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ISISはなぜトルコを狙うのか

ニューズウィーク日本版 2016年6月30日 17時0分

<トルコでまたもISISによるとみられるテロが起きた。パリやベルギーも狙われたが、トルコは今年だけでも大きなテロが3回目。ここには、西欧とISISの間に横たわる国家の苦悩が凝縮している>

 トルコでまたもや大規模なテロ攻撃が発生した。しかも今回のターゲットは世界に向けての玄関口である国際空港。毎日16万人超の旅行者が利用するイスタンブールのアタチュルク国際空港で28日夜、自動小銃で武装した男たちが自爆テロを決行。これまでに41人の死者と240人近い負傷者が確認されている。

 今年3月にベルギーの首都ブリュッセルの空港などで起きた連続テロと手口が似ていることから、トルコ当局はテロ組織ISIS(自称イスラム国、別ISIL)による攻撃とみている。これでトルコではISISによるとみられるテロで200人余りの死者が出たことになる。負傷者や心理的ショックを受けた人たちはその何倍にも上る。

【参考記事】テロ続発が脅かすトルコ経済

 トルコ最大の都市で金融の中心地でもあるイスタンブール。今年に入ってからISIS関連の大規模なテロはこれで3度目だ。実行犯の身元はまだ明らかにされていないが、ISISはシリアでの戦闘にトルコ国籍の若者を多数投入する一方で、トルコ国内に外国人工作員や戦闘員を送り込んでいる。

欧州の比ではないテロの規模

 ISISはヨーロッパでも大規模なテロ攻撃を行ってきたが、トルコに対する攻撃はその比ではない。ここ1年余りで大規模な自爆テロを6回決行、今春にはシリア領内から1カ月にわたってトルコ南部の国境の町にロケット弾攻撃を行った。

 なぜトルコが狙われるのか。理由はいくつかある。トルコはシリア、イラクと1250キロ余りにも及ぶ国境を接しており、その一部は今もISISの支配下にある。ISISはこうした国境の抜け道を利用して戦闘員を確保し、武器その他の物資や石油の密輸を行ってきた。

 またトルコ政府はシリア内戦開始以降、難民だけでなく、シリアのアサド政権と敵対する反政府派に対しても門戸開放政策をとってきた。それに乗じてISISはじめイスラム過激派やテロ組織がトルコ国内でネットワークを構築している。

【参考記事】欧州への難民は減った。しかし難民危機は去ったのか? その現状と課題

 しかもトルコは地理的にヨーロッパと中東、さらにはロシアのカフカス地方を結ぶ点に位置し、これら3つの地域からシリアとイラクでの戦闘に加わろうと「聖戦士」志願者が続々と流入する。

 そのためISISにとって、今のトルコはNATOの加盟国の中で最もアクセスしやすく、衝撃的なテロを実行しやすい国になっている。ヨーロッパの主要国やアメリカに工作員を送り込むには国境警備や空港のセキュリティーチェックをすり抜ける必要があるが、トルコで欧米人観光客や欧米の政府要人を狙えば、はるかに容易に欧米でのテロと同様の効果を上げられる。



 トルコ政府は取締りを強化しているが、ISISのメンバーや密航業者の一部は捜査の目を逃れ、さらに深く地下に潜伏しているはずだ。トルコでは80年代から武装組織クルド労働者党(PKK)など多くの国内外の過激派がテロを繰り返してきた。過激な思想に引き寄せられる層も広がり、ISISにとってはいつでも利用できる新兵や協力者の人材プールがあり、国内のネットワークを手軽に活用できる好都合な国になっている。

 シリアとイラクで支配地域を失いつつあるISISは、テロ攻撃を繰り返すことで世界中のシンパとテロを恐れる人々の両方に存在感をアピールできる。この1年余りトルコで起きたISISとPKK関連の多くのテロに加え、アタチュルク空港でのテロは、トルコの治安・情報当局の連携体制の甘さを炙り出した。

 トルコの空港のセキュリティーチェックはヨーロッパの国々と比べれば厳重だが、ISISにとってのトルコの戦略的な位置づけを考えれば、現状の警備は十分とは言い難い。ISISが追い詰められれば、テロ攻撃はさらに激化する公算が大きい。トルコは今すぐ西側の同盟国とパートナーにテロ対策で支援を要請すべきだ。

ドルク・エルグン(イスタンブールの経済・外交政策研究センターの安全保障アナリスト)

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