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投票率が低い若者の意見は、日本の政治に反映されない

ニューズウィーク日本版 2016年7月5日 16時0分

<国政選挙の年代別投票率を各国で比較してみると、日本は主要国の中で若年層の投票率が最も低い。これでは若者の意向は政治には反映されない>

 今月10日に参院選が実施される。選挙権を得られる年齢が18歳まで引き下げられてから初めての国政選挙で、ハイティーンの投票率がどれほどになるか注目される。

 間接民主制の社会では、国民は選挙で代表者を選ぶことで政治に参加する。しかし日本では投票は義務付けられておらず、投票するかしないかは任意だ。投票率は年々低下していて、参院選で見ると1980年(第12回)には74.5%だったが、2013年(第23回)には52.6%まで下がっている。年齢による差も大きく、2013年の参院選の投票率は20代が33.4%だったのに対して60代は67.6%と、倍以上の開きがある。

【参考記事】国民投票か、間接民主制か? 理想の選挙制度を探して

 投票率は国による違いも大きい。「国政選挙ではいつも投票する」と答えた人の割合を年齢別に見たグラフを、世界の主要国について描くと<図1>のようになる(イギリスとフランスのデータはなし)。



 20~50代では、日本が最も低い。国民の政治不信や政治への無関心が強いことの表れだろう。折れ線の型は多くの国が右上がりで、投票率は年齢が上がるほど高い。日本もその典型だが、人口の少子高齢化が進んでいることも相まって、投票者の年齢構成は完全な「逆ピラミッド型」になってしまっている。若者の意向が政治に反映されにくいのが現状だ。

 ブラジルはフラットな「高原型」だが、それは投票が原則義務付けられているためだ。正当な理由なく棄権した場合には罰金・罰則が課される。中南米では、このような強硬策を取っている国が多い。



 そして投票率は、経済力とも関連している。これは日本のデータだが、働き盛りの30~40代を見ると、世帯の年収が高い人ほど投票の頻度が高くなる傾向にある<図2>。



 政治への関心に階層格差が反映されていることがわかる。この傾向があまり強くなると「支配階層のための政治」になり、既存の体制が維持されやすくなる。

 貧困に象徴されるように、厳しい生活環境に置かれている人ほど社会問題に対して強い関心を持っているはずだ。それは政治への関心に昇華されて初めて、社会変革へと結びつく。社会変革の合法的な手法は政治参画(投票)であって、暴動やテロであってはならない。

【参考記事】未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会

 ちなみに政治への関心の階層格差は、子どもの世代にも見られる。「政治や選挙に関心がある」という小学生の割合は、富裕層ほど高い傾向にある(国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する実態調査』2014年)。

<図2>は30~40代のデータだが、親世代の政治への関心の階層差は子ども世代にも影響すると言えるだろう。家庭で政治に関する会話をする頻度も、かなり異なるのではないだろうか。学校の政治教育の目標は、生徒たちの政治への関心を高めることだが、その階層格差を縮めることにも気を配る必要がある。

 日本は全体の投票率が低いことに加えて、投票所に足を運ぶ人の属性も偏っている。高齢層や富裕層への偏りだ。これでは社会の変革はなかなか望めない。参院選の投票日には、新たに有権者となったハイティーンだけでなく、老若男女、多様な国民が投票所へ向かうことを期待したい。

<資料:『第6回・世界価値観調査』(2010~14年)
    国立青少年教育振興機構『子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究』(2013年)>

舞田敏彦(教育社会学者)

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