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【写真特集】アメリカ国境に広がる過酷で非情な世界

ニューズウィーク日本版 2016年7月8日 17時30分

 アメリカとメキシコとの国境に壁を造れ。費用はメキシコに負担させろ――。米大統領選の共和党候補者指名レースで首位を走るドナルド・トランプの暴言で、国境と不法移民の問題が今また注目を集めている。

 カリフォルニア生まれの写真家リチャード・ミズラックは04年から、3141キロに及ぶメキシコ国境地帯を撮影し続けてきた。時に大判カメラ、時にiPhoneを使い、国境フェンスのある風景や不法移民の持ち物の残骸、周辺の過酷な環境などを写し出し、写真集『ボーダー・カントス』にまとめた。

【参考記事】<写真特集>ドローン大国イスラエルの非情な開発現場

 ミズラックはこの写真集でメキシコ出身の作曲家ギレルモ・ガリンドとの一風変わったコラボレーションも試みている。国境付近で手に入れた衣服やボトル、タイヤなど、移民や国境警備隊が残したがらくたで、ガリンドが楽器を制作。そこから生み出される独特の音色によって、視覚と聴覚の両面で国境を表現しようという狙いだ。

 写真と音楽から見え、聞こえてくるのは、移民と国境管理という重大な国際問題だ。荒涼とした国境地帯を写し出した試みは、トランプのわめき声以上に現実を雄弁に語る。


かかし(2009年)
カリフォルニア州ジャカンバ近くにはボロボロの服をまとった多数の整地用タイヤ(2013〜15年) 人形が。脅しか、抵抗のシンボルか


国境警備隊の射撃訓練の標的(2013年)
メキシコ湾に近いテキサス州のボカチカの青空の下に並ぶ人型の的。訓練の薬莢が散乱する


整地用タイヤ(2013〜15年)
国境の至る所に残る国境警備隊のタイヤ。引きずって地面をならし、新たな侵入の痕跡を発見しやすくする

水(2014年)
危険な砂漠を越える不法移民のため、人道支援団体が各地に水を置く(カリフォルニア州キャレキシコ)


くたばれアメリカ(2013年)
柵の合間からは、アメリカ側とメキシコ側でまったく違う世界が見て取れる(アリゾナ州ノガレス)


薬莢のピニャータ(2014年)
ギレルモ・ガリンドは中南米伝統のくす玉「ピニャータ」の形をしたマラカスを、金属製のボールと薬莢で表現


サパテロ(2014年)
ガリンド作のハンマー式ドラムには移民の靴や手袋、国境警備隊のタイヤや標的が使われている


撮影:リチャード・ミズラック
1949年、米ロサンゼルス生まれ。同世代の中で最も影響力の大きい写真家の1人。人間の侵入によって破壊され変容したアメリカ南西部の砂漠を記録した『デザート・カントス』など多数の著作がある。本作は最新写真集『ボーダー・カントス』(米アパチャー社刊)からの抜粋

Photographs from "Border Cantos" (Aperture) by ©Richard Misrach. Courtesy Fraenkel Gallery, Pace/MacGill Gallery, and Marc Selwyn Fine Art; Instruments by ©Guillermo Galindo and Richard Misrach

<本誌2016年5月17日号掲載>

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Photographs by Richard Misrach

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