにかく、まずは米大統領に広島に来てもらえればいいということで。

亀井 いや、新聞にも、「何しに来たんだ」という声はだいぶ出ていますよ。被爆者が何で「よく来てくれた」と思うか。殺人者が殺された被害者の墓に来て、「すいませんでした。反省しています。おわびします」とも言わずに墓参りしてくれたって、遺族としては意味がないですね。墓参りに来るなら、そういうちゃんとした気持ちを表さないと。

――オバマ大統領の気持ちの中にそういう深層心理はあるかもしれないが、米国内には原爆使用を正当化する意見や、「謝罪は不要」との声もあり、言いたいことも言えなかった。

亀井 好意的に、彼の立場で言えば、来なかった方が良かっただろう。そんな状況で墓参りはしなさんなと。10万の人間が死んだ、墓場ですよ。

――中途半端な対応だったと。

亀井 例えば、米国が日本の首相に「真珠湾に来てくれ」と言うなら、行ってもいいと思いますよ。「宣戦布告の手続きを間違え、申し訳なかった」と。戦争にはルールがある。宣戦布告してから戦争を行うというルールを、手違いにより踏めなかった。それは「申し訳なかった」とおわびしていいし、「行くな」と言うのもおかしい。行けばいい。オバマ大統領も「申し訳なかった。おわびする」と言ってくれればいいんです。お互い素直に。

――亀井さんのように正直な意見を発言する人は意外に少ない。

亀井 いや、違う。マスコミがあおって、私のような気持ちを言えないようにしているんだよ。

――そんな雰囲気は確かに感じます。とにかく、まずは大統領が広島に来ればいいじゃないか、ということで。

亀井 何か、ハリウッドのスターが来てくれればうれしいなあ、みたいなことになっているんだ。

――米大統領だから核兵器発射のための装備も携行したし、核廃絶の言動と矛盾しているとの意見もある。演説では核廃絶の具体的手順は示さなかった。

亀井 自分で(核兵器を)拡大・強化しているじゃないですか。「核廃絶はできません。恥ずかしい」と言わなければいかんよ。

――しかし、米大統領が今まで70年以上も被爆地に来ず、ついに初めて広島の地を踏んだわけです。そのことを少しは評価することは。

亀井 ない。



――やはり、おわびの言葉が無いと意味がない。

亀井 墓参りに来るなら、お経の一つでも上げに来いというんだ。日本人は、ハリウッドの悪役の超スターが来ても喜ぶんだよ。

【参考記事】パックンが広島で考えたこと

「核兵器は使えない」

――亀井さんは小学生の頃、原爆投下後のきのこ雲を遠くに見て地響きを感じたという、ある意味で「原爆体験」があり、お姉さんが原爆の影響で亡くなられた。そのことも(自身の考えに)影響はあるか。

亀井 それだけじゃない。あのときは10万の人間がやられたんだから。惨たんたる状況ですよ。東京の大空襲だって同じようにやられている。都市への無差別な爆弾投下だって、国際法違反ですよ。東京など日本中の大都市が無差別爆弾投下をされ、米軍機が逃げ惑う市民を機銃掃射までした。原爆だけじゃないんだ。米国はある面ではいい国だと思っているし、好きだけどね。頑張れば誰でも上に上がっていけるようなところがある。

――私の父は長崎出身で原爆手帳を持っている。今も健在だが、寝たきりで...。

亀井 (放射能は)すぐに命は取らない。長生きする人もいる。放射能と人間の健康の関係は、誰にもまだ分からない。臨床がない。(米国の)スリーマイルと(旧ソ連の)チェルノブイリと広島・長崎だけだから。米国が(原爆投下で)市民を実験に使ったのは明らかだ。

――今回のオバマ大統領の広島訪問についてはまずは評価したい一方で、謝罪の言葉が無かったのは残念だし、そんなに手放しで喜んでいいのかという複雑な気持ちはある。

亀井 オバマ大統領はしなくてもいいことをやった。それを評価する日本の方が哀れだ。

――実際、簡単に核廃絶は進まないのが現実だが。

亀井 核兵器は使えない。使ったら地球が破滅することは分かっているから。米国が長崎に落とした後、どの国も使っていない。ベトナム戦争だろうが何だろうが、世界中で戦争をやりながらも、(米国が)負ける戦争でも使わない。

――核兵器を減らし、本当にゼロにしなければならないが、「核抑止論」もある。

亀井 敵が持つなら、こちらも持たなければ対抗できないと思っている。日本は、そんなばかなことをする必要はない。

[筆者]
村田純一(むらた・じゅんいち)時事通信編集委員(兼マスメディア総合本部総務兼調査部長)1986年4月時事通信社入社、福岡支社を経て90年から政治部。96年に経済部(財界担当)。97年政治部に戻り、選挙班長、防衛庁担当、ワシントン特派員、霞(外務省)クラブキャップ、政治部次長を経て、現職。

※当記事は時事通信社の会員制ニュースサイト「Janet」からの転載記事です。
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村田純一(時事通信編集委員) ※時事通信社の会員制ニュースサイト「Janet」より転載

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