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大胆FBで有名だったパキスタン女性が兄に殺された事件で、「名誉殺人」防止法案提出へ

ニューズウィーク日本版 2016年7月22日 17時20分

<ソーシャルの過激な投降で有名になったパキスタンの女性が兄に殺害された事件で、シャリフ首相は家族が主に女性を殺害する「名誉殺人」を今後防止する意向を表明。法改正のための法案が議会に提出された>(画像は殺害されたカンディールがフェイスブックに投稿していた写真)

 パキスタンの保守的な女性観を変えたいと、ソーシャルメディアに挑発的な投稿をしていたカンディール・バローチ(本名はファウジア・アジーム、年齢は推定20代)が、先週末に兄に絞殺される事件が起きた。パキスタンではこうした家族による「名誉殺人」を防止する法案がまもなく議会で採決される。



 パキスタンのシャリフ首相の娘で政治活動家ナリアム・ナワズ・シャリフは今週、ロイター通信のインタビューに答え、法案が議会に提出されると述べた。「2週間程度の間に」採決が行われる見通しだという。

「(妹殺しを)誇りに思う」

 殺害されたカンディールはフェイスブックで、「社会に虐げられ支配される女性たちを勇気付けたい」と宣言し、80万以上の「いいね!」を集めていた。今月4日の最後の投稿には、「間違った信念と古い慣習に閉じこもった人々の伝統的な価値観を変えたい」と書いていた。カンディールは17日、パンジャーブ州ムルターン近郊の自宅で兄ワシームに睡眠薬を飲まされて絞殺された。



 ワシームは、「(妹殺害を)誇りに感じている。私たちの家族に不名誉をもたらしたからだ」と供述している。

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 パキスタンの人権活動家は数十年前から、家族が主に女性を殺害する「名誉殺人」を防止する法改正を求めて活動を続けてきた。国際人権団体「イクオリティ・ナウ」のヤスミーン・ハッサンによると、カンディール殺害の他にもこの動きを促す出来事が続いている。今回の事件の直前には、パキスタンのイスラム法評議会が「名誉殺人」はイスラムの教えに反していると宣言した。

 今年3月には、パキスタン人の女性映画監督シャーミーン・オベイド・チノイが「名誉殺人」を逃れた女性の姿を追ったドキュメンタリー『The Girl in the River: the Price of Forgiveness』がアカデミー賞短編ドキュメンタリー部門で最優秀作品賞を受賞した。この映画を見たシャリフ首相は、すぐに法改正をしたいと語った。

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「こうした事例が重なって(法改正が)実現することになった。この成果は大変、感慨深い」と話している。



 パキスタンの現行法の問題は、被害者の家族が加害者を「キサース・ディヤット法」という慣習法によって免罪できるところにある。現状、「名誉殺人」は被害者の家族に対する犯罪で、国家が裁く犯罪にはなっていない。

「『名誉殺人』では特に、被害者と加害者の家族は同じだ。家族が殺害を実行している」とハッサンは説明する。「家族は『名誉殺人』として申し立て、すぐに加害者を免罪する」

 カンディールの殺害後、パキスタン政府は異例の介入を行っている。彼女の家族が「名誉殺人」を申し立てて兄を免罪する前に、国として殺人容疑で起訴したのだ。

保守化するイスラム社会

 パキスタン人権委員会が今年発行した年報によると、昨年は1100人近い女性が親族の手で殺された。2014年の約1000件、2013年の869件と比べても増加している。

「イスラム世界は以前より保守的になっており、女性に対する態度にそれが表れている」とハッサンは言う。「女性の社会における役割、外見、行動、すべてが政治的な問題になってしまう。この傾向を変えなければ」

 ハッサンは、パキスタンで見た最悪の名誉殺人の例として、1999年のサミア・イムラン(32)が、家族の依頼を受けた男に頭を銃で撃たれて死んだ事件を挙げる。イムランは暴力的な夫と離婚しようとしていたが、家族はそれを望まなかったのだ。

 何も変わらなかった当時と比べると、今は大きな一歩を踏み出すときだ。

ルーシー・ウェストコット

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