<史上最悪の銃乱射はテロだったのかヘイトクライムだったのか。襲われたのがゲイが集まるナイトクラブだったことで、アメリカ人は反応に戸惑っている。いったいなぜこんな事件が起こったのか。現地に取材するとヒントがいくつも見えてきた>
昨日未明の銃乱射事件は、アメリカが抱える脅威がテロだけではないことを思い起こさせた。フロリダ州オーランドでゲイが集まるナイトクラブに男が入り込み、50人を撃ち殺した。
保守派の政治家はテロとの戦いを強化すべきだと呼び掛ける。進歩派は銃規制の厳格化を求め、LGBT(性的少数者)コミュニティーは寛容を説く。イスラム教徒は「平和の宗教」であるイスラム教と過激派の思想を区別してくれと懇願する。
いったい事件の本質は何なのか、本当の教訓は何なのか、どうすれば再発を防止できるのか、アメリカ人は皆、答えを探しあぐねている。
【参考記事】銃乱射が起きても銃規制が進まない理由
バラク・オバマ大統領は昨日午後に演説し、このアメリカ史上最悪の銃乱射事件を「テロの行為であると同時に憎悪の行為」だとした上でこう言った。「とりわけ、レズビアンやゲイ、バイセクシャルやトランスジェンダーのアメリカ人にとっては大きな悲しみの日になった。犯人は、人々が友人と集い、踊り、歌い、人生を謳歌するナイトクラブを標的にした。しかも攻撃されたのはただのナイトクラブではない。そこは団結と地位向上のための場所、互いに意識を高め合い、語り合い、自らの権利を主張する場だ」
社会を分断する緊張
オマル・マティーン容疑者(29)の動機がゲイに対する憎悪だったのか、テロ組織への忠誠のあかしだったのか、あるいは別の何かなのかはまだ不明だ。だが父親ミル・セディクはNBCニュースに、マティーンは最近、マイアミ市内で男性2人がキスしているのを見て怒っていたと話した。「キスし合い、触り合うのを見て、息子は言った。『あれを見てくれ。俺の子供の前で何てことを』」と、セディクは言う。「それから一緒にトイレに行くと、そこでも男性同士がキスをしていた」
【参考記事】ミシシッピ州で「反LGBT法」成立、広範な差別が合法に
オレゴン州ポートランド出身のゲイの男性、ジミー・ラドスタは、こんな事件が起こるのは、同性婚は社会を破壊すると喧伝し、トランスジェンダーを捕食者扱いする政治家のせいだと言う。こうもつけ加える。「犯罪者や狂った連中、テロ容疑者にまでやすやすと銃を渡す政治家も悪い。銃犯罪は全員の問題だ」
フロリダ州では同性婚こそ認められているかもしれないが、一方で、雇用主が同性愛者であることを理由に誰かを解雇したり、家主が部屋を貸さなかったりすることもまた合法だ。連邦最高裁が昨年、同性婚を全米で合法化する判断を示して以降も、フロリダ州はまだ何も手を打っていない。
マイアミの元公選弁護人ジョシュ・クーリーは、今回の事件はフロリダに渦巻く怒りが表出したものだという。自分の人生に嫌気がさし絶望し、誰かにその責任を転嫁したくてたまらない人々同士がいがみ合っている。フロリダは人種と階層間の緊張に満ちている。そして社会的・経済的に底辺に追いやられる人々の数は毎日増え続けていると、クーリーは本誌に語る。
「フロリダは人々が疎外感を覚えやすい場所だ。社会の隅に追いやられ、怒りを増幅させている。宗教的な過激思想に染まり、アルコールと同性愛は不適切だと考えて疑わない者にとって、フロリダは格好の攻撃対象だろう。貧しく、社会から締め出され、生きる希望もないときに、ふと通りを見渡せばゲイたちが1本500ドルもする酒を飲みながら踊っているのだから」
「同性愛者は死刑」
弁護士でゲイのジョン・ブルノ・ドリスは、2013年にオーランド近郊のサンフォードにあるフサイニ・イスラムセンターで行われた集会で、同性愛者を罰するのは愛の行為だという説教を聞いたことがあるという。イラン系のファルーク・セカレシュファー博士なる人物が、イスラム法の下では同性愛者は死刑になると事実と異なる主張を展開し、次のように述べた。「人を肉体的な死に至らしめるのは残酷な行為に見えるが、(同性愛者については)人類の愛の証だ。さあ、慈しみの心をもって彼らを一掃しよう」
だがオーランドの都市部は、総じて寛容な場所だ。オーランドで育ったというキューバ系アメリカ人のダマリス・デル・バレは、本誌の取材に対し次のように語った。「ディズニー・ワールドができて以来、オーランドはゲイのメッカになった。ディズニーが毎年6月にゲイのためのイベントを開いてきたから」
ゲイのマット・ジャービスは、1年ほど前にアラバマ州からオーランドへ移住した。アラバマ州では暗黙のホモフォビア(同性愛者嫌悪)を感じたと言う。それに対してオーランドはゲイやトランスジェンダーにとって「溶け込みやすい」土地柄で、日曜の銃撃事件があるまでは安心しきっていたという。だが今、その安心感は消え去った。
「心がかき乱され、普通にしていても身の危険を感じる。ディズニーランドに行くのももう避けるべきなんだろうか」
ウィンストン・ロス
昨日未明の銃乱射事件は、アメリカが抱える脅威がテロだけではないことを思い起こさせた。フロリダ州オーランドでゲイが集まるナイトクラブに男が入り込み、50人を撃ち殺した。
保守派の政治家はテロとの戦いを強化すべきだと呼び掛ける。進歩派は銃規制の厳格化を求め、LGBT(性的少数者)コミュニティーは寛容を説く。イスラム教徒は「平和の宗教」であるイスラム教と過激派の思想を区別してくれと懇願する。
いったい事件の本質は何なのか、本当の教訓は何なのか、どうすれば再発を防止できるのか、アメリカ人は皆、答えを探しあぐねている。
【参考記事】銃乱射が起きても銃規制が進まない理由
バラク・オバマ大統領は昨日午後に演説し、このアメリカ史上最悪の銃乱射事件を「テロの行為であると同時に憎悪の行為」だとした上でこう言った。「とりわけ、レズビアンやゲイ、バイセクシャルやトランスジェンダーのアメリカ人にとっては大きな悲しみの日になった。犯人は、人々が友人と集い、踊り、歌い、人生を謳歌するナイトクラブを標的にした。しかも攻撃されたのはただのナイトクラブではない。そこは団結と地位向上のための場所、互いに意識を高め合い、語り合い、自らの権利を主張する場だ」
社会を分断する緊張
オマル・マティーン容疑者(29)の動機がゲイに対する憎悪だったのか、テロ組織への忠誠のあかしだったのか、あるいは別の何かなのかはまだ不明だ。だが父親ミル・セディクはNBCニュースに、マティーンは最近、マイアミ市内で男性2人がキスしているのを見て怒っていたと話した。「キスし合い、触り合うのを見て、息子は言った。『あれを見てくれ。俺の子供の前で何てことを』」と、セディクは言う。「それから一緒にトイレに行くと、そこでも男性同士がキスをしていた」
【参考記事】ミシシッピ州で「反LGBT法」成立、広範な差別が合法に
オレゴン州ポートランド出身のゲイの男性、ジミー・ラドスタは、こんな事件が起こるのは、同性婚は社会を破壊すると喧伝し、トランスジェンダーを捕食者扱いする政治家のせいだと言う。こうもつけ加える。「犯罪者や狂った連中、テロ容疑者にまでやすやすと銃を渡す政治家も悪い。銃犯罪は全員の問題だ」
フロリダ州では同性婚こそ認められているかもしれないが、一方で、雇用主が同性愛者であることを理由に誰かを解雇したり、家主が部屋を貸さなかったりすることもまた合法だ。連邦最高裁が昨年、同性婚を全米で合法化する判断を示して以降も、フロリダ州はまだ何も手を打っていない。
マイアミの元公選弁護人ジョシュ・クーリーは、今回の事件はフロリダに渦巻く怒りが表出したものだという。自分の人生に嫌気がさし絶望し、誰かにその責任を転嫁したくてたまらない人々同士がいがみ合っている。フロリダは人種と階層間の緊張に満ちている。そして社会的・経済的に底辺に追いやられる人々の数は毎日増え続けていると、クーリーは本誌に語る。
「フロリダは人々が疎外感を覚えやすい場所だ。社会の隅に追いやられ、怒りを増幅させている。宗教的な過激思想に染まり、アルコールと同性愛は不適切だと考えて疑わない者にとって、フロリダは格好の攻撃対象だろう。貧しく、社会から締め出され、生きる希望もないときに、ふと通りを見渡せばゲイたちが1本500ドルもする酒を飲みながら踊っているのだから」
「同性愛者は死刑」
弁護士でゲイのジョン・ブルノ・ドリスは、2013年にオーランド近郊のサンフォードにあるフサイニ・イスラムセンターで行われた集会で、同性愛者を罰するのは愛の行為だという説教を聞いたことがあるという。イラン系のファルーク・セカレシュファー博士なる人物が、イスラム法の下では同性愛者は死刑になると事実と異なる主張を展開し、次のように述べた。「人を肉体的な死に至らしめるのは残酷な行為に見えるが、(同性愛者については)人類の愛の証だ。さあ、慈しみの心をもって彼らを一掃しよう」
だがオーランドの都市部は、総じて寛容な場所だ。オーランドで育ったというキューバ系アメリカ人のダマリス・デル・バレは、本誌の取材に対し次のように語った。「ディズニー・ワールドができて以来、オーランドはゲイのメッカになった。ディズニーが毎年6月にゲイのためのイベントを開いてきたから」
ゲイのマット・ジャービスは、1年ほど前にアラバマ州からオーランドへ移住した。アラバマ州では暗黙のホモフォビア(同性愛者嫌悪)を感じたと言う。それに対してオーランドはゲイやトランスジェンダーにとって「溶け込みやすい」土地柄で、日曜の銃撃事件があるまでは安心しきっていたという。だが今、その安心感は消え去った。
「心がかき乱され、普通にしていても身の危険を感じる。ディズニーランドに行くのももう避けるべきなんだろうか」
ウィンストン・ロス