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米名門大学はアジア系を差別している

ニューズウィーク日本版 2016年6月22日 15時14分

<130のアジア系アメリカ人団体が、アイビーリーグが「逆人種差別」をしていると訴えている。大学が「理想的な人種バランス」を保つため、優秀な出願者が多数不合格になっているというのだ。多くのデータが主張を裏付けており、今後、訴訟も増えてくるだろう> 写真はエール大学

 米連邦最高裁判所は間もなく「アビゲイル・フィッシャー対テキサス大学オースティン校」の人種差別訴訟に判決を下す。同大学に出願したフィッシャーが不合格になったのは、マイノリティーを優遇する入試方針のせいだ、として訴えた裁判だ。

 どのような判決になるにせよ、大学入試が「差別的だ」と訴えるケースはこれからもっと増えてくるだろう。

 5月には、アジア系アメリカ人教育連合をはじめとする130のアジア系アメリカ人団体が、米教育省と司法省に対して、エール大学、ブラウン大学、ダートマス・カレッジ(いずれも「アイビーリーグ」に属する東海岸の名門校)を調査するよう申し立てた。大学側が「人種に基づくクオータ制」を使って、合格水準に達しているアジア系アメリカ人の出願者を締め出しているとの主張だ。

【参考記事】「増えすぎ」アジア人を排除するハーバード

 申し立てたグループは、優秀なアジア系アメリカ人の出願者の数が増えているにもかかわらず、エールとブラウンでは1995年から、ダートマスでは2004年から、アジア系の入学者数の伸びが止まっていることを示す教育省のデータを引用している。

満点を取っても入れない

 同グループはこう強調する。ほぼ満点のSAT(大学進学適性試験)スコア、高校でトップ1%に入るGPA(成績平均値)、そして活発な課外活動という通常であれば名門校に合格できるだけの成績を収めたアジア系アメリカ人が次々と不合格になっている。同様の成績でも、他の人種の出願者は合格になっている、と。

 彼らの訴状によれば、アジア系アメリカ人は平均で「白人の生徒より140点、ヒスパニックより270点、黒人より450点高いSATスコアを取らない限り、合格の確率が同程度にならない」ことが統計からわかっているという。

【参考記事】中国人学生対象の「不正」請負業者、米大学で暗躍

 エール、ブラウン、ダートマスなどのアイビーリーグ各校は「彼らの信じる理想の人種バランスを保つために、人種のクオータ制を設けている」と、グループは主張する。1882年に成立した中国人排斥法や、第2次大戦時の日系人強制収容所を思い起こさせるやり方だ。

 3大学とも出願者の評価には「全人的な」アプローチを採用しているため、選考過程において人種や民族が大きな要因になることもあり得るという。これは他の多くの大学も同じだ。



 訴状でグループは、大学はステレオタイプや偏見に基づいてアジア系アメリカ人の出願者をはねのけていると主張している。例えば、アジア系アメリカ人は「創造性に乏しい」「いい子だが秀でたものがない」「批判的思考の技術を欠く」「指導的立場の経験がない」そして「課外活動をせず勉強ばかりしている」という具合。

 入試事務室の選考担当者たちはアジア系の出願者についてこんなメモを残している。「彼は物静かで、もちろん医者志望だ」。彼女の「成績と願書を見ると、まさにアジア系の典型。数学の成績は抜群だが、英語はまるでダメだ」。

 これら名門校の入試方針は「秘密のベールに包まれて」おり、アジア系に対する差別もその気になればやりたい放題。エール大学の法科大学院は最近、入試選考の記録を破棄し始めたという。おそらくは、人種などの合格基準を開示させられるのを避けるためだ。

 こうした差別的な方針はアメリカの教育界にとっても損失だと、グループは主張する。アメリカの高等教育機関の実力主義の建前に対する信頼も失われる。

 一方、出願者たちも数少ない「アジア系アメリカ人枠」を奪い合って過大なプレッシャーに晒されている。ストレス増加、自殺率の上昇。自分の人種を隠そうとし、自尊心が低く、人種絡みのけんかや憎しみも増える......。

差別是正措置は、今では害のほうが大きい

「差別是正措置(アファーマティブ・アクション)」に始まる人種を考慮した入試方針は、マイノリティーを優遇し、その地位を押し上げようという善意から生み出されたものだった。しかし昨今では、益よりも害が増しているという見方もある。

 人種や民族性を理由にゲタを履かされ入学した学生が結局は落第していくことも多い。「不釣り合いな」大学に入って同級生についていこうと必死に頑張った末に。

 そもそも、連邦政府から助成金を受ける大学がどうやって、憲法で保障された平等な権利を侵害することなく人種の割り当てを行っているのだろうか?

 1978年には「カリフォルニア大学理事会対バッキー」裁判で、「民族的に多様性のある学生集団から得られる教育的利益」を推進する目的であれば、人種により優遇をしても構わないと、連邦最高裁判所が判決を下した。



 さらに連邦最高裁判所は2003年、大学の入試制度におけるマイノリティーの優遇措置をめぐる問題に関して新たな判決を下した。ミシガン州立大学を受験したが不合格となった出願者が当時の学長を訴えた2つの裁判のうち、グルッター対ボリンジャー事件については、大学側が学生集団の多様性に資するために「クリティカル・マス(マイノリティに割り当てられる最低入学者数)」を入学させる措置を合憲とした。一方グラッツ対ボリンジャー事件では、大学は学生集団の多様性を実現するために、マイノリティーの出願者へ自動的に20点付与した同大の入試制度は違憲とした。

 グルッター対ボリンジャーの最高裁判所の判決で、クラレンス・トーマス判事は次のような意見を述べた。

「合衆国憲法が人種による分類に極めて否定的な見解を示しているのは、そうした分類が優遇措置を受けた人種に害を与える、あるいはそうした措置の動機が違法だからというだけではない。政府が国民を人種ごとに振り分け、負担や手当の基準とするたびに我々自身の尊厳が損なわれるからだ」

 いつかこの見解が連邦最高裁判所の判決にも広まり、大学入試制度における人種的優遇措置が禁じられることを期待しよう。

Elizabeth Slattery is a legal fellow in the Heritage Foundation's Edwin Meese III Center for Legal and Judicial Studies.


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