<テリーザ・メイは移民には厳しかったが、マーガレット・サッチャーよりは労働者や社会の絆に優しそうだ>
これで万事休すだ。デービッド・キャメロン英首相からボリス・ジョンソン前ロンドン市長、英独立党の前党首ナイジェル・ファラージまで、ブレグジットの登場人物はほとんどが背後から刺されて退場した。
そんな中、たった一人生き残った女性がいる――内相のテリーザ・メイだ。辞任するキャメロン英首相の後任として、マーガレット・サッチャーに続きイギリス史上2人目の女性首相になることが決まった。与党・保守党の党首選を争うはずだったアンドレア・レッドサムが撤退を発表し、キャメロンは11日、メイが新首相に就任すると発表した。
【参考記事】英国・メイ内相、首相就任へ:「もう辞めないで!」
メイは一体どのような人物なのか。首相としての力量はいかほどか。以下は、メイについて知っておくべき5つのポイントだ。
■サッチャーと異なり、社会は存在すると考えている
就任決定を受けて11日に英議会前で演説したメイは、首相就任後のビジョンを打ち出した。だがその内容は、同じ女性として何かと比較されてきたサッチャー元首相とは一線を画していた。
社会は存在するという立場や労働者が主役になれる資本主義改革を重視する姿勢はサッチャーとは対照的だ。労働者の代表を取締役会の出席者に加えるという公約を掲げたメイは、次のように述べた。「企業が買収されたり閉鎖される状況下で利害が左右されるのは株主だけではない。従業員や地元のコミュニティー、そして国も、利害関係者だ」
【参考記事】次期英首相レースの本命メイは、21世紀版の「鉄の女」?
一方で、長年政権の中枢にいたメイは、ビジネスの規制にはかなり寛容な姿勢で臨んできたし、地方自治体の予算を削減したことでも知られている。メイが公約をどうやって実行に移していくのか、今後も注視する必要がある。
■移民問題には強硬
内相に就任したのは2010年。メイはそれ以来、政権が掲げた移民の年間純増数を10万人以下にするという公約の実現を託されてきた。結果は見るも無残なものだったが、メイは常に強硬な移民政策を推し進めてきた。
2015年にはジョージ・オズボーン財務相が留学生を移民削減の目標数から除外するよう求め、メイと意見が対立したと伝わった。2013年には不法移民対策として、「国に帰れ、さもなければ逮捕する」と警告する全面広告を描いたトラックにロンドン市内を走らせたことで物議を醸した。それほど移民を減らそうとしてきた過去があっても、イギリスのEUからの離脱を問う国民投票で、メイは「残留派」に回った。
【参考記事】英EU離脱の教訓:経済政策はすべての層のために機能しなければ爆弾に引火する
■LGBT(性的少数者)の権利に対する立場は時代とともに変化
1997年に国会議員になったメイだが、当初はLGBTの権利の擁護者でも何でもなく、権利拡大の法案には反対票を投じてきた。同性愛者と異性愛者の性交同意年齢を平等に統一する措置や、同性婚カップルが養子を取ることを認める法案にも反対の立場だった。
ところが次第に議会内でLGBTを取り巻く問題に熱心になり、2013年には最上級の保守党議員の一人として、同性婚を認める法律の制定に尽力するほどになった。また、保守党の議長をしていた2002年、当時のトニー・ブレア首相が「ニュー・レーバー(新生労働党)」というスローガンを掲げて勢いがあったのに対して、保守党は一部の国民から「意地の悪い党」だと揶揄されていると発言し話題をさらったのも彼女だ。
■遅咲きのキャリア
2001年、メイはひどいジョークのネタにされていた。当時、影の内閣で誰を教育相に任命するかについて、ある閣僚がこう言ったという。「閣僚経験もなく、教育のことも知らず、大した経歴もないが、テリーザ・メイはどうだろう」。これは、彼女がすでに2年間、保守党の教育担当の報道官を務めていたにも関わらず全く名前が知られていなかったのを皮肉ったものだ。
メイの政治家としての初期のキャリアはそれほど目立たなかったため、周囲の多くは彼女が身分不相応に早く出世しすぎていると感じていたほど。後年メイが政治家として最も難しい役職の一つとされるイギリスの内務相で歴代最長の任期を務めたことで、世間の彼女に対する見方は以前とはガラリと変わった。
■座を盛り上げるタイプではなさそう
キャメロンが率いた連立内閣で閣僚を務めた自由民主党のデイビッド・ロウズは、当時の内閣を振り返った著書の中で、元副首相のニック・クレッグはメイを「冷たい女」、同じく元閣僚のエリック・ピックルスは「マーシャム・ストリート(保守党の本部に近い通り)の複雑怪奇な美女」と呼んでいたと書いた。最近では、ケン・クラーク元財務相がメイを「ひどく難しい女」だと言ったのをテレビカメラに撮られていた。
私の目にはこれらすべてがあたかも、強力な女性に恐れをなした男たちの不快な心情を表した言動のように映る。クレッグやクラークの発言の真意が何であろうと、メイはしっかりと目標を定め、固い決意で臨むやり手として知られている。小話にうつつを抜かす暇はないはずだ。
ジョシュ・ロウ
これで万事休すだ。デービッド・キャメロン英首相からボリス・ジョンソン前ロンドン市長、英独立党の前党首ナイジェル・ファラージまで、ブレグジットの登場人物はほとんどが背後から刺されて退場した。
そんな中、たった一人生き残った女性がいる――内相のテリーザ・メイだ。辞任するキャメロン英首相の後任として、マーガレット・サッチャーに続きイギリス史上2人目の女性首相になることが決まった。与党・保守党の党首選を争うはずだったアンドレア・レッドサムが撤退を発表し、キャメロンは11日、メイが新首相に就任すると発表した。
【参考記事】英国・メイ内相、首相就任へ:「もう辞めないで!」
メイは一体どのような人物なのか。首相としての力量はいかほどか。以下は、メイについて知っておくべき5つのポイントだ。
■サッチャーと異なり、社会は存在すると考えている
就任決定を受けて11日に英議会前で演説したメイは、首相就任後のビジョンを打ち出した。だがその内容は、同じ女性として何かと比較されてきたサッチャー元首相とは一線を画していた。
社会は存在するという立場や労働者が主役になれる資本主義改革を重視する姿勢はサッチャーとは対照的だ。労働者の代表を取締役会の出席者に加えるという公約を掲げたメイは、次のように述べた。「企業が買収されたり閉鎖される状況下で利害が左右されるのは株主だけではない。従業員や地元のコミュニティー、そして国も、利害関係者だ」
【参考記事】次期英首相レースの本命メイは、21世紀版の「鉄の女」?
一方で、長年政権の中枢にいたメイは、ビジネスの規制にはかなり寛容な姿勢で臨んできたし、地方自治体の予算を削減したことでも知られている。メイが公約をどうやって実行に移していくのか、今後も注視する必要がある。
■移民問題には強硬
内相に就任したのは2010年。メイはそれ以来、政権が掲げた移民の年間純増数を10万人以下にするという公約の実現を託されてきた。結果は見るも無残なものだったが、メイは常に強硬な移民政策を推し進めてきた。
2015年にはジョージ・オズボーン財務相が留学生を移民削減の目標数から除外するよう求め、メイと意見が対立したと伝わった。2013年には不法移民対策として、「国に帰れ、さもなければ逮捕する」と警告する全面広告を描いたトラックにロンドン市内を走らせたことで物議を醸した。それほど移民を減らそうとしてきた過去があっても、イギリスのEUからの離脱を問う国民投票で、メイは「残留派」に回った。
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■LGBT(性的少数者)の権利に対する立場は時代とともに変化
1997年に国会議員になったメイだが、当初はLGBTの権利の擁護者でも何でもなく、権利拡大の法案には反対票を投じてきた。同性愛者と異性愛者の性交同意年齢を平等に統一する措置や、同性婚カップルが養子を取ることを認める法案にも反対の立場だった。
ところが次第に議会内でLGBTを取り巻く問題に熱心になり、2013年には最上級の保守党議員の一人として、同性婚を認める法律の制定に尽力するほどになった。また、保守党の議長をしていた2002年、当時のトニー・ブレア首相が「ニュー・レーバー(新生労働党)」というスローガンを掲げて勢いがあったのに対して、保守党は一部の国民から「意地の悪い党」だと揶揄されていると発言し話題をさらったのも彼女だ。
■遅咲きのキャリア
2001年、メイはひどいジョークのネタにされていた。当時、影の内閣で誰を教育相に任命するかについて、ある閣僚がこう言ったという。「閣僚経験もなく、教育のことも知らず、大した経歴もないが、テリーザ・メイはどうだろう」。これは、彼女がすでに2年間、保守党の教育担当の報道官を務めていたにも関わらず全く名前が知られていなかったのを皮肉ったものだ。
メイの政治家としての初期のキャリアはそれほど目立たなかったため、周囲の多くは彼女が身分不相応に早く出世しすぎていると感じていたほど。後年メイが政治家として最も難しい役職の一つとされるイギリスの内務相で歴代最長の任期を務めたことで、世間の彼女に対する見方は以前とはガラリと変わった。
■座を盛り上げるタイプではなさそう
キャメロンが率いた連立内閣で閣僚を務めた自由民主党のデイビッド・ロウズは、当時の内閣を振り返った著書の中で、元副首相のニック・クレッグはメイを「冷たい女」、同じく元閣僚のエリック・ピックルスは「マーシャム・ストリート(保守党の本部に近い通り)の複雑怪奇な美女」と呼んでいたと書いた。最近では、ケン・クラーク元財務相がメイを「ひどく難しい女」だと言ったのをテレビカメラに撮られていた。
私の目にはこれらすべてがあたかも、強力な女性に恐れをなした男たちの不快な心情を表した言動のように映る。クレッグやクラークの発言の真意が何であろうと、メイはしっかりと目標を定め、固い決意で臨むやり手として知られている。小話にうつつを抜かす暇はないはずだ。
ジョシュ・ロウ