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参院選の争点がハッキリしないのはなぜか - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2016年7月7日 18時50分

<10日の投票日を前にして参院選は低調な議論が続いている。経済に関しては与野党間で具体的な政策が議論されていないし、「改憲」に関しては与野党案が両極端にふれて中道派が支持できる落とし所が提示されていない>

 参院選の投票日が目前に迫っているにも関わらず、選挙の争点に関する肝心の議論は盛り上がりに欠けるようです。

 どの選挙の際にもあることですが、日本の場合は特に「選挙が公示されると言論の自由が制限される」という奇妙な現象があります。つまり「社会全体が正しい選択をするために議論を尽くす」目的より、「泡沫候補・弱小政党まで含めた選挙戦の公平を徹底する」形式主義が優先されているわけです。

 これは制度上の問題なので、今回に限って起きているわけではありません。ですが、例えばメディアにしても投票日前に「参院選における選択についての真剣な議論」を取り上げるよりは、「まだ告示前なので何を言っても良い都知事選」の話題の方が取り上げやすいという判断をしてしまう、ということはあるでしょう。

 それにしても参院選の論戦は低調です。2013年の「下野した海江田民主党の負けっぷりが注目を集めた」参院選、さらに3年前の2010年の「迷走した鳩山内閣が退陣し、菅直人政権が負けて『ねじれ国会』になった」参院選と比較すると、余計にそう感じます。

 その過去2回の参院選の場合は「政権交代」前後という時期的な問題があり、自民党と民主党の「対決のエネルギー」が今回より高かったのは事実です。また有権者も「政権の選択」という重要な判断を迫られていたので、その時期と比較すると今回は「燃えない」のも分からないではありません。

【参考記事】投票率が低い若者の意見は、日本の政治に反映されない

 そうであってもこの低調さは大変に気になります。さらに今回は、争点に関する議論が「やりにくい」事情もあると思います。

 原因の1つは経済政策です。結果的に消費税率アップの再延期に追い込まれたことを考えれば、日本経済の状況は良くありません。ではこれまでの経済政策に責任があり、それを変更すれば良い結果が得られるのかというと、そう簡単ではありません。

 まず日本円を安く誘導する通貨政策ですが、これを反転させても景気が良くなることはありません。せいぜい輸入品の価格が下がるとか、輸入関連の業界が多少潤うだけで、基本的に大きく改善されることはありません。

 問題は、公共投資を「効果のあるものに限ってオンタイムで実施する」ことができているか、そして「国内の生産性を向上するための構造改革」ができているか、という点なのですが、それについては与党も野党も具体的な議論ができていません。



 さらに、与党が「増税先送り」をした一方で、野党側から「財政規律への懸念」が示されているという「対立軸のねじれ」が起きているという問題もあります。今回の増税再延期は、「英国のEU離脱問題」による円高株安で「自然に受け入れられた」形になりましたが、それでも議論として曖昧にすべきではないと思います。

 結果として、経済政策に関する具体的な論戦は成立しておらず、与党に対して「現状の結果責任」が問われれば厳しい評価にはなるが、野党の側でも「民主党が政権を担っていた際の低いパフォーマンス」の記憶が払拭できていないために、お互い「どっちもどっち」という状態――つまり政策議論は表面的で、そのくせ妙に拮抗した状態になっています。

【参考記事】都知事選に都政の選択肢はないのか?

 2つ目は憲法の問題です。与党は改憲が争点であることを隠してはいません。ですが、与党として具体的な改憲案を提示してはいないのです。

 いわゆる「自民党案」というものは存在しますが、この案をそのまま提示しても過半数の支持は得られないという判断があり、順を追って改正をしていくので、そのために「まずは一度改正しやすい点を改正して実績を作る」ことが目標のようです。

 では自民党案は棚上げするのかというと、そうではありません。ですから自民党案に反対する野党側としては「改憲そのものに反対」という態度を取るしかなくなります。そうなると、中間的な立場から実務的な改正を期待するグループは、どちらの側につけば良いのか分からないということになります。

 改正を是とするグループが政治的に「自民党案」の実現を企図しているのなら、中間派としては支持できないでしょう。ですが、改正に反対するグループが古典的な「護憲イデオロギー」に固執しているのであれば、こちらも積極的には支持できないと思います。

 このような状態で与党が積極的に争点にしないため、改憲議論は「モヤモヤ」した段階にとどまっているように見えます。

 残された時間はほとんどありませんが、有権者としては、あらためて与党側(プラス俗に言う改憲勢力)の「改憲への姿勢」と、野党側の「改憲反対」の中身を検証していくこと。そして与野党の「公共投資」「構造改革」「財政規律」についての立場を検証することが必要でしょう。そのためにも、「参院選の投票日直前なのに都知事選の話ばかり」というメディアには、猛省を促したいところです。

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