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ようやくヒラリーを受け入れ始めたサンダース支持者

ニューズウィーク日本版 2016年7月14日 18時0分

<党大会直前にサンダースがヒラリー支持を表明し、ようやくサンダース支持者もヒラリーを受け入れ始めた。ソーシャル上では依然としてネガティブな反応が目立つが、現地の取材からは「トランプ阻止」に向けて民主党支持者が団結しつつあることがわかる>

 民主党全国大会を2週間後に控えた12日、ヒラリーとサンダースはニューハンプシャー州で共同イベントを開催した。

 事前にメディアは「サンダースがヒラリー支持を表明するだろう」と報道したが、これまでにも似たような予測が外れているので、「当日にならないと本当のことはわからない」というのが大半の民主党支持者の心情だった。

 このイベントで人々が注目していたのは次の点だ。

●これまでヒラリーを公式に支持することを避けてきたサンダースが、ついに支持を発表するのか?
●もし支持するとしても、嫌々ながらのトーンなのか、それとも自分の支持者を説得する熱心なものなのか?
●サンダース支持者たちは、最終的にヒラリーに投票するのか?
●民主党やヒラリー陣営に不満を抱えるサンダース支持者が、カリフォルニア州で行ったような激しい抗議デモや、会場内でのスピーチ妨害をするのではないか?

 最後の部分は、民主党の今後を予測するものとして重要だ。フィラデルフィアで開催される民主党全国大会がサンダース支持者の抗議で荒れることを恐れる民主党指導部にとっては、このイベントが試金石になるからだ。

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 火曜日の午前9時開場で11時開始というスケジュールだったが、イベント会場のポーツマス高校には午前5時半からすでに行列ができていた。Tシャツやバッジ、プラカードからざっと判断したところ、ヒラリー支持が明らかなのが6割以上、サンダース支持が3割くらい、残りは支持不明、といったところだ。

 行列の先頭部分には「絶対にヒラリーには投票しない(Never Hillary)」と話す情熱的なサンダース支持者が数人集まって記念写真を撮っていたが、その前後に並んでいるヒラリー支持者との間には言葉のやり取りや摩擦はまったくなかった。また、ヒラリーのお面をかぶってEメール疑惑を攻撃するプラカードを持ち歩いている人や、「ヒラリーは犯罪者だ!」と叫びながら歩き回っている若い男性もいたが、少なくとも入り口周辺では団体での抗議運動は見かけなかった。サンダースのTシャツを着た人とヒラリーのバッジを沢山つけた人が、ときには居心地悪そうに、ときには親しく言葉を交わしたりしている、平和な雰囲気だった。

 ヒラリー支持者は、このイベントでサンダースがヒラリーを公式に支持することを明らかに期待していが、サンダース支持者たちの期待は何なのだろう?

 母親と弟を連れてきた高校生のポールは、サンダースが立候補を発表する前にスピーチの一部をテレビで観たのがきっかけで興味を持ち、出席者がほとんどいない講演会に足を運び、それまで政治に興味がなかった母親まで引きずり出してサンダースファンにしたという筋金入りのサンダース支持者だ。



サンダース支持の高校生ポール(左)と家族(筆者撮影)

 彼はこのイベントについて、「サンダースがヒラリーを公式に支持した後、ヒラリーがサンダースを副大統領候補として発表する」というシナリオを望んでいるというが、「たぶんないだろうね」と諦めた様子で語った。「それでも、ヒラリーや民主党にプログレッシブなアジェンダを多く取り入れさせたことで、すでにサンダースは多くの勝利を得ている。このイベントを楽しみにしている」と、終始笑顔だった。

 ポールのように政治イベントそのものを楽しみにしているサンダース支持の若者が多いのは意外だったが、もちろんそういった人たちばかりではない。

 フェイスブックやツイッターで活発にサンダースを応援してきたという30代くらいの女性ミシェルは、「バーニーにはヒラリーを支援してほしくないし、彼が支援してもヒラリーには投票しない」と、はっきり断言していた。「バーニーが今日何を語るのかはわからない。彼が民主党の指名候補にならないのなら、無所属(あるいは第三政党)で候補として大統領選に出馬してほしい。まだ(彼が大統領になるという)希望は捨てていない」と強い口調で語った。

 民主党にとって、このイベントの最大の目標は、サンダースが公式にヒラリーを支持することで、分裂していた民主党を団結することだった。今回も、イベントが始まる時間まで、サンダースの支持者が「バーニー! バーニー!」と大声でチャントすると、ヒラリー支持者が「ヒラリー! ヒラリー!」とそれを打ち消そうとするスポーツ大会のような光景が繰り広げられた。

 これはいつものことだが、今回はそれらの声に「ユニティ!(団結) ユニティ!」というチャントが覆いかぶさり、多くのヒラリー支持者がそちらに切り換え、最後には「ユニティ」の声が会場を圧倒したのが印象的だった。

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 イベントではまず、環境問題を取り上げたノンフィクション『自然の終焉』の著者であるビル・マッキベンが壇上に立った。彼はサンダースの支持者で、アドバイザーでもある。マッキベンが、予備選でサンダースが達成したことを語り始めたとき、会場の一部に集まっていた熱心なサンダース支持者らの間に緊張が走った。この後にサンダースが敗北を認め、ヒラリー支持を明らかにする下準備であることが明らかになってきたからだ。

 その後、サンダース自身がスピーチに立ち、「今日ここに来たのは、なぜ私がヒラリー・クリントンを支持するのか、なぜ彼女が次期大統領になるべきなのか、それをできる限り明瞭にするためだ。(中略)クリントン国務長官は、民主党の指名を獲得したのであり、私はその健闘を祝う」と発表したときには、抱き合って涙ぐむ支持者の姿も見えた。サンダースのスピーチが終わるやいなや、前述のミシェルや周囲の情熱的なサンダース支持者たちは、ヒラリーの演説を待たずに会場を去った。

 野次やネガティブな反応は、もちろん誰もが予想していた。意外だったのは、それが予想したほどではなかったことだ。同じくニューハンプシャーで2月に開催された民主党のイベントとは比べものにならないほど温和な雰囲気だ。出席していたサンダース支持者たちの率直な言葉から浮かんでくるのは、ふだんメディアにはあらわれない大多数の支持者の心理だ。

 先の高校生ポールと母親のリサは、サンダースのことを親しい家族のように語るほど愛着を抱いているが、一部のサンダース支持者のように「サンダースが第三政党候補として出馬する」ことや「アメリカ緑の党のジル・スタインに投票する」ことには賛同できないと言う。「危険なトランプが大統領になる道を作る」からだ。ポールもリサも、積極的ではないけれど、トランプを阻止するためにヒラリーに投票すると言う。



党大会前の試金石となったニューハンプシャーのイベント(筆者撮影)

 ヒラリーはこの日のスピーチで、「最低賃金を1時間15ドルに引き上げる」「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)反対」「公立大学の授業料無料化」「富裕層や企業への課税強化」「ウォール街の金融機関への規制強化」といったサンダースが主張してきた政策を高いプライオリティとして強調した。これはサンダースの活動の成果と言えるだろう。また、ヒラリー自身が公約していた政治資金改革についても、サンダースとその支持者を尊重する形であらためて公約した。

 取材に答えてくれたサンダース支持者は、これまでヒラリーの演説を直接聞いた体験がまったくなかった。だから、多様性あるアメリカの価値を強調する、躍動的で説得力のあるヒラリーのスピーチに心を動かされた人が少なくなかったようだ。

「スピーチは確かに素晴らしかったけれど、口先だけの約束かもしれない」と渋い口調で語る50代女性のような人も確かにいたが、「サンダース支持だったが、本選ではヒラリーに投票する」と話した人のほうが多いのは意外だった。10代の若者のほうが柔軟だというのも意外だ。ソーシャルメディアで目立つのは、攻撃的な若い男性の支持者なのだが......。

 予備選ではサンダースの熱心な支持者だったという19歳のエリックは、「ソーシャルメディアで目立つ極端な意見は、実はごく一部。多くの人は、発言しないから」と言う。その発言しないマジョリティは、11月までにヒラリーを受け入れるだろうし、それ以外の人は、たとえサンダース自身が何を言っても気を変えることはないだろうと。

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 イベント後、インターネットにあふれたのは、予想通り、サンダース支持者による「吐き気がする」「バーニーに裏切られた」というネガティブな反応だった。しかし、同じニューハンプシャーの以前のイベントと比較しても、サンダースの情熱的なムーブメントがすでにクールダウンしているのが見える。

 2008年の予備選で敗れたヒラリーの支持者は、「ぜったいにオバマには投票しない」と誓った。しかしいったん本選が始まると、積極的にオバマを応援するヒラリーに心を動かされてオバマを支援し、彼を勝利に導いた。同様にサンダース支持者の過半数は、11月までにはヒラリー支持をしぶしぶながらも受け入れることになるだろう。

<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>

≪筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」≫

渡辺由佳里(エッセイスト)

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