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本当にもう大丈夫? 改正されても謎が残る「風俗営業法」

ニューズウィーク日本版 2016年7月5日 16時19分

<相次いだクラブ摘発からダンス業界による署名活動が行われ、ついに先月、改正風営法が施行された。これでオールナイトのクラブ営業もOK。しかし、「遊興」「接待」というあいまいな言葉が残っており、たとえばスポーツバーが罪に問われる可能性もゼロではない>

客にダンスを踊らせる商売が、犯罪に問われた

 2012年4月、大阪・梅田の「NOON」というクラブが、風俗営業法(風営法)違反の容疑で摘発された。代表ら8人が逮捕・勾留されたのである。なぜ捕まったのか。客にダンスをさせていたからだ。

 男女が混在する場所で一緒に踊る行為は「善良の風俗と正常な風俗環境の保持」(風俗営業法1条)に反するいかがわしいものであり、社交ダンスホールやクラブなど、客に踊らせる場を提供する商売は「風俗営業」とされていたのだ。これは戦前や昭和の話ではない。

【参考記事】震災1週間で営業再開、東北の風俗嬢たちの物語

「NOON」の経営者は「客にダンスをさせるナイトクラブ営業」として、当局から風俗営業の許可を取ることはできた。しかし、風俗営業としてしまうと、深夜の営業が許されなくなる。オールナイト営業をしたかった「NOON」は、風俗営業としての許可をとらず、一般的な飲食店が音楽を流し、その音楽に合わせて「客が勝手に踊っているだけ」というスタンスを取ることにした。その点は、他のオールナイト営業クラブも同様だった。

 その後、「NOON」の経営者については、風営法違反の罪で起訴されたが、最終的には今年6月初旬、最高裁で無罪が確定している。店が客に「善良の風俗」を乱すようなダンスをさせていたことを検察が立証できなかったからだ。警察が入った当時、店にいた20人ほどの客は、音楽に合わせて普通に踊っていたという。

 本来であれば、もう一歩踏み込み、司法の責任で憲法判断を行ってもよかった。「客にダンスをさせるナイトクラブ営業」を規制する風営法の一部の条文は、国民の経済活動の自由や、国民が音楽に合わせて踊って楽しむ幸福追求権を不当に侵害するものであり、憲法違反で無効だ......と言いわたすことも可能だったはずだ。

 ここ数年、風営法違反でのクラブの摘発が相次いだため、風営法の改正に向けて、ダンス業界が動き出すことになった。改正に賛同する約15万筆の署名を集めたものが、請願の形で国会へ届けられ、2013年には、党派を超えた政治家が集結して「ダンス文化推進議員連盟」が発足した。

 そうして、2015年に改正風俗営業法が可決・成立し、今年6月23日、ついに施行された。「客にダンスをさせるナイトクラブ営業」が、めでたく「風俗営業」から外れたのだ。店内の明るさが10ルクス以上(上映前後の映画館ぐらいの明るさ以上)など「特定遊興飲食店営業」としての条件を満たせば、クラブは合法でオールナイト営業も可能になった。



風営法のあいまいキーワード1「遊興」

 とはいえ、これで「めでたし、めでたし」とはいかず、新たな問題が浮上している。今回の改正で新たに設けられた「特定遊興飲食店営業」の「遊興」の定義があいまいだと言われているからだ。そのあいまいさは、「ダンス」の定義のあいまいさを確実に上回る。

 警察庁は、店側の積極的な働きかけで「客が遊び興じる」ことを、営利的・継続的に実施する飲食店営業を指すものとしている。バンドの生演奏やダンスショー、演芸などを客に披露する「鑑賞型の遊興」と、ダンスやカラオケ、ゲーム、スポーツ応援などができる場を客に提供する「参加型の遊興」の2カテゴリーに分類している。

 では、スポーツバーはどうなるのか。警察庁は、パブリックコメントにおいて「スポーツ等の映像を不特定の客に見せる深夜酒類提供飲食店営業のバー等において、平素は客に遊興をさせていないものの、特に人々の関心の高い試合等が行われるときに、反復継続の意思を持たずに短時間に限って深夜に客に遊興をさせたような場合」「1晩だけに限って行われる単発の催し」「繰り返し開催される催しであっても、6カ月以上に1回の割合で、1回につき1晩のみ開催される催し」は、「遊興」にあたらずOKだという基準を発表している。

 たとえば、サッカー・ワールドカップや野球のワールド・ベースボール・クラシックなどの日本代表戦が行われる日だけ、店側が観戦イベントとして演出し、試合を上映して応援させることはOKだが、オリンピックや世界選手権の試合などを日々継続的に上映して応援させることはNGなのか。NGだとしたら、いったいどこに問題があるのか。

 音楽ライブハウスや野外フェスなどで、飲食を提供する深夜営業を行う場合は、「特定遊興飲食店営業」の許可を取らなければならない。たとえ近隣に住宅地などがなく、騒音問題が発生しないとしても、「善良の風俗と正常な風俗環境の保持」を保てないからだ。

風営法のあいまいキーワード2「接待」

「風俗営業」の定義で、「遊興」の意味も不明確だが、もともと、「接待」の意味もボンヤリしていると、かねてより指摘されてきた。2条3項で「この法律において『接待』とは、歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすことをいう」と定義されているが、いったい「歓楽的雰囲気を醸し出す方法」とは何なのか。

 客の横に座って、お酌をしたり、身体を密着させるキャバクラやホストクラブのような業態が「接待」付きの「風俗営業」であるのは理解できる。では、スナックやガールズバーはどうなのだろう。



 一般には、特定の客と会話し続けたり、特定の客にカラオケを歌うよう勧誘し、曲に合わせて手拍子を叩いたり、客の歌声を褒めたり、客の口元に食べ物を持ってきて「あ~ん」で食べさせたり、王様ゲームやジェンガなどの遊戯に客と一緒に興じたりすることなども「接待」にあたるとされている。もしかすると、同じスナックやガールズバーと呼ばれる業態でも、風俗営業として届けなければマズい店とそうでない店があるのかもしれない(※個人的には詳しく知りませんが)。

 いずれにせよ、風俗営業法のような刑罰付きの条文が、あいまいであってはならない。警察から見て「なんとなく歓楽的」「色っぽい感じだから」など、薄味の理由で摘発されてはたまらない。

 何が違法で何が合法なのか、その境界がハッキリと線引きされていて初めて、店は積極的に顧客の喜ぶことを追求し、自由に創意工夫を重ねながら営業していけるのではないだろうか。

 風俗営業に限った話ではないが、人々に楽しみを提供し、テンションを上げてくれるビジネスが、もっともっと増えていかなければ、日本経済は回っていかないだろう。

[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」


長嶺超輝(ライター)

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