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熊本地震「自主避難所は不要? 危ない?」現地ボランティアに聞いた

ニューズウィーク日本版 2016年6月14日 11時58分

<熊本地震の発生から2カ月。この地震では車中泊や自主避難所の問題が多く議論されてきたが、なぜ自主避難所はなくならないのか。現地で運営に関わった人にその実態を聞いた> (写真は古城堀端公園、5月3日撮影)

 5月31日、登山家の野口健さんらが設置していた熊本県益城(ましき)町総合運動公園のテント村が閉鎖された。大雨による水害や猛暑による熱中症を警戒しての判断で、行政は指定避難所への移動を呼びかけている。しかし、プライバシーの問題や個々の事情から指定避難所を忌避し、車中泊や自主避難所(指定外避難所)を選択する被災者は今も絶えない。

 熊本地震の発生から2カ月が経った。朝日新聞などによれば、1万以上の人が現在も避難生活を続けている(6月13日現在)。テント村の閉鎖にあたって、野口さんは「プライバシーの確保やストレスの軽減に大きな成果があった」と述べていたが、指定避難所の問題点や自主避難所の必要性については、これまでに多くの議論が交わされてきた。

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 なぜ自主避難所はなくならないのか。指定避難所と自主避難所、どちらが被災者のニーズにより適っているのか。判断の材料として現地の経験は不可欠だ。そこで熊本城の一角、古城堀端公園にある自主避難所で運営ボランティアとして関わったカメラマンの高口健也さんに話を聞いた。

――古城堀端公園で自主避難所を運営されていたそうですね。

 自主避難所にもさまざまな形態があります。古城堀端公園は、多くの車が止まり、その中に寝泊まりしている人がいるという、駐車場というかカーキャンプ場のようになっていました。普段は車止めがあるのですが、地震後に町内会長さんの一存で開放されました。いちばん人が多かったのは地震直後で、少なく見積もっても100人以上が車中泊、野宿で夜を明かしたそうです。私が行った4月20日の時点でも50人は寝泊まりしていました。

 大きかったのは自衛隊の配給です。指定避難所ではないにもかかわらず、被災者が集まっていることを把握してくれて物資を届けてくれました。ここで寝泊まりしている人だけでなく、近隣の被災者の方々の中にも公園で支援物資を受け取っていた方がいました。

 自衛隊の臨機応変な対応には驚きました。聞くところによると、古城堀端公園を担当していたのは伊丹駐屯地の部隊で、阪神大震災の経験から困っている人は自力で見つけ出せと指示されていたんだそうです。

4月23日、古城堀端公園のあずまやに配給を届けに来た自衛隊隊員。撮影:高口健也



4月25日、古城堀端公園にて。宮崎睦さん。撮影:高口健也

――高口さんはどのような形で支援に関わられたのでしょうか?

 公園のあずまやに無料でお茶を提供している方がいました。宮崎睦さんという地元の方で、ご自身も被災者です。自衛隊の物資受け取りなどで窓口になっていたんですが、宮崎さんをはじめ被災者の方々には、昼間は家の片付けなど自分たちの用事があります。ずっと公園に張り付いているわけにはいかない。そこで手伝うことにしたんです。後に井上憲昭さん、末次慎一郎さんという2人の方が協力してくれて、宮崎さんと私を含めた4人で切り盛りしていました。

 やったことといえば、留守番だったり、人の相談にのったり、ちょっとした手助けをしたり、炊き出しをしたり。まあなんでも屋ですね。「地震で壊れた浴室の修繕をしたいが業者が見つからない」というご老人がいたので、予約を取ってあげたこともありました。

 また、ツイッターで不足している物資の提供を呼びかけたのですが、多くの物資を送っていただきましたし、トラックで大量の物資を持ち込んでくれた方もいました。ネットの力を実感しましたが、140文字で情報をまとめたり、ハッシュタグを使ったりするのは普段から使い慣れている人じゃないと難しいのではないでしょうか。ITリテラシーの格差は大きいですね。情報面での支援も重要だと感じました。

――現在、自主避難所の功罪をめぐって議論されています。実際に運営にたずさわった経験から問題点などは感じられましたか?

 難しい問題はたくさんあります。古城堀端公園は自衛隊からいただいた物資、民間から送られてきた物資の集積所となって被災者の皆さんに配給していたわけですが、次第に"変な人"が出入りするようになりました。1日に何度も同じものをもらいにやってくる、しかも変装して別人のように姿を変えてね。バレバレでしたが(笑)。それに、飲料水やオムツは個別包装のものは要らない、ダンボールの大箱のまま欲しいと言い出すんです。

 転売目的で業者が配給物資を集めているという話は噂で聞いていました。疑いましたが、民間人である私たちがとがめることは難しい。

 寄付していただいた野菜が傷んでいたこともありました。気がついたからよかったのですが、もしそのまま炊き出しに使って食中毒でも起きれば大変です。自主避難所には衛生に関するマニュアルもありませんし、医療体制のバックアップもありません。自主避難所をめぐる議論では、安全面でのリスクが大きいことが問題視されています。運営者として最大限気を使いましたが、それでも危うさがあることは認めざるを得ません。

5月2日、古城堀端公園のあずまや。ブルーシートをめぐらせて簡易宿泊施設とし、配給物資の集積場としても使われた。撮影:高口健也



4月25日、古城堀端公園のあずまやにて、運営者と自主避難者。右端が宮崎睦さん。その隣でしゃがんでいるのが高口健也さん。左端でしゃがんでいるのが井上憲昭さん。左奥から2番目が末次慎一郎さん。以上4人が自主避難所の運営を担った。写真提供:高口健也

――指定避難所と比べると、自主避難所にはリスクが大きいと実感されたわけですね。そうすると避難者を指定避難所に集約したいという行政の方針にも賛同されますか?

 指定避難所がいいのか、自主避難所がいいのかという議論はある意味ナンセンスです。というのも、指定避難所に行けないから自主避難しているだけだからです。

 よく報道されているようなプライバシーの問題もありますが、それだけではありません。小さなお子さんがいて避難所に行けば迷惑がかかる、応急危険度判定で家に損傷なしと判断されてもやはり不安で家では寝られない、避難所が遠くて不便など、理由はいろいろです。たとえ指定避難所のほうが安全で支援の効率が上がるといっても、そこからこぼれ落ちる人が出ることは事実です。

――自主避難所にはリスクがある、しかし指定避難所には行けない人がいる。この状況でどんな解決策が考えられるでしょうか?

 私も100%の正解を持っているわけではないのですが、やはり行政が主体にならなければ安全性は確保できないと思います。支援から取りこぼれる人が減るよう、より柔軟な手法に改善することが重要です。先ほどお話しした自衛隊の話が示唆的ではないでしょうか。行政が自主避難所を把握できないと混乱しているなかでも、自衛隊は自力で自主避難所を見つけて支援してくれたわけです。

 古城堀端公園の運営にたずさわっている時、こんな話を聞きました。熊本市の近隣の地域では、夜になるとコンビニやスーパーの駐車場が満車になるというんです。市外に移動してまで車中泊をしている人も多いんですね。そういうニーズがあるなら廃校グラウンドなどを開放して車中泊者のためのカーキャンプ場を作ればいいのではと思い、熊本市や近隣の市に提案しましたが、やはり自治体を越えての連携はなかなか難しいようで実現しませんでした。

 お役所仕事の弊害はボランティアにもありました。ゴールデンウィークの人手がある時期には仕事が足りず1日の仕事が1時間しかなかったなんて人もいましたが、休みが終わると途端に人手不足で慌てだすとかですね。

 それに印象的だったエピソードがあります。重たいテーブルを動かしたいので手伝って欲しいと自主避難所にやってきた人がいたんですよ。5分で終わる仕事なんですが、ボランティアセンターに手伝いを依頼したら2週間後に派遣すると言われたんだとか。また、あるボランティア学生から「高口さんは災害ボランティアの登録をしてないんですか? それじゃモグリじゃないですか!」なんて言われたこともありました(笑)。

 こうした縦割り行政を打破してスムースな支援を実現すれば、指定避難所の利便性も大きく向上するはずです。行政が被災者のニーズにあわせた支援を提供できれば、自主避難所の数も自然と減少するでしょう。自主避難所や車中泊の問題がクローズアップされた熊本地震の教訓を熊本、そして今後起こりうる大地震の支援に役立てて欲しいと願っています。

[話を聞いた人]
高口健也
カメラマン、ライター、Webデザイナー。1981年、鳥取県生まれ。中卒。東京、福岡在住。水島ハン名義でも活動し、日本、アジアの地方都市を舞台に市井の人々の暮らしを独自の視点で追い続けている。個人事業サイト「nairobia.net」。ツイッターアカウントは@mizushima06。

高城 武(ライター)

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