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LGBTはイスラム過激派の新たな標的か

ニューズウィーク日本版 2016年6月14日 17時52分

<オーランドの銃乱射事件が、欧米のLGBTコミュニティーに対する初めての大規模なテロだとしたら、これを前例としたローンウルフの攻撃が繰り返される不安がある。シリアやイラクではISISが残酷なやり方でゲイを殺しているし、かつてニューヨークでも似た例があった> 写真は射殺されたオマル・マティーン容疑者

 米フロリダ州オーランドのゲイが集まるナイトクラブで男が銃を乱射し49人が死亡、53人が負傷した事件は、欧米のLGBT(性的少数者)コミュニティーを標的とした初の大規模テロとなった。これを前例として、イスラム過激派の影響を受けたテロリストがLGBTコミュニティーが新たな標的になることを不安視する声が広がっている。

 ナイトクラブ「パルス」に押し入ったオマル・マティーン容疑者(29)は犯行の直前、現場から緊急通報用911に電話し、テロ組織ISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)に忠誠を誓ったという。マティーンが警官に射殺された後、ISISは系列のニュースメディア「アマック(Amaq)」を通じて事実上の犯行声明を出した。

シリアやイラクではゲイの処刑も

 米捜査当局は、マティーンとISISに直接の結びつきがあったか、あるいはISISのプロパガンダに感化されたローンウルフ(一匹狼)型の犯行だったかについては捜査中だと述べた。

 昨年以降、欧米ではISISによるテロ事件が相次いでいる。フランスのパリやベルギーのブリュッセルで起きた同時テロでは、無差別に多数の犠牲者を出すことを目的に、コンサートホールやカフェ、地下鉄の駅、空港など一度に多くの市民が集まる場所が標的となった。だがこれまでISISが欧米で、LGBTに狙いを絞ってテロ行為に及んだことはなかった。

【参考記事】【ドキュメント】週末のパリを襲った、無差別テロ同時攻撃
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 しかしシリアやイラクのISISの支配地域では、目隠しされたゲイたちが建物の屋根から突き落とされる様子を映したビデオを撮影して公開するなど、ISISは同性愛者を残酷に処刑してきた実態がある。LGBTのための人権団体「OutRight Action International」によると、これまで少なくとも36人の住民が同性愛の罪でISISによって処刑された。バングラデシュでもここ数年、ゲイのブロガーがイスラム過激派による暗殺の標的となっており、当局は先週末、イスラム過激派を含む約8000人の犯罪者を一斉摘発した。

【参考記事】ISISの支配下には31,000人以上の妊婦がいる

 事件後、バラク・オバマ米大統領はホワイトハウスで緊急記者会見を開き、世界各地でLGBTのコミュニティーの権利を祝うゲイ・プライド・パレードが行われる時期に起きたことに触れ、乱射事件は「テロ行為であり、ヘイト行為だ」と強く非難した。

 ISISはマティーンが組織でテロ行為を決行したと主張しており、アマックも「アメリカに潜むISISの戦士が、フロリダ州オーランドのゲイが集うナイトクラブでテロ攻撃を行い100人以上を死傷させた」と報じた。



 だがマティーンの父親は、マティーンが以前マイアミ市内で男性2人がキスをしているのを見て憤っていたことはあったものの、これまでにイスラム過激派の教義や宗教に関心のあるそぶりを見せたことはないと語った。2011年に離婚した元妻は、「マティーンはよく暴力をふるい、精神的に病んでおり安定していなかった」と話した。

 米下院情報特別委員会の有力メンバーであるアダム・シフ下院議員(民主党、カリフォルニア州選出)は、多数の証拠が、今回の事件がISISに触発されたテロ行為であることを示唆していると語る。ISISがラマダン(断食月)の間に攻撃を実施するよう呼び掛けていたことや、マティーンが911へ電話してISISへの忠誠を誓ったことなどだ。ただし同議員は、「この攻撃がISISの指示によるものであるかどうかは、まだ断定できない」と付け加えている。

メディアを通じて命じるバグダディ

 マティーンは連邦当局に知られる存在だった。FBIは過去、彼に対して2度の捜査を行っている。2013年には「自分はテロリストたちとつながりがある」と吹聴していたために嫌疑がかけられたが、起訴できるだけの十分な証拠を見つけられなかった。次の2014年には、シリアで自爆テロを実行した最初のアメリカ人であるモネル・モハマド・アブサルハとマティーンにつながりがあるのではないかという疑いで捜査が行われた。

 FBIタンパ支局の責任者を務める特別捜査官補佐のロナルド・ホッパーはオーランドで、2014年の捜査に関して記者たちに説明を行った。それによれば、マティーンとアブサルハは2人ともフロリダ州フォートピアース在住だったが、その接触は「最小限」で、「マティーンは実質的な脅威ではない」と当時のFBIは結論づけたという。

 ISISの支配地域がイラクとシリアで縮小を続けているにもかかわらず、西側諸国の政府は、暴力的で憎悪に満ちた過激なプロパガンダの影響を封じ込めるのに悪戦苦闘している、と専門家は言う。

 イスラム国のリーダー、アブ・バクル・アル・バグダディは、「自分が呼び掛けさえすれば、テロが実行されることを知っている」と語るのは、元CIA職員で現在はブルッキングズ研究所特別研究員を務める作家のブルース・ライデルだ。「バグダディには、直接的な人とのつながりや、ウェブ接続さえ必要ない。彼のメッセージはメディアで大きく取り上げられ、内容も非常にシンプルであるため、確実に怒りを引き起こすからだ」



 怒りの要因はたくさんある。性的指向にまつわるヘイトクライムは、アメリカでは日常茶飯事だ。しかし今回のような大規模な攻撃は初めてで、国外のテロ組織やそのプロパガンダとの直接的なつながりもなかった。ただし、1990年にニューヨークのグリニッジビレッジにあるゲイバーで爆弾が爆発して3人が負傷した事件は、最終的にはイスラム過激派の疑いがある人物の犯行だとされている。

憎悪犯罪の18%が対LGBT

 FBIによる最新の統計によると、2014年に全米全体で発生したヘイトクライムは1017件。同性愛者のアメリカ人に対するものはそのうちの18%以上を占め、約2%がゲイバーあるいはナイトクラブで起きたという。

 6月12日にオーランドで起きた悲劇を受けて、事実上の大統領候補であるドナルド・トランプとヒラリー・クリントンは著しく異なった反応を見せた。2016年米大統領選挙の様相を浮き彫りにしたかたちだ。クリントンはこの事件を、テロでありヘイトクライムであると強調。一方のトランプは当初、LGBTコミュニティーについては何も触れず、イスラム教徒を排除すべきだという自分の主張が正しかったことを「祝う」言葉がツイッターフォロワーたちから寄せられたことに礼を述べた。

 オーランド選出のフロリダ州上院議員であるダレン・ソトは先週末、「街は怒りに満ちている」と語った。「われわれ市民の多くが目を覚まして愕然とした。この幸福に満ちた小さな町が、アメリカ史上最大の銃乱射事件の現場になってしまったのだ」

「オーランドには、誇り高い同性愛者たちの大きなコミュニティーがある。オーランドの文化にとって欠かせない一部だ。彼らが国際的なテロ攻撃の可能性がある事件の標的となったことに、動揺と怒りを禁じえない」

From Foreign Policy Magazine

モリー・オトゥール、ダン・デ・ルーチェ

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