<イギリスのEU離脱が決まった直後から一部の要求が高まっているのが単一市場に残留するための「ロンドン独立」。さすがに事はそう単純ではないが、中国と香港の例に見習って「一国二制度」とはいかないだろうか>
国民投票でEU離脱の結果が出た後、スコットランドとロンドンが独立するという噂がソーシャルメディアを席捲するまでほとんど時間はかからなかった。先週金曜の午後までには、ロンドンの独立を求める嘆願書には6万人の署名が集まった。
スコットランド行政府のニコラ・スタージョン首相とロンドンのサディク・カーン市長は、イギリス政府が離脱の条件をEUと交渉する際には、自分たちも参加すると主張した。ロンドンは、単一市場に残らならなければならないとカーンは言った。
【参考記事】英EU離脱に憤る若者たち: でも実は若年層は投票しなかった世代
ロンドン独立というアイデアは表向きは魅力的だ。60対40の割合で残留支持が上回ったロンドン住民は、国際色豊かで、3人に1人は外国生まれ。GDPはスウェーデン一国に匹敵する。イギリスの12%の人口でGDPの22%を稼いでいる。そして毎週、6億7000万ドルの財政黒字を上げている。いざとなればロンドン独立の原資となる資金だ。
ロンドンは都市国家ではない
だが現実はもっと複雑だ。ロンドンは、ルネッサンス期のベニスや古代ギリシャのアテネのような都市国家ではない。ロンドンの経済社会はイギリスと不可分に結びついている。残留に投票した多くのロンドン子は生まれも育ちもロンドンではなく、イギリス中からやってきた人々だ。
【参考記事】英国EU離脱。しかし、問題は、移民からボティックスへ
各地の労働市場は密接に結びつき、通勤が増えている。労働人口の14%にあたる79万人が、ロンドンを取り巻く町や国から通勤してきている。
住民の半分がロンドンに住んだ経験をもつブライトンのように、ロンドンと密接な結び付きをもった町もある。ブライトンのカフェに座っているウェブ・デザイナーやマーケティング専門家の顧客は、たいていロンドンにいる。ロンドンを拠点にする企業もいくつかの市で全従業員の20%を雇用している。たとえばJPモルガンはボーンマスで4000人を雇用している。
従って、機能面から見たロンドンはそれ自体よりはるかに広い。だがロンドンは、EU離脱を支持すると投票したロンドン住民の40%を無視して勝手なことはできないのだ。これらの住民は、せっかくEUを出たのに、また入り直すことは望まないはずだ。
【参考記事】イギリスは第2のオーストリアになるのか
それでも、ロンドンがイングランドのなかで浮いているのは明らかだ。若くてバックグラウンドも多様で学歴も高いロンドンの有権者は、過半数が残留に票を投じた。金融街シティーも企業も単一市場に残りたがった。もしスコットランドと北アイルランドのために新しい妥協が図られるなら、ロンドンだけがだめというのはおかしい。
中国と香港の関係から言葉を借りれば、「一国二制度」だと思えばいいのだ。ロンドンは長いこと、自らの税収をもっと自由に伝えたいと訴えてきた。前ロンドン市長で次期首相の呼び声も高いボリス・ジョンソンは、地方財政拡大の信奉者だ。ロンドンは、彼が首相になってもこの約束を守るか見張らなければならない。
またこれは、単一市場について新しい考え方をする好機かもしれない。そもそもの問題は、EUが単一市場には「移動の自由」が必要だと言い張ってきたことにある。
ロンドン「残留」なら移民20万人を受け入れられる
イギリスは離脱と独立という2つの世界のいいところを取れないだろうか。イギリスがEUから離脱してもロンドンはある程度の移動の自由を確保することによって、単一市場に残留するとか。単一市場に残れれば、ロンドンはイギリスの地方から毎年出てくる50万人の人々に雇用を提供し続けられる。年間20万人の移民労働者も受け入れることができるだろう。
そうした仕組み作りを交渉するのは複雑な作業だろう。もっとも、複雑に絡み合ったEUの条約や義務を改定して、イギリスを切り離すのも同様に複雑だと思うが。
ロンドンは、イギリスの首都としての歴史的役割と同時にその世界的地位を維持できるよう国から権限移譲を求めるべき時だ。カーンがそれを望んだわけではないが、カーン市政の成否を決定付ける課題になるかもしれない。
<ニューストピックス:歴史を変えるブレグジット国民投票>
リチャード・ブラウン(センター・フォー・ロンドン研究ディレクター)
国民投票でEU離脱の結果が出た後、スコットランドとロンドンが独立するという噂がソーシャルメディアを席捲するまでほとんど時間はかからなかった。先週金曜の午後までには、ロンドンの独立を求める嘆願書には6万人の署名が集まった。
スコットランド行政府のニコラ・スタージョン首相とロンドンのサディク・カーン市長は、イギリス政府が離脱の条件をEUと交渉する際には、自分たちも参加すると主張した。ロンドンは、単一市場に残らならなければならないとカーンは言った。
【参考記事】英EU離脱に憤る若者たち: でも実は若年層は投票しなかった世代
ロンドン独立というアイデアは表向きは魅力的だ。60対40の割合で残留支持が上回ったロンドン住民は、国際色豊かで、3人に1人は外国生まれ。GDPはスウェーデン一国に匹敵する。イギリスの12%の人口でGDPの22%を稼いでいる。そして毎週、6億7000万ドルの財政黒字を上げている。いざとなればロンドン独立の原資となる資金だ。
ロンドンは都市国家ではない
だが現実はもっと複雑だ。ロンドンは、ルネッサンス期のベニスや古代ギリシャのアテネのような都市国家ではない。ロンドンの経済社会はイギリスと不可分に結びついている。残留に投票した多くのロンドン子は生まれも育ちもロンドンではなく、イギリス中からやってきた人々だ。
【参考記事】英国EU離脱。しかし、問題は、移民からボティックスへ
各地の労働市場は密接に結びつき、通勤が増えている。労働人口の14%にあたる79万人が、ロンドンを取り巻く町や国から通勤してきている。
住民の半分がロンドンに住んだ経験をもつブライトンのように、ロンドンと密接な結び付きをもった町もある。ブライトンのカフェに座っているウェブ・デザイナーやマーケティング専門家の顧客は、たいていロンドンにいる。ロンドンを拠点にする企業もいくつかの市で全従業員の20%を雇用している。たとえばJPモルガンはボーンマスで4000人を雇用している。
従って、機能面から見たロンドンはそれ自体よりはるかに広い。だがロンドンは、EU離脱を支持すると投票したロンドン住民の40%を無視して勝手なことはできないのだ。これらの住民は、せっかくEUを出たのに、また入り直すことは望まないはずだ。
【参考記事】イギリスは第2のオーストリアになるのか
それでも、ロンドンがイングランドのなかで浮いているのは明らかだ。若くてバックグラウンドも多様で学歴も高いロンドンの有権者は、過半数が残留に票を投じた。金融街シティーも企業も単一市場に残りたがった。もしスコットランドと北アイルランドのために新しい妥協が図られるなら、ロンドンだけがだめというのはおかしい。
中国と香港の関係から言葉を借りれば、「一国二制度」だと思えばいいのだ。ロンドンは長いこと、自らの税収をもっと自由に伝えたいと訴えてきた。前ロンドン市長で次期首相の呼び声も高いボリス・ジョンソンは、地方財政拡大の信奉者だ。ロンドンは、彼が首相になってもこの約束を守るか見張らなければならない。
またこれは、単一市場について新しい考え方をする好機かもしれない。そもそもの問題は、EUが単一市場には「移動の自由」が必要だと言い張ってきたことにある。
ロンドン「残留」なら移民20万人を受け入れられる
イギリスは離脱と独立という2つの世界のいいところを取れないだろうか。イギリスがEUから離脱してもロンドンはある程度の移動の自由を確保することによって、単一市場に残留するとか。単一市場に残れれば、ロンドンはイギリスの地方から毎年出てくる50万人の人々に雇用を提供し続けられる。年間20万人の移民労働者も受け入れることができるだろう。
そうした仕組み作りを交渉するのは複雑な作業だろう。もっとも、複雑に絡み合ったEUの条約や義務を改定して、イギリスを切り離すのも同様に複雑だと思うが。
ロンドンは、イギリスの首都としての歴史的役割と同時にその世界的地位を維持できるよう国から権限移譲を求めるべき時だ。カーンがそれを望んだわけではないが、カーン市政の成否を決定付ける課題になるかもしれない。
<ニューストピックス:歴史を変えるブレグジット国民投票>
リチャード・ブラウン(センター・フォー・ロンドン研究ディレクター)