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『アリス』続編、ギャグは滑るが魅力は健在

ニューズウィーク日本版 2016年7月5日 16時15分

<『アリス・イン・ワンダーランド』の続編『時間の旅』では、大人になったアリスが再びいかれた仲間たちと冒険に乗り出す>(画像:赤の女王のボナム・カーターは前作以上に堂に入った演技を見せるが主役のワシコウスカも負けてはいない)

 前作『アリス・イン・ワンダーランド』では、不思議の国に入り込んだ19歳のアリス(ミア・ワシコウスカ)が怪物ジャバウォッキーを殺して赤の女王の専制支配を終わらせた。それから3年、父の形見のワンダー号で世界の海を航海したアリスは今やすっかり大人の女性だ。

 だがロンドンに戻ってみると、仕事の協力者だったアスコット卿は亡くなり、バカ息子のへイミッシュが後を継いでいる。3年前にアリスにプロポーズして断られたことを今も根に持つヘイミッシュは、ワンダー号を売ってくれなければ、アリスの母親の家を取り上げると脅す。

 動揺してその場を後にするアリス。そこに芋虫からチョウへと姿を変えた旧友アブソレムが現れ、マッドハッター(ジョニー・デップ)が死にかけていると知らせる。アリスは鏡を通り抜けて再び不思議の国へ......。

 懐かしい仲間たちと再会したアリスは、ハッターを救うため時間をさかのぼってジャバウォッキーに殺されたハッターの家族を生き返らせる決心をする。

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 前作を手掛けたティム・バートン監督はルイス・キャロルの原作からダークな要素を引き出して、いかにもバートンらしい怪奇な幻想世界をつくり出した。続編の本作『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』を監督したジェームズ・ボビンの得意分野は軽めのコメディー。だが残念ながら、この映画ではボビンのギャグは滑りがちで、いかにも台本どおりといったぎこちなさが付きまとう。

 今回初めて登場するサシャ・バロン・コーエンは笑いを取ろうと奮闘するが、いかんせん役柄がいまひとつ迫力に欠ける。コーエン演じる時間の番人タイムは恐ろしい敵というより、ただのウザイ邪魔者にすぎない。




家族愛と友情への賛歌

 脚本のリンダ・ウルバートンが、タイムにあまり時間を割かなかったのは不幸中の幸いだ。おかげで前作の人気キャラクターたちがたっぷり活躍できる。

 ヘレナ・ボナム・カーター演じる赤の女王は舌足らずなしゃべり方、膨れっ面、子供じみたかんしゃくと、何もかも完璧。前作からさらに磨きがかかった存在感を見せる。

 悪役が光るには主役にもそれを受けて立つ力量が要るが、その点、ワシコウスカは十分に存在感がある。友達思いでプラス思考のアリスは赤の女王とは正反対だが、感情の激しさではいい勝負。前作から一段と成長を遂げたようだ。デップと白の女王役のアン・ハサウェイはあまり見せ場を与えられていないが、ちらっとでも魅力を見せてくれるのはうれしい。

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 キャロルの原作『鏡の国のアリス』を読んだ人はお気付きだろうが、この小説は複雑過ぎて映画化には不向き。脚本のウルバートンは『不思議の国のアリス』の要素を盛り込んで独自の物語を練り上げた。

 どんな困難に直面しても決して諦めず友達と家族を守り抜く――作品を貫くメッセージは言葉にすれば月並みだが一癖も二癖もあるキャラクターたち、それに主演級キャストの達者な演技のおかげで心にずしんと響く。

 結婚して子供を産むのが女性の務めとされた時代に社会通念に果敢に挑んだアリス。難点は多々ある続編だが、ボビン監督がアリスのようにやりたいことをやった点は評価していい。


≪映画情報≫
ALICE THROUGH THE LOOKING GLASS
『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』

監督╱ジェームズ・ボビン
主演╱ミア・ワシコウスカ
   ジョニー・デップ
日本公開は7月1日(公開中)



[2016.7. 5号掲載]
エイミー・ウエスト

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