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数学の「できない子」を強制的に生み出す日本の教育

ニューズウィーク日本版 2016年6月21日 16時10分

<日本の生徒の数学(算数)の能力は国際比較で見れば平均的な水準よりもはるかに高いが、グループ内で順位を付けるため強制的に「できない子」が生み出されている>

 国際学力調査としてはOECD(経済協力開発機構)が3年おきに実施している「PISA(学習到達度調査)」が有名だが、IEA(国際教育到達度評価学会)の「TIMSS(国際数学・理科教育調査)」もよく知られている。こちらは5年間隔で、各国の数学と理科の学力を計測する調査だ(対象は小学4年生と中学2年生)。

 日本では子どもの理系離れが言われて久しいが、日本の生徒の理系学力は実はかなり高い水準にある。2011年のTIMSSの結果によると、日本の中学2年生の数学平均点は570点で、参加国(42カ国)の中で5位に入っている。

 それなら日本では数学が得意な生徒が多いかというと、そうではない。数学が得意と答えた生徒は12%にすぎない。数学が得意と答えた生徒の割合を横軸、数学の平均点を縦軸にとった座標上に、調査対象の42カ国を配置すると<図1>のようになる。ドイツとフランスは、「TIMSS 2011」の中学生の調査には参加していない。



 数学が得意な生徒が多いほど平均点が高くなるのかと思えば、現実はその逆になっている。右下の途上国は、数学の学力は低いのに、数学を得意と考える生徒の率は非常に高い。日本をはじめとしたアジア諸国はその反対だ。教科の内容や、要求される到達水準の差にもよるだろうが、この傾向には驚かされる。

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 日本の生徒は、平均点は高いのに得意率は最下位だ。学校や塾で、グループ内での順位に基づく相対評価に繰り返し晒されているためだろう。「皆が100点では困る、順位をつけないといけない」。生徒をより分ける資料を得るため、教科書のレベルを超えた奇問難問が試験で出されることもしばしばあり、「できない子」が強制的に生み出されている。

 これでは、自信を喪失する生徒が多いのも仕方のないことだ。このような問題は、受験競争が激しい他のアジア諸国にも共通しているだろう。

 同調査で中学2年生の理系職志望率をみると、日本はわずか21%で最下位だ。<図1>の右下の途上国は理系志望率が高く、ガーナは89%、オマーンは80%、ヨルダンは74%にもなる。参加国全体の傾向で見ても、数学の平均点よりも得意率のほうが、理系職志望率と強いプラスの相関関係にある。



 もう一つ、日本の特異性が分かるグラフがある。<図2>は、数学を得意と考える割合と平均点のクロス集計結果だ。左は日本、右は参加国平均のグラフで、横幅の大小によって得意群・不得意群の比率を表している。



 日本は不得意群が大半だが、その多くが国際標準で見ると高い水準に達している。参加国平均でみた得意群よりも、はるかに高いアチーブメント(到達度)であることがわかる。

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 理系の学力が高い生徒を育てること、理系教科を得意と考える(親近感を持つ)生徒を育てること――。国の科学力を強化するにはどちらも大事だが、日本は後者が明らかに弱い。理系学力を鍛えても、それを活かして理系職を望む生徒が出てこない(とくに女子)。何とももったいないことだ。

 過密カリキュラムを少し緩めること、入試では科学に対する意欲・態度の評価項目をもっと重視することなど、今進んでいる大学入試改革はその方向に動いている。現場の人員増員といった教育環境の整備と並行して、ぜひとも実現して欲しい。日本の生徒はもっと自信を持っていい。

<資料:IEA「TIMSS 2011」>

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舞田敏彦(教育社会学者)

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