<フロリダのゲイ向けナイトクラブで49人を撃ち殺すのに使われた銃は、銃業界が10年ほど前に「一般向け」に開発してドル箱に育てた攻撃用ライフルだった> 写真は全米ライフル協会(NRA)の展示会
2016年6月12日にフロリダ州オーランドで起きた銃乱射事件で使用された攻撃用ライフルは、ニューハンプシャー州に本社を置く銃器メーカー、シグ・ザウエルによって製造されたものだ。
シグ・ザウエルは2004年、倒産の危機に瀕していた。質の高いピストルで有名な同社だったが、当時の売上は横ばいだった。「倒産寸前で、いまにも崩壊しそうな企業だった」と同社のロン・コーエンCEOは「マネージメント・トゥデイ」誌に2010年に掲載された記事のなかで回想している。
その後、コーエンCEOが下したある決断によってシグ・ザウエルは倒産を免れ、アメリカ第4位の銃器メーカーへと変貌を遂げた。コーエンは、一般市民向けの攻撃用ライフルを新たな主力製品に加えたのだ。
それから約10年。同社の攻撃用ライフル「シグ・ザウエルMCX」は今月、フロリダ州オーランドにあるLGBT(性的少数者)向けナイトクラブ「パルス」でオマー・マティーンによって使用され、49人を殺害し、53人を負傷させた。あの、米史上最悪の銃乱射事件に使われたのがこの銃なのだ。
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マティーンが攻撃用ライフルを使ったのは偶然ではない。アメリカのピストル所有者数は減少していたが、ビル・クリントン元大統領が1994年に法制化した「攻撃用武器規制法」が10年で有効期限切れになったことから、米銃器メーカーは一斉に一般市民向けの攻撃用ライフル販売を開始した。今ではそれがアメリカの銃器産業の収益の柱に成長している。
【参考記事】【動画】銃規制めぐり怒りのサボタージュ、米議会下院の法案否決で民主党議員座り込み
アメリカの自動車産業が利益率の高いSUVという売れ筋商品を発見したのと同じように、銃器産業も、人間を大量に殺害する以外ほとんど実用性がない製品への需要を開発し、利益を生み出すことに成功したのだ。
チャンスをつかむ
業界のこの転換は、シグ・ザウエルにプラスに作用した。かつてイスラエル軍で指揮官を務めていたコーエンは、この好機をとらえて、消費者向けのハイエンドな攻撃用ライフルを製造。それがシグ・ザウエルの業績を好転させた。
2004年当時、同社の従業員数は130人だった。「シグ・ザウエルはそのころ、攻撃用ライフルはほとんど販売していなかった」と語るのは、2002~2005年に同社で警察・軍向け販売担当のバイスプレジデントを務めていたジム・プレッジャーだ。「本当に魅力的なライフルのシリーズを製造し始めた」のは、コーエンがCEOになってからだという。「価格は若干高めだが人気があった」
今同社は、全米の製造工場に1,000人以上の従業員を抱え、1年で4万丁以上の銃器を販売するメーカーに成長した。
だが、この間成長したのはシグ・ザウエルだけではない。銃器大手のスミス&ウェッソンのマイク・ゴールデンCEOは2006年6月、投資家向けの説明会で、同社の新型ライフルに対する「消費者の反応は非常に強く」、銃器産業における「ドル箱」になっていると述べた。
2015年に登場したシグ・ザウエルMCXは、ひときわ大きな称賛をもって市場に迎えられた。MCXはミリタリースタイルの半自動式小銃で、デザインも洗練されている。つや消しブラックで仕上げられており、軽量だ。
MCXはYouTube上で広告動画が数多く再生されるなど、インターネット上で大々的に宣伝されている。銃を持った男が戦場のような場所を横切りながらMCXで様々なターゲットを射撃する設定の動画もある。
撃つ喜び
MCXはデザインや組み立ての容易さ、使い易さといった点で、銃マニアからも絶賛されている。マイク・シアソンはウェブサイト「アンモランド」で、シグ・サヴァーMCXライフルは「銃器メーカーが製造した歴代で最高に組み立てやすいライフル銃」と評価した。ウェブサイト「銃に関する真実」のブロガー、ニック・レゴムはMCXについて「とにかくしっくりくる」と書いだ。「銃を持ったときのバランスが良く狙いを定めやすい。作動部品は反応が早く丈夫で、撃つと本当に気持ちがいい」
シグ・ザウアーで指揮を執り始めてすぐの2004年、コーエンはマーケティングの統括者としてバド・フィニを新たに雇い入れ、ブランドやマーケティング部門を監督させた。当時役員だったプレジャーによると、フィニは消費者市場でシグ・ザウアーの新たなブランド価値を確立する術を知っていたと、その力量を認める。
「フィニはマーケティング戦略を大きく転換させた。より優れたスローガンとモットーを生み出すなど素晴らしい仕事ぶりだった」。同社のウェブサイトでは、MCXを「戦闘用に開発された革新的な武器システム」と表現している。一般人向けには2000ドル以下で販売されている。
フィニもコーエンも取材に応じなかった。だがフィニは2013年、ラジオ番組のインタビューで戦略の成功について「この5~7年間は自分たちでも驚くほど上手くいった」と語り、2011年と2013年にニューハンプシャー州にある製造工場の敷地を2倍に拡大したと言及。事業の成長を後押ししたのは主にライフルの売り上げ増によると語っていた。
銃業界誌シューティング・インダストリー・マガジンによれば、スイス発祥で創業150年のシグ・ザウアーはMCXの成功で、スターム・ルガー、スミス&ウェッソン、レミントン・アームズに続く業界第4位のライフル製造大手の座へと一気に上り詰めた。
銃器業界を批判する側は、この流れを警戒している。米非営利団体「バイオレンス・ポリシー・センター」は2011年、現代のアメリカにおける銃器業界は「自制心を捨て去り、利益を出すために戦闘用の銃器を製造する、高度に軍事化され益々利己的な産業になっている」と批判した。
一般市民による使用が禁じられている全自動の武器やマシンガンと異なり、シグ・ザウアー社のMCXは引き金を一回引くごとに銃弾を1発しか発射できない。MCXが自動兵器ではなく「半自動」兵器に分類され、アメリカ市民への販売が合法なのはそのためだ。この作動方式は潜在的な殺傷力を落とすよう意図されたものだ。しかし専門家は、半自動兵器は全自動式よりも命中度が増すため、当初の意図とは逆の効果があると指摘している。
This article was originally published at International Business Times.
エリック・マーコウィッツ
2016年6月12日にフロリダ州オーランドで起きた銃乱射事件で使用された攻撃用ライフルは、ニューハンプシャー州に本社を置く銃器メーカー、シグ・ザウエルによって製造されたものだ。
シグ・ザウエルは2004年、倒産の危機に瀕していた。質の高いピストルで有名な同社だったが、当時の売上は横ばいだった。「倒産寸前で、いまにも崩壊しそうな企業だった」と同社のロン・コーエンCEOは「マネージメント・トゥデイ」誌に2010年に掲載された記事のなかで回想している。
その後、コーエンCEOが下したある決断によってシグ・ザウエルは倒産を免れ、アメリカ第4位の銃器メーカーへと変貌を遂げた。コーエンは、一般市民向けの攻撃用ライフルを新たな主力製品に加えたのだ。
それから約10年。同社の攻撃用ライフル「シグ・ザウエルMCX」は今月、フロリダ州オーランドにあるLGBT(性的少数者)向けナイトクラブ「パルス」でオマー・マティーンによって使用され、49人を殺害し、53人を負傷させた。あの、米史上最悪の銃乱射事件に使われたのがこの銃なのだ。
【参考記事】銃乱射はテロか憎悪か、思い当たり過ぎるフロリダの闇
【参考記事】レイプ犯と銃乱射犯に共通する「本物の男」信仰
マティーンが攻撃用ライフルを使ったのは偶然ではない。アメリカのピストル所有者数は減少していたが、ビル・クリントン元大統領が1994年に法制化した「攻撃用武器規制法」が10年で有効期限切れになったことから、米銃器メーカーは一斉に一般市民向けの攻撃用ライフル販売を開始した。今ではそれがアメリカの銃器産業の収益の柱に成長している。
【参考記事】【動画】銃規制めぐり怒りのサボタージュ、米議会下院の法案否決で民主党議員座り込み
アメリカの自動車産業が利益率の高いSUVという売れ筋商品を発見したのと同じように、銃器産業も、人間を大量に殺害する以外ほとんど実用性がない製品への需要を開発し、利益を生み出すことに成功したのだ。
チャンスをつかむ
業界のこの転換は、シグ・ザウエルにプラスに作用した。かつてイスラエル軍で指揮官を務めていたコーエンは、この好機をとらえて、消費者向けのハイエンドな攻撃用ライフルを製造。それがシグ・ザウエルの業績を好転させた。
2004年当時、同社の従業員数は130人だった。「シグ・ザウエルはそのころ、攻撃用ライフルはほとんど販売していなかった」と語るのは、2002~2005年に同社で警察・軍向け販売担当のバイスプレジデントを務めていたジム・プレッジャーだ。「本当に魅力的なライフルのシリーズを製造し始めた」のは、コーエンがCEOになってからだという。「価格は若干高めだが人気があった」
今同社は、全米の製造工場に1,000人以上の従業員を抱え、1年で4万丁以上の銃器を販売するメーカーに成長した。
だが、この間成長したのはシグ・ザウエルだけではない。銃器大手のスミス&ウェッソンのマイク・ゴールデンCEOは2006年6月、投資家向けの説明会で、同社の新型ライフルに対する「消費者の反応は非常に強く」、銃器産業における「ドル箱」になっていると述べた。
2015年に登場したシグ・ザウエルMCXは、ひときわ大きな称賛をもって市場に迎えられた。MCXはミリタリースタイルの半自動式小銃で、デザインも洗練されている。つや消しブラックで仕上げられており、軽量だ。
MCXはYouTube上で広告動画が数多く再生されるなど、インターネット上で大々的に宣伝されている。銃を持った男が戦場のような場所を横切りながらMCXで様々なターゲットを射撃する設定の動画もある。
撃つ喜び
MCXはデザインや組み立ての容易さ、使い易さといった点で、銃マニアからも絶賛されている。マイク・シアソンはウェブサイト「アンモランド」で、シグ・サヴァーMCXライフルは「銃器メーカーが製造した歴代で最高に組み立てやすいライフル銃」と評価した。ウェブサイト「銃に関する真実」のブロガー、ニック・レゴムはMCXについて「とにかくしっくりくる」と書いだ。「銃を持ったときのバランスが良く狙いを定めやすい。作動部品は反応が早く丈夫で、撃つと本当に気持ちがいい」
シグ・ザウアーで指揮を執り始めてすぐの2004年、コーエンはマーケティングの統括者としてバド・フィニを新たに雇い入れ、ブランドやマーケティング部門を監督させた。当時役員だったプレジャーによると、フィニは消費者市場でシグ・ザウアーの新たなブランド価値を確立する術を知っていたと、その力量を認める。
「フィニはマーケティング戦略を大きく転換させた。より優れたスローガンとモットーを生み出すなど素晴らしい仕事ぶりだった」。同社のウェブサイトでは、MCXを「戦闘用に開発された革新的な武器システム」と表現している。一般人向けには2000ドル以下で販売されている。
フィニもコーエンも取材に応じなかった。だがフィニは2013年、ラジオ番組のインタビューで戦略の成功について「この5~7年間は自分たちでも驚くほど上手くいった」と語り、2011年と2013年にニューハンプシャー州にある製造工場の敷地を2倍に拡大したと言及。事業の成長を後押ししたのは主にライフルの売り上げ増によると語っていた。
銃業界誌シューティング・インダストリー・マガジンによれば、スイス発祥で創業150年のシグ・ザウアーはMCXの成功で、スターム・ルガー、スミス&ウェッソン、レミントン・アームズに続く業界第4位のライフル製造大手の座へと一気に上り詰めた。
銃器業界を批判する側は、この流れを警戒している。米非営利団体「バイオレンス・ポリシー・センター」は2011年、現代のアメリカにおける銃器業界は「自制心を捨て去り、利益を出すために戦闘用の銃器を製造する、高度に軍事化され益々利己的な産業になっている」と批判した。
一般市民による使用が禁じられている全自動の武器やマシンガンと異なり、シグ・ザウアー社のMCXは引き金を一回引くごとに銃弾を1発しか発射できない。MCXが自動兵器ではなく「半自動」兵器に分類され、アメリカ市民への販売が合法なのはそのためだ。この作動方式は潜在的な殺傷力を落とすよう意図されたものだ。しかし専門家は、半自動兵器は全自動式よりも命中度が増すため、当初の意図とは逆の効果があると指摘している。
This article was originally published at International Business Times.
エリック・マーコウィッツ