<ロシアがクリミアを併合した2014年以降、NATOの対ロシア戦略は協調から対決へ180度転換した。今週末にワルシャワで開かれるNATOサミットではさらに対決色が強まるだろう。ロシアを止めるにはどうしたらいいのか、デンマーク首相を務めたこともある元NATO事務総長、ラスムセンが提言>
今週の金曜と土曜は、ポーランドのワルシャワでNATO(北大西洋条約機構)諸国の首脳会談が行われる。課題は、「東方」に対する能力と存在感をいかに高めるか。ロシアに対する西側の新しい対抗策の一環だ。
NATOワルシャワ首脳会議が成功すれば、軍事費削減と政治的不確実性に揺れるNATO諸国も安定し、士気も上がるだろう。
ロシアに対する新しい対抗策は、ロシアがクリミアを併合し、ウクライナ東部に軍事介入した2014年にウェールズで開いたNATOサミットで浮上した。2014年以前の対ロシア戦略は対話と協調が第一だったが、この年を境に前線での断固たる姿勢と抑止に変わった。
【参考記事】東欧でのNATO軍事演習にプーチンは?
ロシア政府の意図を甘く見てはならない。ロシアと国境を接する親欧派の国々に対する恫喝や妨害の背後には、抜きがたい思想の衝突がある。西側が法による支配、官僚の説明責任、民主選挙などを重んずる一方、ロシアには権力者が野心を満たすためなら市民の犠牲も辞さない制限なき国家権力がある。
【参考記事】ドイツが軍縮から軍拡へと舵を切った
だが衝突は東西の国境だけで起きているのではない。ロシア政府は明らかに、戦後我々が享受してきた自由主義的な世界秩序と西側の結束を乱そうとしている。天然ガスを使って西欧の分断を画策したり、国営テレビ局を通じて欧州とアメリカの間の自由貿易協定の悪口を広めたり。西側の分裂を誘い発展を妨げるのが目的だ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、イギリスのEU離脱決定を熱烈に歓迎した世界でほぼ唯一の指導者だろう。
対話から対決へ
我々が現在のライフスタイルを守るためには、ロシアに対する経済制裁のコストやロシアと和解して得られる潜在的な利益よりも、NATOによる抑止、結束、共同防衛が重要だということを、ヨーロッパの同盟国は知らなければならない。プーチンの国内向けプロパガンダに乗せられて緊張を高めることがあってはならないが、悪いことをしたら見ないふりをしてはならない。NATOはロシアと協力できるときは協力するが、対決しなければならないときは対決する。
【参考記事】スウェーデン核攻撃を想定、ロシアが軍事演習
NATO首脳国は、ロシアが昨年2月のウクライナ停戦合意を完全に履行するまでは経済制裁を続けることを再確認しなければならない。抜け駆けは許されない。イギリスのEU離脱は西側にとって衝撃だったが、その悪影響を最小限に抑えるためにも、イギリスは対GDP比2%の軍事支出を維持するとともに、ロシアに対する経済制裁を続けるべきだ。
NATO戦力のより大きい部分を、東欧の同盟国にシフトする必要もある。バルト3国、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアなどに陸海空軍を配備する。ロシアが威圧的な態度をとり続ける限り、駐留は終わらない。集団的なミサイル防衛システムを開発し、サイバー戦闘力を強化する必要もある。受け身の防衛から積極的な防衛、必要とあらば攻撃に出られるようにしなければならない。
将来は対等の防衛力を
ヨーロッパの同盟国はGDPの2%を軍事支出に回す約束を、2024年頃まで守る必要がある。そうすればアメリカの次期政権の心証もよくなるだろうし、次期大統領の任期が切れる頃までには米欧間の防衛力の差も縮小するだろう。
もちろんアメリカも応分の負担を続ける必要がある。NATOは世界で最も繁栄した国々の平和を守り、同盟国間のネットワークを維持し、世界中でアメリカを政治的軍事的に支援している。軍事支出に十分値する恩恵をもたらしているのだ。
NATOサミットは、友好国や近隣諸国に乱暴者が手を出せば西側は座視しない、というメッセージを発するよい機会だ。だが決断力や団結力に欠けるところを見せればロシアは調子に乗って、自らの「勢力圏を守る」を口実に近隣諸国に手を出すだろう。
ロシアの態度に変化が表れるまでには時間がかかる。だがNATOサミットが成功すれば、我々は「統一されて自由なヨーロッパ」にまた一歩、近づくことになる。
*筆者は現在、ラスムセン・グローバル会長
アナス・フォー・ラスムセン(元NATO事務総長、元デンマーク首相)
今週の金曜と土曜は、ポーランドのワルシャワでNATO(北大西洋条約機構)諸国の首脳会談が行われる。課題は、「東方」に対する能力と存在感をいかに高めるか。ロシアに対する西側の新しい対抗策の一環だ。
NATOワルシャワ首脳会議が成功すれば、軍事費削減と政治的不確実性に揺れるNATO諸国も安定し、士気も上がるだろう。
ロシアに対する新しい対抗策は、ロシアがクリミアを併合し、ウクライナ東部に軍事介入した2014年にウェールズで開いたNATOサミットで浮上した。2014年以前の対ロシア戦略は対話と協調が第一だったが、この年を境に前線での断固たる姿勢と抑止に変わった。
【参考記事】東欧でのNATO軍事演習にプーチンは?
ロシア政府の意図を甘く見てはならない。ロシアと国境を接する親欧派の国々に対する恫喝や妨害の背後には、抜きがたい思想の衝突がある。西側が法による支配、官僚の説明責任、民主選挙などを重んずる一方、ロシアには権力者が野心を満たすためなら市民の犠牲も辞さない制限なき国家権力がある。
【参考記事】ドイツが軍縮から軍拡へと舵を切った
だが衝突は東西の国境だけで起きているのではない。ロシア政府は明らかに、戦後我々が享受してきた自由主義的な世界秩序と西側の結束を乱そうとしている。天然ガスを使って西欧の分断を画策したり、国営テレビ局を通じて欧州とアメリカの間の自由貿易協定の悪口を広めたり。西側の分裂を誘い発展を妨げるのが目的だ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、イギリスのEU離脱決定を熱烈に歓迎した世界でほぼ唯一の指導者だろう。
対話から対決へ
我々が現在のライフスタイルを守るためには、ロシアに対する経済制裁のコストやロシアと和解して得られる潜在的な利益よりも、NATOによる抑止、結束、共同防衛が重要だということを、ヨーロッパの同盟国は知らなければならない。プーチンの国内向けプロパガンダに乗せられて緊張を高めることがあってはならないが、悪いことをしたら見ないふりをしてはならない。NATOはロシアと協力できるときは協力するが、対決しなければならないときは対決する。
【参考記事】スウェーデン核攻撃を想定、ロシアが軍事演習
NATO首脳国は、ロシアが昨年2月のウクライナ停戦合意を完全に履行するまでは経済制裁を続けることを再確認しなければならない。抜け駆けは許されない。イギリスのEU離脱は西側にとって衝撃だったが、その悪影響を最小限に抑えるためにも、イギリスは対GDP比2%の軍事支出を維持するとともに、ロシアに対する経済制裁を続けるべきだ。
NATO戦力のより大きい部分を、東欧の同盟国にシフトする必要もある。バルト3国、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアなどに陸海空軍を配備する。ロシアが威圧的な態度をとり続ける限り、駐留は終わらない。集団的なミサイル防衛システムを開発し、サイバー戦闘力を強化する必要もある。受け身の防衛から積極的な防衛、必要とあらば攻撃に出られるようにしなければならない。
将来は対等の防衛力を
ヨーロッパの同盟国はGDPの2%を軍事支出に回す約束を、2024年頃まで守る必要がある。そうすればアメリカの次期政権の心証もよくなるだろうし、次期大統領の任期が切れる頃までには米欧間の防衛力の差も縮小するだろう。
もちろんアメリカも応分の負担を続ける必要がある。NATOは世界で最も繁栄した国々の平和を守り、同盟国間のネットワークを維持し、世界中でアメリカを政治的軍事的に支援している。軍事支出に十分値する恩恵をもたらしているのだ。
NATOサミットは、友好国や近隣諸国に乱暴者が手を出せば西側は座視しない、というメッセージを発するよい機会だ。だが決断力や団結力に欠けるところを見せればロシアは調子に乗って、自らの「勢力圏を守る」を口実に近隣諸国に手を出すだろう。
ロシアの態度に変化が表れるまでには時間がかかる。だがNATOサミットが成功すれば、我々は「統一されて自由なヨーロッパ」にまた一歩、近づくことになる。
*筆者は現在、ラスムセン・グローバル会長
アナス・フォー・ラスムセン(元NATO事務総長、元デンマーク首相)