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マンガだけじゃない! 日本の子どもの読書量は多い

ニューズウィーク日本版 2016年7月19日 15時10分

<主要先進国で比較すると、日本の生徒のマンガの読書量は抜群に多いが、意外にも小説を読む頻度も一番高い。理想的なのは、マンガに大きく偏っている読書嗜好を、小説やノンフィクションにシフトすること>

 子どもの活字離れが指摘されて久しい。データから見ても、10代後半の「趣味としての読書実施率」(過去1年間)は、1991年の52.6%から2011年の45.0%に低下している(総務省『社会生活基本調査』)。スマホや携帯ゲームなどに時間を費やしているためだろう。

 この傾向に歯止めをかけようと、子どもの読書を推進する取り組みが行われ、法律も施行されている(子どもの読書活動の推進に関する法律)。同法第2条では、「読書活動は、子どもが言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないもの」と言及されているが、まさにその通りだ。

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 子どもが本に触れる頻度は国によって違うと考えられるが、国際比較をするとどうなるだろうか。経済協力開発機構(OECD)の国際学力調査「PISA 2009」では、15歳の生徒に対して、4つのジャンルの書籍をどれくらいの頻度で読むか尋ねている(選択肢は「全く読まない」「年に数回」「月に1回」「月に数回」「週に数回」)。主要国について、「週に数回」の回答割合をグラフにすると<図1>のようになる。



 コミック(マンガ)を読む頻度の高さは、日本が群を抜いている。マンガ発祥の地の面目躍如と言ったところだろうか。マガジンも、多くがマンガ雑誌と思われる。注目されるのは、実はフィクション(小説)を手に取る頻度も日本が最も高いことだ。

 お堅いノンフィクション(論説)でみると,日本は下から2番目になる。このジャンルでは韓国が最も高いが、社会状況の厳しさから社会問題に関心を持つ青少年が多いのではないだろうか。米英独では、コミックよりノンフィクションが読まれていることも注目される。



 比較の対象を増やして見てみる。青少年が嗜好するコミック(マンガ)とフィクション(小説)の座標上に、世界の74カ国を配置したグラフを作ってみた<図2>。



 日本は、グラフ上の右に外れた位置にある。日本の子どものマンガ嗜好は、世界で最も高い。他の先進国は左側にあり、マンガよりも小説が好んで読まれている。数としては、そのような社会の方が多い(斜線より上)。

 これをどう見るかだが、ストーリーを絵入りで分かりやすく伝えるマンガは日本発祥の誇るべき文化だ。この中にも活字はあり、一概に悪いとは言えない。筆者の中学時代の国語教師は「マンガでもいいから読め」とよく言っていた。

 しかし、親切な絵ばかりに頼っていると想像力が訓練されないし、直観(印象)依存型の思考回路ができてしまうという問題もある。マンガばかり読んでいる子どもは人の話を長く聞けないという説もあるが、そのような影響も否定できないだろう。

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 日本は、マンガだけでなく小説を読む頻度も他の先進国より高いが、グラフでの位置がもっと上にシフトすると理想的だ。学校図書館の利用時間を延長する、子どもの生活にゆとりを持たせるなど、やるべきことはいろいろある。強制的な「朝の10分間読書」だけが有効ではないはずだ。

 子どもの読書活動の推進に関する法律では、「すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない」と定めている(第2条)。間もなく夏休みの時期に入るが、この理念が実現されるよう教育関係者の尽力を望みたい。

<資料:OECD「PISA 2009」>

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舞田敏彦(教育社会学者)

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